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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第1章 ユタ・ビーチ
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6月6日 午前1時30分 ロシュ・ド・ギヨン(ドイツB軍集団司令部)

 B軍集団司令官・ロンメル元帥は、ほとんど表情を変えずに北フランスの作戦地図を眺めていた。参謀長・シュパイデル中将も平静で、内心のいらだちはあったとしても外見からは伺い知れない。空挺降下の情報を示すありあわせのピンが針山のように北フランス全域に広がっている。


 ロンメルのB軍集団は、北フランスとベルギーを担当区域として、フランス・ベネルクス全域を統べる西方軍の指揮下にある。西方軍は陸軍総司令部(OKH)を素通りして、国防軍総司令部(OKW)の直接指揮下にある。OKWの司令官はヒトラーであるから、ロンメルとヒトラーの間に挟まっているのは、西方軍司令官のルントシュテット元帥ひとりに過ぎない。組織図の上ではそうであった。


「警報を出そう」


 ロンメルは短く結論を出した。


「上陸と空挺降下に対し注意を促せ」


 シュパイデルは短く聞き返す。


「移動命令は出しますか」


「いや」


 まだ上陸と決まったわけではない、というのがロンメルの判断であった。


「我々に出来ることは、警報程度だな」


 シュパイデルはそそくさと警報の手続きに入る。シュパイデルはロンメルが自らスカウトした人物で、軍事史の研究で博士号を持っていた。ロンメルとは対照的に、いろいろな司令部の参謀としての勤務が長く、非常に整理された頭脳の持ち主である。ロンメルも歩兵戦術の著書があるほどでデスクワークで無能なわけではないが、要点を見抜く能力のある人物は、往々にして抑揚のないルーチンワークでの消耗が激しい。逆にロンメルは、参謀長に臨機応変の才をあまり要求しなかった。それこそがロンメルが有り余るほど持っている資質だからである。


 あとは現場の判断に任せるしかない。野戦将軍の感覚が抜けないロンメルには、それが悲しかった。

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