102話 リベンジ
一方、ギルカル島に潜み、〈因果の鮮血〉部隊に奇襲を仕掛けようとしていた〈幻幽の尾〉の騎士達は、〈因果の鮮血〉の主力部隊が三つに分裂し、その内の二つが自分達とシェリン島側への部隊へと向かうのを確認。
挟撃に対する素早い対応、しかし地の利ならぬ空の利はこちら側にある、このまま押し込めば一気に戦況を有利に出来る。〈幻幽の尾〉の騎士達がそう考えた次の瞬間、後方から突然飛来する光矢に貫かれ、騎体が次々と凍り付いていく。
「伏兵だと! 探知器には映し出されていない!」
『後方に無数の青いソードを確認……あれは!』
『隊長、前方からは分裂した主力部隊の別動隊が……これではまるで俺達の方が』
突然の伏兵の出現に、今度は〈幻幽の尾〉の奇襲部隊が奇襲を受ける形となり、戦況が一変するのだった。
場面はラージル島。敵の進攻に備え、部隊を空中で待機させ、最後方のフィランギの中で部隊を指揮するアルディリアは、伝令員からの報告を受け、舌を鳴らす。
『ギルカル島側とシェリン島側に敵のソードが計五十騎程出現。探知器での探知は現在でも不能、抗探知結界を使用していると思われます』
「伏兵……挟撃を挟撃で返してきたということね。でも抗探知結界を装備しているなら刃力の消耗が激しく大した攻撃は出来ない筈」
『それが……伏兵はレファノス群島産のマインゴーシュ。属性は全て水のマインゴーシュである為、僅かな攻撃からでも我が騎士師団のタルワールは大きくダメージを受けています』
炎属性のタルワールの優位属性となる水属性のマインゴーシュの出現。それによる挟撃返し。策を上回られたアルディリアは、爪を噛み悔しそうにするも、すぐに表情を冷静にさせた。
ーーせいぜい今の内にはしゃいでいるといいわ。どれだけ食い下がっても、最後は同じ結末になる。
※
場面はムラクモを操刃するヨクハへと移る。
――今回の攻略戦、この五十騎のマインゴーシュの存在が戦局を左右させる。恩に着るよルキ。
「ソラ、カナフ、新たに出現した左右の部隊はこちら側の挟撃で食い止めている。残りはアルディリア率いる本隊のみじゃ」
『えっと、それじゃあ俺はどうすれば……このままあそこに突っ込めと?』
遂に自分の出番が来たかと、緊張した様子のソラにヨクハは冷静に返す。
「ソラとカナフは一旦待機しろ、アルディリアはすぐに引きずり出してやる」
ヨクハはそう言い放つと、ラージル島進撃部隊であるパンツァーステッチャーを更に三分し、それぞれの部隊を横一列に並べさせて三列となるような陣系を取らせる。そしてパンツァーステッチャーは両腰に装備された雷電加速式投射砲の片方を展開させた。
「雷電加速式投射砲発射!」
ヨクハの合図で三十騎近くのパンツァーステッチャーが、展開された砲身から電磁加速された高速の弾丸を、敵のタルワール部隊に発射させる。
すると耐実体結界を展開させたタルワールが前に出て、その攻撃を弾いた。
しかし直後、今雷電加速式投射砲を発射したパンツァーステッチャーの部隊が最後列に下がり、二列目の部隊が最前列になった瞬間、すぐに雷電加速式投射砲を発射させる。その弾丸は再び耐実体結界に阻まれる。
今度は今雷電加速式投射砲を発射したパンツァーステッチャー部隊が最後列に下がり、最初に最後列に位置していた部隊が最前列になると間髪入れず雷電加速式投射砲を発射。
刃力核直結式聖霊騎装である雷電加速式投射砲を三発受ければ、さすがに耐実体結界でも耐え切れず結界が砕け散り、タルワールに弾丸が直撃し騎体が爆散する。
だがそれでも弾丸の雨は止まない。先程までと同じように雷電加速式投射砲を発射した部隊が最後列に下がり、既に後列で発射準備を終えていたパンツァーステッチャーが入れ替わりと同時に雷電加速式投射砲を発射する。
三分した部隊の入れ替えにより、間隙を与えない雷電加速式投射砲の連射を可能にしていた。そして、一騎のパンツァーステッチャーは雷電加速式投射砲を二基装備しており、雷電加速式投射砲の装弾数は三発。それが三部隊いるため、最大で十八発の連射が可能となる。それは、このまま攻撃を続ければ十分に敵本隊の壊滅が可能である事を示していた。
すると突如、敵本隊の後方から巨大な光の奔流が飛来する。その光の奔流はパンツァーステッチャー部隊の脇を通り過ぎ、その瞬間に軌道を変化させ、一列に並ぶパンツァーステッチャー達へと一気に襲い掛かった。
その攻撃により、回避行動が間に合わないパンツァーステッチャーが光の奔流に飲み込まれ、次々と爆散する。
更に、無数の光の矢が上方、下方、右方、左方へと連続で放たれ、その光矢もまた軌道を変化させ、パンツァーステッチャーを次々と貫き、何騎も撃墜していく。
そして敵部隊の中央には、灰色のソード、アルディリアのフィランギが浮遊していた。
「来た!」
劣勢に陥り、騎士師団長であるアルディリアが前へと出て来た。その強敵の出現は危機であり、正に好機でもある。
「奴が出たぞソラ! カナフ、お主は周囲の雑兵を蹴散らし、ソラを援護しろ」
『了解した』
カナフはタルワールに狙撃式刃力弓を構えさせ、アルディリアと対峙するであろうソラを援護する態勢に入る。
遂に来た出番、いよいよアルディリアとの再戦の瞬間が迫るソラの頭の中は凄まじい量の雑念で溢れ返っていた。
――あー、遂に来たかこの時が。はあ、同じ相手に二回も敗ける訳にはいかないよな。でもこないだオルタナ=ティーバに二回敗けたような……いやでも一度二回敗けるのと二度二回敗けるのとじゃ全然意味が違うっていうか。そもそも、一ヶ月も付き合ってくれたプルームちゃんやフリューゲルに顔向け出来ないし……そういえばシオンさんにも協力してもらったし、結構色んな人に手伝ってもらってるしでプレッシャーやばいな。ていうか俺そもそも騎士師団長と一騎討ちとかそういう立ち位置じゃないんだけどなあ、いつからこんな無茶させられるようになったんだっけ?
脳内で愚痴や不安をあらかた漏らし尽くし、ソラは深く目を瞑ってゆっくりと開け、深く吸った息を素早く吐いた。
「……やるか」
先程までの揺らぎに揺らいだ心を静め、雑念も恐怖も一息に振り払うと、ソラはカレトヴルッフの左腰の鞘から刃力剣を抜いて構え、推進器からの刃力放出を最大にしてアルディリアのフィランギへと突撃をした。
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