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105話 八咫鏡ーーヤタノカガミ

 幻影剣を用いたソラの斬撃により、全ての思念操作式飛翔氷刃(ワグテイル)を失い、今度はアルディリアが追い詰められた。だが、アルディリアはそれでも冷静に戦術を構築する。


 ――まだよ、私のフィランギの方が飛翔力は高い。距離を取って射術戦に持ち込み続ければ私の優位は変わらない……それにもうすぐあれ(・・)が。


 アルディリアがそう脳内で呟いた次の瞬間、カレトヴルッフの両肩部が開放され、複数の何かが射出される。


『行け、ヤタノカガミ(・・・・・・)


 ソラがヤタノカガミと呼ぶそれはソードの拳大程の、刃状の物体であり、形状は八角形、似てはいるが思念操作式飛翔刃(レイヴン)とも思念操作式飛翔氷刃(ワグテイル)とも違う、アルディリアが初めて見る聖霊騎装であった。


 その聖霊騎装は全部で八基。アルディリアのフィランギの周囲を包囲すると、飛び交いながら、それぞれ八角形の光の膜を形成させた。


 続けざま、ソラのカレトヴルッフは左手に握る刃力弓(クスィフ・ドライヴアロー)を構え、光矢を二連射させる。


「こんなもの!」


 その光矢の軌道をアルディリアは軽々と先読みし、回避する。


 しかしその光矢は、フィランギの周囲を浮遊する八角形の光の膜に着弾すると、反射され、更に別の光の膜に着弾し再度反射ーー先程光矢を回避したフィランギの元へと襲い掛かった。


「きゃあっ!」


 二発の光矢が、フィランギの背部と右肩部に直撃し、その衝撃で悶えるアルディリア。そしてその聖霊騎装の性質を静かに理解した。


「これは……跳弾(ちょうだん)!」




※      ※      ※      

      


 十日前。


 ソラはカレトヴルッフに装備する新しい肩部聖霊騎装の説明を、シオンから受けていた。


「こいつは自律浮遊式刃力跳弾鏡(ヤタノカガミ)つってな、簡単に言えば跳弾を利用して全方位攻撃を行うっていう聖霊騎装だ」


「……全方位攻撃」


「ああ、目には目を、全方位攻撃には全方位攻撃をってな」


 するとソラはシオンの言葉に「でも蒼衣騎士の俺に全方位攻撃って出来るんですか?」と不安げに首を傾げた。


 対し、シオンは告げる。蒼衣騎士に思念操作式飛翔刃(レイヴン)のような思念操作式の、全方位攻撃用の聖霊騎装が使えないのは、覚醒騎士のように優れた空間把握能力や同時並行思考能力がないからである。だがこれにはそれは必要ないのだと。


 そして自律浮遊式刃力跳弾鏡(ヤタノカガミ)は、自律の特性を持つ雲の聖霊の意思と、反射の特性を持つ光を模倣させた闇の聖霊の意思を組み合わせた聖霊騎装で、自動で敵の周囲を動きながら浮遊し、刃力弓の光矢を反射する光の鏡を展開するのだと説明する。


「自動で?」


「ああ、自動で相手の周囲を動くから使用者本人には空間把握能力とか同時並行思考能力は必要ねえって訳だ」


「はーなるほどお」


「んで、跳弾ってのはとにかく軌道が読み辛く、相手の虚を突く事が出来る――例え相手が聖衣騎士でもだ」


 その言葉に希望を見出し、ソラは拳を握り締める。だが、跳弾は軌道が読みづらい反面、こちらも狙った場所に当てるのは至難の技、反射する回数が多くなれば多くなる程だ。そして覚醒騎士の虚を突きたいなら、最低二回は反射させなくてはならないとシオンが説く。


 跳弾を二回以上させ、目標に光矢を当てる。その難易度の高さにソラが生唾を飲み込むとシオンは更に続ける。


 この聖霊騎装は自動で敵の周囲を飛び交うが、そのパターンはある程度決まっている。つまり何度も何度も愚直に訓練を繰り返す事で、動きのパターンや反射角度を掴め、そうすれば狙った所に光矢を叩き込めるのだと。


「まあ、もうあんまり時間はねえが、こいつを使いこなせれば相手が聖衣騎士だろうと必ず裏をかける。裏をかければお前の斬撃を叩き込める。特性も修得方法もお前さん向きだと思うがどうだ?」


「……いいかも、俺使ってみるよシオンさん」


 こうして空間浮遊式刃力跳弾鏡(ヤタノカガミ)をカレトヴルッフの肩部聖霊騎装として装備させたソラは、その日から血の滲むような訓練が更に加わった(・・・・・・)


 この聖霊騎装の訓練はソードと実物を使うしかなく、刃力弓(クスィフ・ドライヴアロー)は出力を抑えたものとはいえ、刃力の消耗は免れない。


 ソラは、プルームの竜殲術(りゅうせんじゅつ)で操られた(つぶて)を弓銃で射ち落とすという耐 思念操作式飛翔氷刃(ワグテイル)の訓練の後に、日課である剣の素振り一万回を行い、更にその後で空間浮遊式刃力跳弾鏡(ヤタノカガミ)の訓練を行い毎日刃力が尽きて倒れるまでそれを繰り返した。


 決戦まで残り一週間。時刻は深夜。この日もソラはカレトヴルッフを操刃し、刃力が尽き果てるまで空間浮遊式刃力跳弾鏡(ヤタノカガミ)に光矢を射ち続け、やがては気を失い、カレトヴルッフと共に闘技場に倒れ込む。


 そんな様子を遠目で眺める、ヨクハとシオンの姿があった。


「毎日毎日よくやるよなあ、あいつあんな努力家だったっけか? そんなイメージ全然ねえんだけどなあ」


 無茶な訓練を繰り返すソラを心配するような素振りのシオンに、ヨクハは少しだけ微笑んで返した。


「普段はあんなだけど、やると決めたらとことんまでやる。戦うと決めたら恐怖も雑念も振り払って戦う。思った通りこの子には感情制御の修行なんて初めから必要なかったみたいだね」


「まあ、ああ見えて本番向きって事なのかね?」


 すると、突然神妙な面持ちでシオンを見るヨクハ。


「ねえ師匠、残り一週間……ソラは間に合いそう?」


 ヨクハの問いに、シオンは腕を組んで口をへの字にさせて考え込んだ。


「うーん、実戦で使いものになるかならないかは半々ってとこか」


「……半々か」


 シオンの返答に、少しだけ俯くヨクハ。するとシオンはヨクハの頭に無骨な手を置いた。


「なーに不安げな表情浮かべてんだ」


 シオンの行動に、恥ずかしそうに頬を赤らめるヨクハ。


「し、師匠!」


「信じてんだろ? ならドシッと構えてろよ師匠(・・)


「なっ、私は別にあの子の師匠になったつもりも、なるつもりもないんだからね」


「あ、そうなの?」


 師匠という立場を頑なに拒否するヨクハに対して、シオンは微笑し、心の中で呟いた。


 ――どう見ても師弟って感じだけどな。



※      ※      ※      

      

      


 アルディリアはフィランギの被弾部分に視線を向ける。


「直撃……でもダメージはかなり浅い、ただの牽制目的?」


 自律浮遊式刃力跳弾鏡(ヤタノカガミ)は雲と闇の聖霊の意思を利用しているため、光属性のカレトヴルッフとの相性はすこぶる悪く、致命打を与える程のダメージが見込めないのはアルディリアの読み通りであった。


 実際に光矢が直撃したフィランギも装甲の深部へは損傷が及んでいない。


 しかし、すぐさまソラが追撃を開始する。ソラは、今度はカレトヴルッフの刃力弓(クスィフ・ドライヴアロー)から光矢を三連射させ、その内二発は二回反射し、一発は三回反射し、アルディリアの反応速度と先読みを越え、再び騎体へと直撃させた。


「ぐうっ!」


 その衝撃に怯むアルディリア。いくらダメージが浅いとはいえ、このまま直撃を受け続ければいつかは致命傷になり得る。


 直後、アルディリアとフィランギに剣の紋章が輝き、アルディリアはこの状況を打破すべく竜殲術〈隠牙(かくしきば)〉を発動、八基の自律浮遊式刃力跳弾鏡(ヤタノカガミ)全てを視界に捉えると、自律浮遊式刃力跳弾鏡(ヤタノカガミ)を十分の一程の大きさに縮小させた。


 これで跳弾は使えない。アルディリアがそうほくそ笑んだ次の瞬間、先程ソラのカレトヴルッフが思念操作式飛翔氷刃(ワグテイル)に放っていた凄まじい斬撃が脳裏を過ると同時、自身がカレトヴルッフから視線を切らせてしまった事実に気付き、戦慄が走る。


 そしてすぐさま目前のカレトヴルッフに視線を戻した瞬間、そこには既にフィランギの間合いに入り、剣を上段に構えるカレトヴルッフの姿があった。


 ――やはり跳弾は牽制!


 アルディリアは冷汗と共にフィランギの左腰の鞘から咄嗟に刃力剣(クスィフ・ブレイド)を抜き、受け太刀の姿勢を取った。


『悪いなリアさん……この距離で負けるわけにはいかない』


 刹那、カレトヴルッフの刃力剣クスィフ・ブレイドから閃光が(はし)る。


「嘘……でしょ?」


 その一撃は、フィランギの刃力剣(クスィフ・ブレイド)の刀身を切断し、左頸部から右脇にかけてを斬り飛ばした。


 そして頭部を失い、操作不能となったフィランギは、砂漠へと落下していく。


「これがラドウィードの騎士……まさか、これ程とは」


 決した勝敗、アルディリアは敗北を受け入れようとしたのか、そっと目を閉じた。

105話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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