学生と教授の会話 #5
「ゴールド・ビーチとジュノー・ビーチを隔てるものは、なんだったかな」
教授は言った。学生は作戦地図に目を落として、戸惑った。
「つながって……いるんですか」
教授はにやにやと頷いた。
「幅2キロばかりの岩場が区切りと言えば区切りだが、砂浜はつながっていると言っていいのだよ。ゴールド・ビーチはイギリス軍、ジュノー・ビーチはカナダ軍の受け持ちだから、独立した名前が必要なのだ」
学生はまたメモを取る。
「実質的にはひとつだから、ドイツ軍の師団はひとつだね」
「第716歩兵師団が、ゴールド、ジュノー、そしてソード・ビーチのすべてを担当しています」
学生は地図の注を読み上げる。
「この海岸のすぐ内陸部に、バイユーの街がある。このあたりではカーンに次いで大きな街だな」
「5月になって、戦車教導師団が移ってきた街ですね」
「それだけではない。ここにも高射砲連隊がひとつと、ネーベルベルファー旅団がひとつ移ってきている。ネーベルベルファーは知っているね」
ネーベルベルファーはドイツ語で煙幕発射機と聞こえる。
「えーと、連合軍を煙に隠して……」
教授が笑いだしたので、学生は黙った。
「それじゃ連合軍に有利だな。これはロケット砲部隊だ」
「V1号のことですか?」
教授はげっそりした顔をした。
「V1号はベルギーからロンドンまで届いたけれども、ネーベルベルファーが届くのははせいぜい4キロといったところだな」