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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第3章 ゴールド/ジュノー・ビーチ
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6月6日 午前9時 ゴールド・ビーチ


 ミューン、ミューンというネーベルベルファー独特の飛来音は、連合国空軍の反復される空爆によってほとんど沈黙させられていたが、最初の30分ほどでこのおそるべきロケット弾は仕事の大半を済ませていた。ネーベルベルファーを弾丸の直径で分類すれば15センチ型、28センチ型、32センチ型があって、28/32センチ型は直方体の木枠、15センチ型は鉄パイプを6本束ねた形のランチャーで飛んで行く方向を決める。15センチ型を装備するネーベルベルファー大隊・連隊と、28/32センチ型を装備する重ネーベルベルファー大隊・連隊がいくつかずつでネーベルベルファー旅団を作っている。


 こうした当時のロケット砲の照準は一般に大まかで、「だいたいあのへん」を狙うのが関の山である。しかし28センチと言えばちょっとした戦艦の主砲並み、15センチでも陸上では最大級の大きな弾丸であって、構造が簡単な割には1発当たりの威力はすさまじい。だからロケット砲が真価を発揮するのは、一定の地域を目標として集中使用されたときであった。兵士が海岸に密集している上陸直後には、こうした兵器は恐ろしい災厄をもたらす。弾道が放物線を描くので、弱い上部装甲に当たれば戦車とてひとたまりもない。


 上陸部隊が海岸でもたついている間に、バイユー市から夜明けと共に進撃してきた戦車教導師団の戦車が到着し、盛んな射撃戦が起こっていた。


 教導戦車連隊長・ゲルハルト大佐は、海岸と並行して走る道路を確保したまま、海岸への進出をためらっていた。海岸との間は細長い沼地に遮られており、車両に取って海岸への出口は海岸の端のわずかなすき間に限られている。当然、彼我の砲火はその狭い部分に集中する。なお悪いことに、旧式戦艦を始めとする連合国海軍の砲火もその辺りの制圧を狙っているようであった。


 海岸では数十両のイギリス戦車が燃え上がっている。いっぽう、小型のロケット弾を翼に下げた連合軍の戦闘機がさっきから猛威を振るっており、せっかく新規に増援された高射砲連隊は早くも制圧されかかっている。このままでは、戦車連隊もいずれ航空攻撃か艦砲の手痛い一撃を食らうのは必定であった。


「我々の居場所は地獄か海岸しかないようだ」


 ゲルハルトは決断した。


「海岸に行くべきだな」


 無造作に突入すべき中隊が指定される。命令一下、海岸の西端アロマンシュ村目がけて3個中隊、50両余りの戦車が押し合いへし合い殺到する。これはゲルハルトの兵力のざっと1/3であった。生き残っているイギリス戦車が盛んに砲撃を加える。駆逐艦から、巡洋艦から、戦艦から次々に砲弾が送り込まれる。ドイツ歩兵は抜け目なく沼地の南側に展開して、イギリス歩兵の浸透を食い止める。戦車教導師団は戦車科学校の教官と機材を中心として編成されたもので、中堅以下にも熟達の指揮官が多かった。


 戦車はキャタピラ音とともに疾走する。ひっきりなしに連合軍戦闘機が往来しては機銃掃射を加える。ハーフトラックの荷台に据えられた4連装機関砲が何台か沼地の向こう側から援護の弾幕を張ってくれるが、かえって自分が目標となって炎に包まれる。イギリス兵士は次々に倒れるものの、スプリング式の対戦車兵器で果敢に反撃して、ドイツ戦車をしとめてしまう者もいる。いっぽう、もはやイギリス海軍は敵であろうと味方であろうと、動く者はみな破砕するよう命じられている風であった。


 数分のうちに、ゲルハルトは戦車15台を失って後退した。連合軍の空と海からの弾幕が濃すぎる。海岸への進出は自殺行為と言わざるを得ない。イギリス歩兵はじわじわと各所の陣地にこもる第716歩兵師団の歩兵を排除しており、連合軍はかろうじて陣地を張れそうであった。


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