6月6日 午後2時 ソード・ビーチ
派手にボンネットをへこませた大型乗用車が、ドイツ軍の戦線後方によたよたと到着した。
「空襲を食らってな」
夏用のコートにまだ青草をつけたロンメルは、あわてて飛び出してきたオッペルン=ブロニコウスキーの敬礼を受けた。
「夜襲は予期されているだろう。フォイヒティンガーが師団砲兵を使ってしまったから、いずれ反撃される。いま攻撃すべきだと思う」
オッペルン=ブロニコウスキーはためらっている。ロンメルは自分の示唆でフォイヒティンガーが海岸砲撃を命じたことを都合よく忘れている。ロンメルは部下を処罰したり左遷したりすることは決してしなかったが、かといって責任をかぶってやることもなかったし、口頭ではずけずけと叱りつけた。ちなみに、ロンメルの父親は高校の校長先生であった。
そのとき、2機のドイツ戦闘機がソード・ビーチ上空に飛び込んできた。ブリーラーとヴォダーチェックである。連合軍はあっけに取られて対応か遅れる。短時間にひとわたり海岸を掃射すると、ジュノー・ビーチへ飛び去って行く。
ロンメルはしばらく無言で見送っていたが、やがて決然と振り向いた。
「このような状況で、空が通れるものなら、陸上が通れないはずがあるまい」
オッペルン=ブロニコウスキーはついに降参して、突撃準備と、師団砲兵をはじめありったけの火砲による準備射撃のお膳立てにとりかかった。
ロンメルは、自分がさっき陸上を通り損ねたことを、都合よく忘れていた。