表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/307

106話 ラドウィードの騎士

 一方、戦場全体の指揮にあたっていたヨクハのムラクモに、パルナからの伝声が入る。


『戦況報告。ソラ=レイウィング、敵大将アルディリア=シャルマ及び、敵大将騎フィランギを撃破!』


 その報告を聞き、ヨクハは胸の前で両手を握り締め、一人微笑んだ。





 場面は戻り、アルディリアを倒す事に成功したソラは、落下していくフィランギに向け騎体を加速させ、フィランギが地面に激突する寸前にカレトヴルッフで胴体部を抱え、飛翔した。


『どういうつもり?』


 自身を救うかのようなソラの突然の行動に、アルディリアは歯噛みしながら問う。対し、少しだけ沈黙した後で答えるソラ。


「俺は……リアさんを死なせたくない」


『なんですって?』


 敵である自分の命を取らない、死なせたくないという感情論。それが何故なのか、どこから来るのか……利用したいという損得勘定? 同情? アルディリアにはソラの行動と心の内が到底理解出来ずにいた。そんなアルディリアに、ソラが自身の想いを打ち明ける。


「浄化の宝珠を作ったリアさんに、死ぬ筈だった封怨の神子達がどれ程命を救われたか、どれ程の封怨術師の心が救われたか」


 自身も封怨の神子であったソラ。自身と同じように体内に怨気を封印されて死んでいった子供達や、自身の心を痛めながら封怨を行ってきた封怨術師達に対し、内心ではずっとただならぬ想いを抱いていたのだった。


 しかし、そんな封怨の神子や封怨術師達の未来を救った浄化の宝珠の開発者に対し、ソラは以前から感謝と尊敬の念を抱いていた。そしてそれだけではなくーー


「それに、リアさんが死ねばパルナちゃんが悲しむ」





 ソラの言葉を聞き、伝令室の中でパルナが目に涙を溜めた。


「……ソラ」


 



 すると直後、ソラのカレトヴルッフにヨクハからの伝声が入る。


『ソラ何をやっておる、お主まだアルディリアを討ち取っておらぬのか?』


 その指摘に、少しだけ考え込むような素振りを見せた後、毅然とした態度ですぐさま返すソラ。


「団長、リアさ……アルディリアはこのまま生け捕る」


『なんじゃと?』


 突拍子もないソラの発言で驚くヨクハに、ソラは告げる。アルディリアは醒玄竜(せいげんりゅう)教団から派遣されている騎士、いくら報酬でエリギウス帝国に雇われてるとはいえ、今醒玄竜教団所属の騎士を殺すのはリスクが高い。だからまずは捕虜として捕えて、奴らの出方を待った方がいいのではないか、と。


 それは苦しい言い訳ではある。しかしソラがアルディリアを死なせない為に出来る最大の提言であった。


『……ふむ、確かにお主の言う事にも一理ある』


 すると暫く黙りこくった後に、ヨクハが納得したように呟き、命令する。


『ならばそやつはお主が責任を持って捕えておけ、よいな』


「ああ!」


 ヨクハの承諾に、ソラは顔を綻ばせた。同時に、伝令室に居るパルナは、アルディリアが死なずに済んだ事で安堵したかのようにポロポロと大粒の涙を流した。


 直後、アルディリアからソラへと伝声が入る。


『……甘いわね、もう勝敗は決したとでも思っていたの?』


 アルディリアがそう尋ねた瞬間、空域を覆い尽くしていた火の粉が渦を巻くように一カ所に集結し始めた。


 大聖霊の黙示、それは大聖霊の力を使役する大聖霊獣が顕現しようとする前兆。そして大聖霊獣が完全に顕現する為には大量の刃力と闘争の意思が必要となる。つまり大聖霊の黙示の中で大規模な戦闘を行う事で、大聖霊獣は目覚め顕現するという事だ。


 そう、条件は既に揃っていたのだ。


 ソラは、空に集結する巨大な炎の塊を見上げながら、生唾を飲み込み、そして呟く。


「炎の大聖霊獣……イフリート」


 これまで、大聖霊の黙示が発生する空域の中で顕現した大聖霊獣は五体。光のルー、水のウィンディーネ、土のヨルムンガンド、雲のネフェレ、風のフェンリル。そしてこの日、六体目である炎の大聖霊獣イフリートが今まさに顕現しようとしていた。


 すると今度は、アルディリアに対し、ヨクハからの伝声が入る。


『アルディリア、お主の目論見はわかっている』


「へえ」


玉鋼(たまはがね)の子を餌にわしらをおびき出し、大聖霊の黙示が発生するこの空域で大規模な戦闘を行う事で大聖霊獣を顕現させ、その力を利用して大量の戦死者を発生させようとした。顕現した大聖霊獣は、空域内に居る敵と認識したものを破壊し尽くすまでその姿を現し続けるらしいからのう』


「…………」


『お主の目的は怨気を大量に発生させ、それを封印させた浄化の宝珠を集める事じゃ、何者かにそれを献上する為にな』


 ヨクハの指摘を受け、アルディリアの顔色が変わる。


「そこまで分かっていながら……」


 ーーそれでも……あなた達は退く訳にはいかない、大聖霊獣を倒し屈服させる事が出来れば手に入る大聖霊石が、喉から手が出る程欲しいから。だから犠牲を出しても戦わざるを得ない筈よ……例え部隊が半壊したとしても。


 すると、ヨクハがソラを含め全ての騎士に向けて指示を出す。


『〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉及び〈因果の鮮血〉全騎士に告ぐ、全騎紅玉の空域外まで離脱せよ!』


 相互伝声が繋がった状態であったため、その指示はアルディリアにも届いており、それを聞いたアルディリアが唖然とした。


「そんな、みすみす目の前の大聖霊石を諦めようというの?」


『誰が見逃すと言った? 大聖霊獣イフリートとやらはわしが倒す』


 ヨクハの発言に、再び唖然とするアルディリア。


「まさか大聖霊獣と一騎討ち? そんな馬鹿げたこと出来る筈が!」


 すると、ソラはカレトヴルッフでフィランギを抱えたままラージル島に背を向け、他の騎士達と共に撤退を開始する。


「本気で撤退する気? あなた自分の騎士団の仲間を見殺しにするというの?」


 その行動を理解出来ないと言った様子のアルディリアに、ソラは淀みなく返す。


『あの人はやると言ったら必ずやるよ、だから多分大聖霊獣も一人で倒すよどうせ』


「なっ!」


『それとリアさん……俺はラドウィードの騎士なんかじゃない、本物のラドウィードの騎士はあの人だ』


 アルディリアは、晶板に映し出されたソラの表情を見て理解する。不安一つ無い表情、何かを信じ切るような真っ直ぐな瞳、それは紛れも無くヨクハに対する揺るぎ無い信頼を表していた。


 大聖霊獣と呼ばれる未知で強大であろう敵を前にして尚、〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の騎士達は、ヨクハが打ち勝つであろう事を純粋に信じていたのだった。





 場面は変わり、紅玉の空域にはヨクハと、デゼルとエイラリィの三人だけが残っていた。


 城塞に玉鋼(たまはがね)の子達が居る可能性を捨てきれない為、デゼルのベリサルダは城塞の守護にあたり、エイラリィのカーテナがその補助にあたる。


 エイラリィのカーテナがその手に持ち、腰部に線で繋がれた杖状の聖霊騎装、接続式刃力補給杖(カドゥケウス)をベリサルダの背部に接続させ、自身の刃力をいつでも送れるように準備を完了させた。


「この役目は重大ですねデゼル、それに団長が敗けたら多分私達も死にますよ」


『うん、でもまあ団長なら大丈夫だよ。それより僕達は全力でこの城塞を護らないとね』


「そうですね」


 そしてエイラリィとデゼルもまた、ヨクハに対し絶大な信頼を寄せていた。


 やがて、集結し巨大化した炎の塊は次第に形を造っていく。ゆっくりと形成されていくそれはどこか人型のようでもある。

 

 迫りくる決戦の時、それを感じながら、ムラクモの中でヨクハは意外にも憂鬱そうに深く溜息を吐いていた。

106話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ