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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第5章 日没、あるいはソード・ビーチ
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6月6日 午前5時 ドゥーブル村


 ドゥーブルを中心とする3つの村は、ジュノー・ビーチとソード・ビーチを隔てる岩場の内側にあって、どちらの上陸地点にもざっと5キロというところである。ここにドイツ軍の第30歩兵旅団が陣取っていた。


 軍隊の単位として、中隊、大隊、連隊までは普通ひとつの兵種で編成される。例えば戦車連隊は戦車だけで歩兵はほとんどいない。これを適当な割合で組み合わせて、ひとつの区域を独力で担当できるようにしたのが師団である。旅団と言うのは中途半端な存在で、普通ひとつの兵種だけで構成され、軍団や軍の予備として使われることが多かった。困難が起きた師団の戦区へ応援に行かされるのである。規模はまちまちで、大隊に毛が生えたようなものも、6個大隊を擁する堂々たるものもある。第30歩兵旅団は歩兵3個大隊から成る。


 第30歩兵旅団は第84軍団の予備であったが、戦車教導師団が移ってきたのでバイユー市を明け渡し、ドゥーブル周辺に駐屯していた。ここには空軍基地があったし、民家も多いので乳製品や野菜を買うのに便利で、兵士たちは満足していた。


 この旅団は、B軍集団から回り回った警報を半信半疑で受け取っていたが、艦砲射撃が始まると他人ごとではなくなった。ところがマルクス軍団長からはなんの指示もない。マルクスは第91師団と第709師団の師団長がいずれも不在だと言うので、ユタ・ビーチの現状把握にかかりきっていたのである。旅団長はやむなく、第716師団のリヒター師団長に指示を求めた。


「現在地を維持せよ」


 リヒターは、この日ドイツ軍で最も重要な決定のひとつを、無造作に発した。ユタ・ビーチの第709師団と同様に、この師団も寄せ集めの海岸師団である。現状は混乱を極め、信頼できる報告は少なかった。ソード・ビーチとジュノー・ビーチのどちらが危険か、カーンに司令部を置くリヒターには判断できなかったのである。リヒターはその日の午後に至るまで命令を変更する余裕がなかったが、そのころには明らかになっていた。ジュノー・ビーチとソード・ビーチを遮断する、ドゥーブルの堅守そのものが最も有効な選択だと。


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