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100話 訓練成果と秘密兵器

「へ?」


 先読み能力というのは未来を見るような人外の力の事だけを言うのではない。覚醒騎士ではない普通の人間であっても経験と鍛錬に裏打ちされた先読み能力を身に着ける事は出来る。そして思念誘導系の聖霊騎装だとてどんな動きでも出来る訳ではない。個人差はあったとしてもその動きの中には必ず法則性が見えて来る筈なのだとプルームは説く。


 それを聞き、ソラは何かを感じ取ったのかハッとしたような表情を浮かべた。


「それにソラ君の斬撃がいくら凄いって言っても、私の操るつぶて思念操作式飛翔氷刃ワグテイルも止まってる訳じゃない。だからソラ君が斬撃で礫や思念操作式飛翔氷刃ワグテイルを斬り払えたのは、少なからずその動きを先読み出来てるって事なんだと思うよ」


「そっか……そうだよな」


 そして希望が宿ったように、ソラの表情が明るくなる。


「動きを……軌道を読んで当てる。んでそれにはやっぱりこの訓練を繰り返すしかないって事だよな、でも――」


 ソラの出した結論はこの第二段階の訓練を今まで通り続ける事。ただそれだけだった。やる事は今までと何ら変わりはない。しかし、答の無い闇の中をただ進んでいるだけでしかなかったこれまでとは、明らかに何かが変わった。


 ソラはフリューゲルの見せてくれた射術を思い描きながら、プルームの言う通り操作された礫の動きの法則性を意識しつつ射術訓練を続けた。



 来る日も来る日も、プルームの竜殲術に操作された礫に向かって矢を放ち続ける。それはこれまでの数日間と一見同じ姿である。しかし、ソラが放つ矢は明らかに礫を捉え始めていた。





 そして第二段階の射術訓練が開始されてから十日後。


 額に剣の紋章を輝かせ竜殲術〈念導みちびくもの〉を発動させるプルームの姿と、対峙するように弓銃を構えるソラの姿が竹林の訓練場の中にあった。


 凄まじい速度でソラの周囲を、曲線を描きながら旋回と交叉を繰り返して飛翔する礫に、ソラがまずは一射。放たれた矢が礫に直撃し、弾かれて地へと落ちる。


 続いて矢を装填しながら、連続の射撃。上部、前方、左方向の三カ所へ放たれた矢が三つの礫を射ち落とす。


 更に直後、ソラの周囲を旋回していた礫が一斉にソラへ目がけて撃ち出される。するとソラは自身に飛来する礫を、身を翻してかわしながら一つ、二つ、三つと射ち落とす。やがて、プルームの操作する礫は全て射ち落とされていた。


「ハアッハアッハアッ」


 凄まじい集中の果てに気力を使い果たしたのか、ソラはその場にへたり込む。


「あーやっと、成功した」


 ソラは安堵した表情と同時に、達成に酔いしれるように空を見上げた。


 射術訓練開始から約半月、蒼衣騎士であるソラにとって驚異的な成長速度であった。


 そんなソラに駆け寄るプルームと、ゆっくりと歩み寄るフリューゲル。


「凄いよソラ君、最初の頃とは見違えるようだね」


「まあ、俺のアドバイスのおかげだろうな」


「え、フリューゲルって何かアドバイスくれたっけ?」


「いやしただろ! 滅茶苦茶重要なのを!」


 ソラを素直に称えるプルームと、自分の手柄だと言わんばかりのしたり顔を浮かべるフリューゲル。ソラは恩を仇で返すかのようにとぼけてみせると、すかさずフリューゲルが反論し、その必死な様子を見てソラは屈託なく笑った。

 




 それから更に一週間、ソラは更に第二段階の射術訓練を重ね、安定してプルームの操る礫を討ち落とせるようにまでなっていた。


「ほう、随分と成長したものだなレイウィング」


「カナフさん」


 そんなソラに、ふと竹林の訓練場へとやって来たカナフが声をかけた。


「最初にカナフさんがアドバイスしてくれたおかげですよ」


「ふっ、気にするな。それにずっとお前の訓練に付き合ってくれてたのはクロフォードあねとシュトルヒだろう?」


「ああ、二人には本当感謝してるよ。んで、カナフさんは俺の様子を見に来てくれたんですか?」


「それもあるが、シオンさんにお前の事を呼んでくるように頼まれてな」


「シオンさんが?」



 シオンが自分を呼んでいる事をカナフから聞き、ソラはすぐにシオンの居る格納庫へと向かうのだった。


「おう、来たかソラ」


「……シオンさん」


 ソラは少しだけ気まずそうにシオンの名を呼んだ。アルディリアとの戦いの後、本拠地に帰陣した際にシオンに対して声を荒げてしまっていたからだ。


「お前さあ、射術の訓練すんのはいいんだけどよ、装備の構成はもういいのか?」


「装備の構成……あっ」


 ソラはシオンに言われ、思い出したように声を上げた。


「進攻開始まであと一週間くらいだろ、敵に合わせて装備を変更するのも騎士の務めだぜ」


「そ、そうでした」


「んじゃあ今のカレトヴルッフの装備を確認しとくか?」


 シオンに言われ、改めて自身のソード、カレトヴルッフの装備を確認するソラ。


 刃力剣クスィフ・ブレイドが一本、携帯型聖霊騎装は刃力弓クスィフ・ドライヴアロー、盾付属型聖霊騎装は砕結界式穿開盾リフューザルシールド、結界は耐実体結界アブソリュートスフィア、肩部聖霊騎装は射出式炸裂弾アーティファクト、刃力核直結式聖霊騎装は炎装式刃力砲クスィフ・ブレイズカノン雷電加速式投射砲レールカノン


 それを聞き、装備構成に関する助言を始めるシオン。


 ソラが討ち取ろうとしている〈幻幽の尾〉の師団長は射術騎士、結界は抗刃力結界イノセントスフィア一択だとまずは告げる。


 そして刃力核直結式聖霊騎装は実弾型と刃力型で、属性に関するバランスも良く、とりあえず今のままで良さそうだと続けた。


「ふんふん」


「携帯型聖霊騎装は、思念誘導兵器対応訓練が上手くいかなきゃ散開式刃力弓クスィフ・ショットアローにして命中率を高めるのも手だったがそっちはまあ心配なさそうだな」


 するとシオンは言いながら、ソラがにやついてる事に気付く。


「なんだその顔は?」


「いや、シオンさんがこんなに俺の面倒見てくれるなんて思わなくて」


 ソラのその言葉に、シオンは照れを隠すようにそっぽを向いた。


「うるせえ、俺のカレトヴルッフが撃墜されたら困るからだよ」


 そう反論するシオンであったが、実はあの時ソラに対して追い打ちをかけてしまった事をずっと後悔しており、少しでも協力してやりたいという思いからであったのだ。


「そんで、肩部聖霊騎装に関して提案があるんだけどよ」


「提案?」


 すると、シオンはふとある提案をソラに持ちかける。


「お前 思念操作式飛翔氷刃ワグテイルを射ち落とすのはいいけど、その後はどうすんだ?」


「その後?」


 シオンは戦闘映像を見て、アルディリアの、回避能力のずば抜けた高さを知った。いくらソラが射術の訓練をしたとしても接近戦に持ち込まなくては勝ち目はない。といってもアルディリアは射術技量も相当高く、あの弾幕を掻い潜って懐に入るのは至難の業であるとシオンは言う。


 その忌憚の無い意見に黙りこくるソラ。


「そこでだ」


 すると、シオンは格納庫の端に置かれたある物に覆われた大きな布を取り払う。


「この聖霊騎装を使ってみねえか?」


「これは?」


 その聖霊騎装はシオンが昔、ヨクハ用に試作したオリジナルの肩部聖霊騎装であったのだが、ヨクハに必要無いと突っぱねられてから格納庫の奥で埃を被っていたのだそうだ。


「え、それって大丈夫なんですか? ただの欠陥品とかじゃ――」


「ちげえよ馬鹿野郎、ちと訳あってな、ヨクハ団長はムラクモには出来る限り余計な装備はさせたくねえんだとよ」


「そういえばムラクモってパッと見、刃力剣クスィフ・ブレイドくらいしか装備してないですもんね」

 


 それからソラは、その聖霊騎装に関しての特性や性能の説明をシオンから受けるのだった。


「まあ、もうあんまり時間はねえが、こいつを使いこなせれば相手が聖衣騎士だろうと必ず裏をかける」


「……いいかも、うん、俺使ってみるよシオンさん」


 そしてソラは、その聖霊騎装に対し直感的に何かを感じ取ったような反応を示し、表情に希望を灯らせるのだった。

遂に100話到達しました。ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。もし作品を少しでも気に入ってもらえたり続きを読みたいと思ってもらえたら


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どうぞ宜しくお願い致します。


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