6月6日 午前1時 アンフレヴィル村(ユタ・ビーチ内陸)
コンラッド中尉は、この日降下したアメリカ第82空挺師団の兵士の中では、かなりの幸運に恵まれた。彼の降下した場所は湿地でもなければ、ドイツ軍部隊の頭上でもなかったのである。しかし降下予定地点に仲間と共に降ろしてくれるほど、幸運は大きくなかった。
次第に目が慣れてくると、すぐ近くに湿地帯が迫っているのが分かった。腕時計と月の方向から方角を確かめたコンラッドは、心の中で肩をすくめた。メルデレ川の東側に降下するはずが、西側に降りてしまったらしい。この近くにも降下予定地点はあったはずだ。耳をすますと、味方の合図に取り決めたクリック音がかすかに響いてくる。ひとり、またひとり、味方が増え始めた。困ったことに、みんな東岸に降りるべき連中であった。
「中尉どの!」
押し殺した声が注意を引く。川の両側に広がる沼地の中に、見慣れたシルエットが浮かび上がっていた。空挺部隊用の軽量砲である。砲身だけを上向きに突き出して、防盾のほとんどと脚の全部を泥の中に隠している。目が慣れてくると、川に沈みかかったグライダーの輪郭が見えるようになってきた。
これが平均的な状況だとすると、今日はとても長い日になりそうであった。