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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第1章 ユタ・ビーチ
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6月6日 午前2時30分 サン・マリー・デュ・モン


 シュトライト軍曹は、狭苦しい重装甲車のバイザーから、連合軍の降下兵を探して目を凝らしていた。ひっきりなしに車載機関銃が発射音を立てる。砲塔には天井はなく、金網を張った簡単な金属枠が手榴弾から乗員を守っている。


 ユタ・ビーチの内陸部分は、メルデレ川の河原へとつながる湿地帯である。ドイツ軍が連合軍に備えてわざと水をあふれさせていたこともあって、ほとんど沼地の様相を呈していた。野宿に慣れた兵士たちも、沼地では横になることもままならない。こうした地形では、わずかな高台や村を先に占拠することが、重大な時間稼ぎとなって響いてくる。


 第82空挺師団より南方に降下した第101空挺師団は、ユタ・ビーチからまっすぐカランタンに続く道路を確保しようと奮闘していたが、サン・マリー・デュ・モンの小高い丘に陣取っていた第12SS戦車師団の偵察大隊のせいで、上陸部隊のために道を作れずにいた。


 偵察部隊と言うと忍者部隊のように聞こえるが、ここでいう偵察とは威力偵察、つまり「試しに射たれてみる」任務のことであった。ちょっとした、しかし相手としては無視できない戦力でぶつかって出方を見るのである。したがって、偵察大隊は、基本的には自動車の多い歩兵部隊であった。その応援のために、小さな大砲や機関銃を備えた車輪式の装甲車がすこし配属されている。シュトライトの車両もそう言った装甲車だった。


 装甲車を盾にして、偵察大隊の歩兵が暗闇へ向けて盛んに発砲している。シュトライトはゆっくりと砲塔を回すと、20ミリ機関砲を射ち始めた。重い振動が薄い装甲ごと車両を揺らす。3発。2発。射っては止める点射である。弾薬は夜明けまで保たせなければならない。


 小さい方の機関銃の真っ赤に焼けた銃身を交換し終わった操縦士が、近距離用の超短波通信機の鳴っているのに気がついた。急を襲われたので、本来4人乗りの装甲車を車長と操縦士の2人で守る羽目に陥っている。


「パンツァー・マイヤーが来るそうです」


 操縦士の声が明るい。大隊本部が師団司令部に連絡をつけたのだろう。


 マイヤー准将はかつて偵察大隊長として大胆な前進をたびたび行って、いだてんマイヤー、戦車パンツァーマイヤーとふたつ名前を歌われたドイツ軍のスターであった。そのマイヤーが、いまは歩兵連隊長として同じ師団にいる。シュトライトは魔法のように孤立感をぬぐわれた。パンツァー・マイヤーがすぐそこにいる。


 彼は、指揮する部隊の先頭に立つことでも知られていた。


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