104話 牙隠す者
アルディリアは、操作する残り四基の思念操作式飛翔氷刃で一斉にカレトヴルッフへと攻撃を仕掛けた。
だが、ソラのカレトヴルッフはすぐに刃力弓から光矢を発射させ、まずは一基の思念操作式飛翔氷刃を射ち落とすと、三基の思念操作式飛翔氷刃を躱しざま、再び光矢を発射させて一基を射ち落とし、螺旋を描きながら旋回する残りの二基を光矢の乱射で射ち落とした。
自身が操作する計六基の思念操作式飛翔氷刃を全て射ち落とされ、アルディリアは爆散する破片の煌めきを眺めながら表情を殺した。
ーー1ヶ月前は思念操作式飛翔氷刃に全く対応出来ていなかったというのに……本当の牙を隠していたとでもいうの?
心の中で呟きながら、深く息を吸い、そっと目を瞑るアルディリア。
「なら私も見せてあげるわ――隠している本当の牙を!」
すると、アルディリアとフィランギの額に剣の紋章が輝き、同時にアルディリアはフィランギの両肩部から残り六基の思念操作式飛翔氷刃を射出させる。
「ハアッハアッハアッ!」
一方、射術によりフィランギの思念操作式飛翔氷刃を射ち落とす事に成功したソラであったが、研ぎ澄まされた極限の集中力でそれを行った事による疲弊から、肩で息をする。するとそんなソラに、パルナが称賛の言葉を贈る。
『凄い、凄いわよ。あんた思念操作式飛翔氷刃に完全に対応出来てるじゃない』
「はは、フリューゲルやプルームちゃん、パルナちゃんのおかげだよ」
『わ、私は別に何も……』
「パルナちゃんの声で、力が出た」
突然の、ソラの素直な言葉に頬を赤くするパルナ。
「自分が戦う理由、自分が前に出なきゃいけない理由……きっとその先にエルが居るからなんだって改めて思い出させてくれた」
すると、ソラが続けたその言葉を聞きパルナが表情を寂しくさせ、それでも振り絞るような笑顔を浮かべてみせた。
次の瞬間、対峙するフィランギの額に剣の紋章が輝き、両肩部から思念操作式飛翔氷刃が射出される。
『来るわよソラ!』
「竜殲術……向こうも本気って事か!」
アルディリアが初めて竜殲術を発動させるも、その能力の全容は一切分からない。ソラは敵の一挙手一投足、自身の状態、周囲の変化、それらに全力で警戒を注ぐ。
そして、ソラはすぐに異変に気付くのだった。
「うそ……だろ!」
フィランギから射出され、カレトヴルッフの周囲を旋回していた思念操作式飛翔氷刃が視界から突如消えたのだ。――否、厳密に言えば完全に消えた訳では無かった。
目を凝らし見えたもの、それは周囲を飛び交う小さな何か。そしてソードの指先程の大きさのそれは、十分の一以下の大きさに縮小した思念操作式飛翔氷刃であった。
アルディリアの持つ竜殲術〈隠牙〉、それは対象の物質を縮小させる能力であり、生物等の有機物を小さくする事は出来ない。また、人が搭乗している状態のソードを縮小させる事は出来ないが、人の搭乗していない状態のソードであれば縮小させる事は出来る。
つまり、この能力で探知器に反応しない状態までソードを縮小させ、更に持ち運び出来る状態にする事で敵の不意を突くことを可能とさせた。つまり探知器に映らずに奇襲や挟撃を行ったカラクリはこの能力が起因していたのだ。
「くそっ!」
ソラは縮小した思念操作式飛翔氷刃を何とか目で追いつつ、刃力弓を向ける。そして訓練通り軌道を先読みしつつ光矢を放った。
しかし、その光矢は虚空を穿ち彼方へと消える。続けざま第二、第三と光矢を放つも同じように思念操作式飛翔氷刃には当たらない。以前より射術の技量は著しく向上したとはいえ、高速で動き、遥かに小さくなった的を狙い落とせる域には、ソラはまだ達せていなかったのだ。
この状態は危険だと判断したソラは、カレトヴルッフを最大速度で上昇させ、思念操作式飛翔氷刃の包囲からの脱出を図る。更に、上空から刃力弓を構え、光矢を連射させた。
対しアルディリアは、縮小された思念操作式飛翔氷刃を巧みに操り、無造作に連射された光矢を軽々と回避させながら、カレトヴルッフへと追撃する。
思念操作式飛翔氷刃が螺旋を描きながら、カレトヴルッフに襲い掛かった。
「ぐっ!」
更に、思念操作式飛翔氷刃はカレトヴルッフに触れる瞬間にだけ元の大きさへと戻って攻撃、ソラはそれを左前腕部の盾でぎりぎりで防いだ。
だがそれにより、盾が凍結を始め、左前腕部まで凍結が及ぼうとした瞬間、ソラはカレトヴルッフの左前腕部から盾を切り離して腕部の凍結を回避した。
――駄目だ、この状態になった思念操作式飛翔氷刃は今の俺じゃ射ち落とせない……このままじゃ。
アルディリアが発動させた竜殲術と思念操作式飛翔氷刃の複合技に対し、ソラは成す術が無くなり絶体絶命へと陥る。――その時だった。
『ソラ、小さくなった思念操作式飛翔氷刃、斬撃でなら斬り払える?』
突如パルナからの伝声が入る。
「え? まあ斬撃でなら……何とかなるかもしれないけど、でも」
パルナからの問いに、言い淀みながら返すソラ。それは出来たとしても結局は以前と同じように腕部を凍結させられるからだ。
『だったらいける。あんたが一生懸命射術の訓練してたから言わなかったけど、あんたにはあれがあるでしょ?』
パルナのその言葉に、ソラは表情をハッとさせた。
「あ、そういえば忘れてた……そうか、何で誰も言ってくれないかなあ」
そして、ソラはぼやきながらカレトヴルッフが右手に握る剣を前に出して構え、斬り払いを行う姿勢を見せた。
「馬鹿ね、一基だけなら払えても……それで終わりよ!」
見えている結果、そして結末。アルディリアは嘲笑と共に、旋回する思念操作式飛翔氷刃によりカレトヴルッフを包囲し、まずは背後から一基を射出させ狙い撃つ。
しかし、ソラのカレトヴルッフは振り向きざまに鋭い剣閃でその一基を斬り払った。
「やるわね、でも」
勝敗は決した。そう思ったアルディリアは口の端を上げる。そして止めと言わんばかりに、上下左右から四基の思念操作式飛翔氷刃を一斉にカレトヴルッフに向けて射出させた。
次の瞬間、カレトヴルッフから放たれた無数の閃光が、四基の思念操作式飛翔氷刃を切断し、空中で爆散させた。
「なっ! なぜ刃力剣が凍結していないの?」
今度はアルディリアが驚愕する。自身の能力で縮小し、更に複雑に飛び交う思念操作式飛翔氷刃を一瞬で斬り払ったソラのその凄まじい剣技に対してもだが、先程も今も思念操作式飛翔氷刃を斬り払って尚、凍結していない刃力剣に対してもだ。
「どういうカラクリだが知らないけど!」
しかし、それでもアルディリアは怯まず、残る一基の思念操作式飛翔氷刃を全力で操作し、螺旋を描かせながらカレトヴルッフに襲い掛からせる。
直後、カレトヴルッフが放った瞬速の横薙ぎは、それをいとも容易く両断した。
空中で爆散し、舞い散る火の粉と氷の欠片が織り成す美しい煌めきの中でアルディリアは見る。思念操作式飛翔氷刃を切断した直後、凍結する前に刃力剣の刀身が一度消失し、すぐに再形成されていたのだ。
「そんな芸当が!?」
鞘を用いない刀身の瞬時再形成。それはソラが、特殊技能である幻影剣を使用する際の現象であった。
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