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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第2章 オマハ・ビーチ
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6月6日 午前10時 オマハ・ビーチ


 海岸の状況を観察していたレントは、攻撃に転じる頃合だと思った。偵察大隊の歩兵たちが、戦車に群がろうとするアメリカ歩兵を追い払ってくれれば、戦車を欠いたアメリカ軍は突撃砲に対抗手段がない。用心深いレントは、主砲の脇に取り付けられた同軸機関銃の給弾を点検するよう全車に命じた。この状況では大砲より、機関銃が重要なようである。あまりにも貴重な重戦車は待機させることにした。


「装甲車は待機。突撃砲とハーフトラックは海岸線から横に進め」


 第352師団の歩兵たちは海の方向へ火線を向けている。海岸を横殴りに前進すれば、アメリカ軍兵士はどちらかに対して横腹をさらさなければならない。違う方向から射撃を浴びせるのが歩兵戦術の基本である。


「かかれ」


 潅木を飛び出す車両群。この時代の兵員輸送車はハーフトラックといって、後輪だけがキャタピラになっている。小銃を跳ね返す程度の装甲はあるので、この状況では歩兵に取って悪魔のような脅威になる。高い機銃音が響く。レントの突撃砲も砂を散らして前進する。その突撃砲の背中に数人の歩兵が乗り、突撃砲を盾にして盛んに射撃している。


 突然、レントの視界が揺れ、したたかに頭を天井にぶつけた。艦砲射撃である。アメリカ兵とドイツ兵をほとんど同じ割合で殺している。隣を走っていた突撃砲がまるごと持ち上げられて横転する。ハーフトラックがまっぷたつになって炎上する。レントはたまらず後退を命じた。海に背を向けて走り去る車両群に砲弾が追いすがる。まばらに射撃しつつ後を追う歩兵たち。


「やめさせよう」


 アメリカ軍のマチェット大佐はつぶやくと、ジェロウ中将に復命のため海へと走った。幸い、旗艦のボートはまだ待っていてくれている。


「あれで突撃砲は全部か」


「おそらく」


 第352歩兵師団長・クライス少将はオマハ・ビーチに出てきて、戦況をつぶさに見ていた。


「まだいると思ってくれないものかな」


 クライスの自由になる戦力はあと3個大隊いるが、それぞれ海岸に張り付いているので引き抜くことがためらわれていた。予備を置かず全戦力を海岸に張り付けるというロンメル元帥の作戦は、前線指揮官に取っては定跡はずれの高度な応用問題であって、判断に迷うことも多々あった。


「戦車教導師団からはもう増援はないのか」


「まだ連絡がとれていません」


 クライスは無言で東の空を眺めた。やはり煙が立ち登っている。あちらはあちらで、戦闘中と思われた。


執筆から20年以上になりますが、突撃砲に乗ったまま兵士が戦闘しているのは間違いです。戦車には敵弾が集中するため、会敵したら兵士はすぐ降りなければなりません。兵士は弾だけでなく、弾片でも死ぬからです。

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