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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第2章 オマハ・ビーチ
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6月6日 午前10時 オマハ・ビーチ沖

 アメリカ軍第5軍団司令官・ジェロウ中将は、太平洋の英雄コリンズ中将に比べればほとんど実戦経験がなかったが、アイゼンハワーの信頼が厚かった。ここはイギリス軍戦区と接するところで、勇猛なウイングではなく堅実で粘り強いミッド・フィルダーが必要だったのである。


 悪いニュースが重なっていた。上陸に先立って出動した空軍は、まだ晴れきらない雲の中でドイツ軍の砲台より3マイルほど内陸を黒こげにしていたし、キャンパス布の即席ボートに乗った水陸両用戦車は高波に耐えられず、半数がそのまま水没していた。加えてドイツ軍は知らぬ間に新手の歩兵を海岸に配置していたようで、ひどく頑強な抵抗が続いていた。


 この日上陸した連合軍陸上部隊はすべてイギリス軍のモントゴメリー大将率いる第21軍集団に属していたが、その下でアメリカ軍の担当するふたつの海岸を統括するのはアメリカ第1軍司令官・ブラッドレー中将である。ジェロウはブラッドレーに艦砲の増援を、連合国空軍を統括するリー=マロリー大将に爆撃の追加を要請した。アメリカ軍のブラッドレーは自らも洋上にいて、すぐ要請に応じたが、イギリス軍のリー=マロリーは要請を黙殺した。上陸当日、連合軍の空中偵察はイギリス・カナダの担当する海岸に偏っていた。


 ようよう上陸に成功した戦車も、内陸へ出ようとしたところをドイツ軍の有名な88ミリ高射砲に狙われ、内陸への浸透が妨げられていた。連合軍はこの海岸に初日の上陸部隊として12個大隊を用意しており、対するドイツ軍は6個大隊を配置していた。2対1というオッズは、敵前上陸のための比率としては、上陸側に取ってまったくリスキーなものであった。


 ジェロウの司令部から海岸状況視察のために派遣されたマチェット大佐は、無言で海岸の状況を眺め渡した。アメリカ軍はゆっくり、ひとつずつ壕を占領していたが、その代償はひどく高かった。艦砲射撃は、兵の隠れられそうなくぼみを片端から、実際にそこに誰が居ようとお構いなしに粉砕していた。目標たるべき戦車と航空機を見失ったドイツの高射砲は、貴重な上陸用舟艇にその目標を移していた。


 これで戦車が20両ばかり突っ込んで来たら、この海岸は終わりだ。マチェットは上陸以来、まだ一言も発することが出来ずにいた。


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