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2.それぞれの夜。







 ボクは自室でベッドに転がって、天井を見上げていた。

 あの後、父さんから母さんの話を聞いたのだ。二人は同じ事務所に所属していたアイドル同士で、早期引退後に結婚をしたのだという。もっとも、父さんはそこまで売れていたわけでもないので、話題にもならなかったらしいけど。



「全然、知らなかったな……」



 たしかに父さんは、近所で噂されるイケオジ、というやつだった。

 いまでは普通の会社員だけど、それまでは色々と苦労もあったということだ。ボクを産んで間もない母さんを病で亡くし、親類の力も借りずに頑張ってきたらしい。

 そんな両親の過去を知って、ボクは心から尊敬の念を抱いた。

 本当に、みんな強い人ばかりだ。



「それに比べて、ボクは弱いよな……」



 そう感じると、自然に自虐的な言葉が口をついて出る。

 だけど、すぐに首を左右に振った。



「いいや、これから強くなるんだ! 頑張れ、ボク!!」



 両頬を軽く叩いて、気合を入れる。

 そして、窓の外を見た。



「芸能界、か……」



 どんな世界なのだろうか。

 まだまだ想像もできないけれど、きっと大変な場所に違いなかった。考えると駄目になりそうだけど、考えずにはいられない。

 だったら、当たって砕けろの精神でいくしかなかった。


 自分を変えるために。

 ボクは、夜空に輝く星々のようになりたいと、そう思った。







 ――一方その頃。

 都内、とあるマンションの一室にて。

 瀬戸ミライは事務所での話し合いを終え、帰宅していた。他には誰もいない。彼女は隣県から出てきて、一人暮らしをしているのだ。

 それで苦労することも多かったが、ミライは『自分が選んだこと』だと、そう割り切っている。その点については、なにも不満はなかった。



「はぁ……」



 それでも、仕事に限ってはまだまだ文句がある。

 今日だってそうだ。もっとも最初に、現地に向かえない、と連絡したのは自分だが。その後に一報もなく、赤の他人が握手会に出ていたのだ。

 気が動転しても、おかしくはない。

 少々声を荒らげてしまったことを反省しながら、しかしすぐに気持ちを切り替えた。何はともあれ、過ぎてしまったことは仕方ないのだから。



「それにしても、ミコト、か……」



 それよりも、気になったのはあの場にいた『少女』のこと。

 年齢は自分と同じくらいか、少し上だろう。容姿は自分とよく似ているのだろう、メイクをした顔は瓜二つといって良かった。

 そして、どちらかといえば大人しい性格をしているようで。もしかしたら、男子にはあちらの方がウケが良いかもしれない、そう思った。



「…………む……」



 でも、そこまで考えて。

 自分が影武者に劣っている、という思考をしたことが引っかかった。何を弱気になっているのだろうか、と。

 自分は自分で、本物は自分に違いない。

 期待の新人アイドル『瀬戸ミライ』は自分なのだ。



「はぁ、仕方ないわよね。暇だし、なにか見ようっと」



 思考の渦に呑み込まれそうになって。

 しかし、すぐにミライは気持ちを切り替えてノートパソコンを立ち上げた。電源を入れると、某動画サイトへとアクセスする。

 そして探すのは自分の出ているもの、ではなく――。



「……はぁ。何度見ても、綺麗……」



 ――意外にも、やや古いアイドルの動画だった。

 映っているのはすでに引退し、いまや居場所も分からなくなった伝説の女性。彗星のように現れ、瞬く間に世間を魅了した彼女は、ある日突然に引退を発表したらしい。もちろんリアルタイムで見ていたわけではないが、ミライの憧れといえば、そのアイドルであった。



「いま、どこにいるんだろう……?」



 関係者に訊いても、曖昧な答えしか返ってこない。

 年齢でいえば、自分の親でもおかしくない年代のはずだった。それでも、どんなに探しても霞かかったように届かない。

 だが、あるいはそれで良いのかもしれない。



 憧れは、あくまで憧れ。

 理想は自分の胸の中に置いておいて、押し付けるものではない。



「さて、今日はもう寝よっと……」




 そう結論付けて、ミライは大きく伸びをした。

 ノートパソコンの電源を落として、ゆっくりとベッドの方へ歩いていく。




 ――そんな彼女の机には、その憧れの写真。

 綺麗に保存されたその写真には、小さくこう書かれていた。






『いつか、絶対に超える!』――と。





 

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