103話 氷鳥穿つ矢
次の瞬間、フィランギから無数の光矢が飛来。火の粉の嵐を穿ちながらカレトヴルッフへと襲い掛かる。
「くっ!」
ソラはその光矢を刃力剣による斬撃で、連続で斬り払う。しかし、その激しい弾幕に押し込まれ、ソラのカレトヴルッフはフィランギに近付く事を許されない。
更に上方、下方に放たれた光矢が軌道を変え、剣を振り切ったカレトヴルッフを狙う。ソラはカレトヴルッフに回避行動を取らせ、それらを紙一重で躱していく。
直後、フィランギの展開する砲身から放たれた光の奔流がソラに向かって放たれた。自身に迫りくる閃光、その攻撃は思念誘導式刃力砲による一撃。威力の高い砲撃は剣で斬り払う事は出来ず、更に下手に躱せば回避方向に軌道を変える。
するとソラはその攻撃に対し、カレトヴルッフを前進させながら――皮一枚で騎体を急旋回させて回避した。だが回避した先、そこには思念誘導式刃力弓から事前に放たれていた光矢が数発あり、ソラは躱しきれず、咄嗟に抗刃力結界を発動させた。
「ぐああああっ!」
しかし、相性的に不利な敵からの攻撃は効果が絶大である為、結界は砕け散り、カレトヴルッフは衝撃で後方へと吹き飛ばされる。
「ハアハアハアッ!」
――思念操作式飛翔氷刃も使わずにこの強さ、前回はまだ本気じゃなかったのか。
思念誘導式刃力弓による射撃だけで圧されるソラ、改めて騎士師団長クラスの射術騎士の恐ろしさを知るのだった。
すると突如、アルディリアからソラに向けて伝声が入る。
『あなた、性懲りも無くまた向かって来るの? 私も随分と舐められたものね』
そして再度、アルディリアのフィランギは思念誘導式刃力弓を構え、思念誘導式刃力砲の砲身を展開させ、射撃態勢に入る。
――くそっ、懐に入る事も出来ない、このままじゃ……どうする……どうする?
アルディリアの射術騎士としての実力を前に、怯まされるソラ。
『なにビビってんのよ!?』
すると直後、パルナからの伝声が入る。
「……パルナちゃん」
『そこは射術騎士の距離、あんたの距離じゃないでしょ! 勝機は前、あんたは前に出ないと勝ち目が無いんだから』
伝声器越しの激、しかしソラはパルナの言う事が頭では解っていても、アルディリアの力を目の当たりにしたことで二の足を踏んでいた。そんなソラにパルナが続けた。
『それにあんたはエルに会う為に戦ってるんでしょ? こんな所で躓いててどうすんのよ!?』
パルナに叱咤され、ソラはハッとする。自身が戦う理由。自身が前に出る理由。それはその先にエルへと繋がっているのだと信じているから。
――そうだ、会うんだ……リアさんを倒して、オルタナを倒して、俺はエルに会う。その為に俺に出来る事は――前に出続ける事だけなんだ!
ソラは決意と共に再びカレトヴルッフに構えを取らせ、推進器からの刃力放出を最大に、フィランギへと突撃した。
フィランギから放たれる弾幕、ソラのカレトヴルッフは再度光矢を剣で斬り払いながら少しずつ前進を試みる。
弾幕は更に激しさを増す。しかし、ソラの斬撃もまた更に鋭さを増していく。
フィランギを操刃しながら、自身の持てる最大の力で弾幕を張り続けるアルディリア。しかし、カレトヴルッフは確実に着実にそれらを斬り払いながら距離を詰めてくる。
――なんなのよこの子! どんどん鋭さが増す……斬撃も、動きそのものも!
アルディリアはソラに対し僅かに畏怖の念を抱きつつあった。しかし、それでも次の攻撃で勝負を決める自信があった。
フィランギの思念誘導式刃力砲の砲身に光が収束され光の奔流が放出される、さらにアルディリアはその光の奔流の同一軌道上に思念誘導式刃力弓からの光矢を複数放つ。
思念誘導式刃力砲は斬撃で斬り払えない為回避する事しか出来ない。しかしそれを回避すれば、その回避した先に後発の光矢を軌道変化させて直撃させる。それはアルディリアの射術における必勝パターンでもあった。
アルディリアの目論見通り、カレトヴルッフは側方へと騎体を回転させながら思念誘導式刃力砲から放たれた光の奔流を回避する。
そしてアルディリアは思念誘導で思念誘導式刃力弓から放った光矢を軌道変化させ、カレトヴルッフを狙う。先程抗刃力結界を破壊されたカレトヴルッフには、その攻撃を回避する術はない――筈だった。
しかし、カレトヴルッフは回避した直後の不安定な姿勢のまま、横薙ぎ一閃で光矢を払った。
「なっ!」
その凄まじい剣技と集中力に、アルディリアは驚愕する。そして同時に、カレトヴルッフは弾幕を抜け切り、既に己の間合いの中に居た。
「くっ!」
今度はアルディリアが咄嗟に結界、耐実体結界を張る。
『ハアアアッ!』
すると、ソラのカレトヴルッフが左前腕部に装着された盾の尖端部分を結界へと突き刺すと、砕結界式穿開盾の効果により先端部分が左右に開放され、同時に結界が砕け散った。
更に、結界を破壊され無防備になったフィランギに向けカレトヴルッフが追撃、上段からの振り下ろしがフィランギに襲い掛かる。しかし、フィランギはすぐさま騎体を全速で後退させ、その一撃は空を切る。
再び距離を取り合い対峙する両者。しかし、アルディリアは理解する。目の前の相手は全力で挑まねばこちらが食われる程の敵であると。
「舐めていたのは私の方だったって事ね、でもこれで終わりよ」
すると、アルディリアのフィランギの両肩部が開放された。
「飛べ、思念操作式飛翔氷刃!」
そして、ソードの拳大程の刃が氷の結晶のような尾を引きながら、ソラのカレトヴルッフの周囲を飛び交かった。
直後、カレトヴルッフの左前腕に装着された盾の内側から刃力弓が射出され、カレトヴルッフは左手でそれを掴み取って構えた。
現在思念誘導されている思念操作式飛翔氷刃は計六基、フィランギに装備される思念操作式飛翔氷刃の半数である。
六基の思念操作式飛翔氷刃はカレトヴルッフを包囲しつつ、空中で交叉しながら縦横無尽に飛び回る。
すると、カレトヴルッフの刃力弓から光矢が二連射され、放たれたそれは二基の思念操作式飛翔氷刃を精確に射ち落とす。
「なっ!」
空中で爆散する思念操作式飛翔氷刃を見ながら唖然とするアルディリア。
「そんな筈は……」
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