第5話「裏の川」
僕の家の裏には用水路(田んぼへの水を供給するための水路)が流れている。
現在はU型側溝で蓋掛けになっているが、当時は玉砂利がむき出しのコンクリートで3面(両岸と川底)が護岸されている程度の用水路というより小さな川であった。幅は1〜1.5m、水深は深いところで2〜30cmだったと思う。
比較的綺麗で、野菜を洗ったりしているばあちゃんもみかけた。
自転車で遊んでいる子供がよそ見をしたり、スピードの出しすぎでブレーキが間に合わずたまに落ちたりした。
そんな小さな川を僕は甘く見ていた。
僕たちの通学は現在と同じ登校班と呼ばれる班で集団登校していた。
ある朝僕は
「ガンジーガンジーガンジー…」
と呟きながら、小走りに走って登校班の集合場所になっている集落外れの広場に向かっていた。前日TVで観た戦隊シリーズに出てきた、動物のサイをモチーフにした敵キャラがそう言いながら一直線に走り回るのを真似ているのだ。
「ガンジーガンジーガンジー...」
マサや後輩たちは当然知っていた。僕は一直線に走り抜けるというその行動までも真似て、広場脇の川を勢い良く飛び越えた。
「おぉーっ!」
マサや後輩たちの感嘆の声に気を良くした僕はアンコールも無いのに再度飛んだ。
「ガンジーガンジーガンジーガンジーガンジーッ!」1回目のジャンプより勢いはあった。勢いはあったのだが、踏み込む位置が悪かった。川から遠すぎた。
「う、うゎあぁーっ!」
右足は対岸に届いたのだが、体がついて来ていない。
僕はみんなが見ている前でランドセルから川に落ちた。
対岸にずぶ濡れで上がってきた僕を心配したマサが
「とし!大丈夫が!?大丈夫が?!」
川を助走なしで跳ねて渡ってきた。マサの運動神経の良さを差し引いても助走なしで跳ねて越えられる川を、助走をつけて跳ねて落ちたのだ。
なんという屈辱。
なんという赤っ恥だ。
着替えのために戻った家では出勤前の母親に見つかり
「うぅ〜やんだ!!おめー何やってんの!バガであんめが!(あらいやだ!何をしてるの!馬鹿じゃないの!)」
と、こっぴどく怒られ、着替えを終えた僕は一人、濡れたランドセルとその中身を背負ってはるか遠くに見える登校班を重い足取りで追った。




