第8話「マサとカブトの木とスズメバチと」
ここまで読んで頂いた方はお気付きだと思うが、僕はマサとつるむことが多かった。
同じ集落に住んでいた事や同級生であること、更には家が近所なのもその理由だろう。
マサは、実際に現場を見ている僕でさえ信じがたい伝説を持っている。。。
僕たちの集落には「カブトの木」と呼ばれる神がかったカブトムシ捕獲率を誇る木があった。
高さは2mくらいで1cmくらいの穴がぼこぼこと開き、頭は伐られ、枝もことごとく剪定され、離れたところから見れば短い電柱だ。
その穴だらけの電柱は常に樹液を流していて名前の通りカブトムシやクワガタが良く捕れた。
でも樹液を求めてやって来る虫は他にもいた。
カミキリ虫やコガネ虫ならまだ良い方で、一番厄介で最悪だったのがスズメバチだった。
奴等はコチラがちょっかいを出すつもりがなくても、木に近づいただけで「オレ刺しますんで!」と言わんばかりに凄まじい羽音を鳴らして警告して来るのだ。
「うわっ!スズメバチ居る!今日はダメだ!」
せっかく4時起きしてきた甲斐がないが、そんな日は何度も足を運び、奴等のいない隙を狙うしかなかった。
しかし、それも確実ではない。木の天辺にとまっていると下からは見えない。
僕たちは、木の根元を蹴って、振動を与え、羽音がしなければ登ってみるのだが、それでも恐る恐るだった。
相手は昆虫界きっての暴君だ。どんなに用心しても、し過ぎということはないだろう。
そんな暴君相手に、世紀末覇者とも言える人物が現れた。
そう、彼の名は「マサ」生身でありながら、暴君を恐れない、根っからのカブトムシハンターである。
彼が恐れるものは、お母さんと先生くらいなものだろう。
マサは、スズメバチが飛び立った姿だけ確認してスルスルと木に登り、丹念に天辺の穴を探りだした。
そんなにじっくりと探す時間はない。「ブゥーン!」爆音と共にすぐにスズメバチは戻って来た。
「マサ!スズメバチ戻って来た!危ね!危ね!戻って来っせ!」
僕たちは焦りながらマサに逃げるよう促した!
しかしマサは
「大丈夫だ!だって俺1回刺さっちゃごどあんも!(刺された事あるもん!)」
なら尚更逃げて!!
1度刺された経験があるから慣れている。と主張したかったのだろうが、蜂は2回目が危ない!
そうしてる間にスズメバチはマサが探っている天辺付近に近づいていった。マサが追い払おうとしたときだ。ついに黄色い暴君は実力行使に移った。
「痛っでー!!」
「マサ!!」
やられた!僕たちは慌ててマサに駆け寄った!
「痛っでー!あだま刺さっちゃ!(頭刺された!)」
頭を押さえ木の根元に座り込むマサ。
「おめだち!スズメバチ見でろ!」
スズメバチを警戒するように後輩たちに指示をしたが
「スズメバチ居ねよ!?(居ないよ)」
不穏な返答
「刺ささっち、あだまさ来たがらぶっ殺してやっだ!!(刺されて、頭に来たから殺した!)」
そう言って開いたマサの右手にはスズメバチが圧死していた。
手ぇ!?スズメバチを握り潰す勇者を彼以外に僕は他に知らない。
とにかく緊急事態に変わりはない!
急いでマサを自宅に送り届けた。マサは道すがら
「痛でー!痛でー!」言っていたがスズメバチに刺されたのだ当たり前だろう。マサは家に着くまで一度もふらついたりすることなく、スタスタと歩いて帰った。
僕たちは家の人に状況を説明し、マサの身を案じながら解散した。
翌日、その世紀末覇者は不屈のハンター魂と強靭な肉体で復活し、僕らと共にカブトの木でカブトムシを探していた。
また、マサは別の日に別の場所でも刺されたがやはり翌日には復活した。
あれから折角無事過ごして来たのだから今後も蜂には気をつけて頂きたい。




