第1話 眠り姫
突然だが、僕のクラスには眠り姫と呼ばれている女子生徒がいる。教室で四六時中寝ていることからそう呼ばれた。もちろん、休み時間に限らず、授業中も寝ている。僕がその子を知ったきっかけは彼女とクラスメートになったことであるが、実はもう1つある。
高校に入学して初めて受けたテストのことだった。自慢話になってしまうが、僕は中学時代まではテストで1位以外の順位を取ったことがない。運動や芸術において特に秀でた才能がない僕にとって、唯一誇れることである。そんな僕は、地元ではトップレベルの高校に入ったが、高校でもトップの成績を取るつもりでいた。
しかし、結果は2位だった。このような経験は人生で初めてである。僕の高校では、成績上位の生徒の名前が掲示されるのだが、僕を差し置いて学年トップになった生徒が眠り姫である。これが、彼女を知ったもう1つのきっかけである。
トップの座を他人に取られてしまったことで、僕は心にダメージを負っていた。数年間維持してきたポジションを取られることは、想像以上に辛いことである。これに僕のプライドが許してくれない。僕はブルーな気持ちで家路に向かっていると、背後から声をかけられた。
「久しぶりだな。いきなりだけど、ゲーセンに行かないか?」
こいつは僕の幼馴染である。会うのは中学の卒業式ぶりだろうか。彼の誘いだが、このまま家に帰っても気分が良くならなそうなので、乗ってみることにした。
ゲーセンのうるささに圧倒されていたら、さっきの幼馴染がいきなり自慢してきた。
「見てくれよ、ようやく理論値だぜ」
ゲームに疎い僕には何言っているかよくわからないが、どうやらハイスコアを出せたようだ。
「おいおい、見る専でいいのかよ。たまには遊ぶなどの息抜きもいいと思うけどな」
ゲームに対する熱意を勉強面に使ってほしいと突っ込みを入れたくなったが、彼の言い分も一理あるのでやめておいた。
彼はちょっと休憩しようと近くにあった椅子で休んでいたら、驚いた顔をしていた。
「すごくないか、最高難易度の楽曲で理論値だぜ」
再びよくわからないことを言っていたが、彼曰く、全てのノーツを最高判定で獲得できたようだ。彼の反応を見るに、常人離れしているのだろう。その人は1クレジット内でやった楽曲が全て理論値であったようだ。これがいわゆるプロゲーマーか。
その人がゲームを終えてその場を去ろうとしたら、僕らと目が合った。え?例の眠り姫?
「あら、クラスメートだよね?」
彼女はそう言って、そのまま帰っていった。ゲームでもテストでもトップに入ってしまうのか。とんでもない人だな。幼馴染にも事情を説明したら、彼は意外な返答をした。
「実は、あの子はゲーマー界隈では有名なんだよね。さっきやってた音ゲーだけじゃなくて、様々なゲームでトップクラスにいるのよ。それでいて勉強もできるとなると天は二物を与えずって嘘なんだな」
彼の話を聞いて、あの眠り姫の常人離れっぷりに愕然となった。ここまで敵いそうにないと思った人と会ったのは生まれて初めてである。