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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第13章 クロス・カウンター
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7月11日 午前10時 ロシュ・ド・ギヨン(ドイツB軍集団司令部


 ロンメルは落ちつかなかった。シュタウフェンベルクが今日ヒトラーと会うことは知らされていたが、それで落ちつかないのではなかった。前線が微妙な段階にあるのに司令部に縛り付けられているのが苛立たしいのである。シェルブール陥落のあと、連合国空軍の活動が活発になっていることは、各レベルの将軍たちからの報告で明らかになっている。


 ロンメルが託した書状は、いわば空手形であった。この時点において、ロンメルの裁量できる交渉材料は何ひとつない。交渉の意志を表明したに過ぎない。ロンメルがまもなく国家交渉のための全権を握ることを示唆する文言は、慎重に避けられていた。ロンメルは、もしシュタウフェンベルクが失敗したときには、独力でヒトラー打倒のため西方軍に号令するつもりであった。


 この計画は明らかに、ヒトラーへの一般兵士の敬愛を過小評価していたが、反乱メンバーの中でロンメルの断固とした主張を覆せる人物は居なかった。実行力不足と言うほかはないが、この反乱計画全体に貴族的で文弱な気分が漂っていて、クーデターとしての実戦的な準備があらゆるところで不十分であった。例えばロンメル夫人はドイツにおり、一人息子のマンフレートは応召していると言うのに、どちらを保護する準備もないのである。


 そしてロンメルは、政治には素人であった。


 ノックの音が響く。作戦主任参謀・テンペルホーフ大佐であった。


「アメリカ軍が動き出しました。第272師団の戦区です」


最近スペイン国境近くから到着したばかりの歩兵師団である。重装備はほとんど置き去りにしてきている。本格的な攻勢にはひとたまりもあるまい。


「断固撃退せよ。機動防御の機会をつかめ」


 ロンメルは即座に言い放った。連合軍にいま戦線を突破されたら、本当に交渉の材料がなくなってしまう。


 最寄りの戦車部隊というと、マイヤーの師団のはずであった。


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