第4話「ハスコと書道」
どうしても食の細い子は給食が遅くなりがちだ。
ハスコもそんな子の一人。
僕らの大好きなクリームシチューの日もハスコにとってはツラい給食になってしまったに違いない。
5時間目の習字の授業が始まろうというギリギリまでハスコは給食を食べていた。
「5時間目始まっちまーぞー」
そんな彼女を僕たちは面白がって急かした。
泣きながらシチューを食べるハスコが習字の授業中に悲劇のヒロインになろうとは、この時点で僕たちは気付いていなかった。
ハスコの席は僕の左斜め前。
机の上から机の中の教科書まで良く見える。
授業が始まってどのくらい経っただろうか?みんなが習字に集中し出した頃だった。
「ヴォェ〜!」
唐突にハスコが嘔吐した。
「うわーっ!ハスコがゲロ吐いだー!(吐いた!)」
突然の惨劇に僕たちはパニックになった。
皆さんも吐しゃ物には厄介な連鎖という副作用があるのをご存知だろう。ハスコの様子を見ていた周りの数名がその副作用の犠牲となってしまった。
「オヴェーッ!」
「ヴエェー!」
連鎖が連鎖を呼び、次々と悲鳴のような声も連鎖した。
もう授業どころではない。とにかくハスコと被災者救出が最優先された。
10分後には先生が用意した新聞紙でハスコの席の周りはキレイに清掃され、平常を取り戻したかのように見えたが、平常心で習字に集中出来た者は何名いたことか。
「ゥプ…」僕もハスコの机が一望できる斜め後ろという位置が災いし被災しそうになったが何とかこらえることには成功した。
この日以来ハスコの給食を急かすバカ者はいなくなったのだが…
しかしハスコは、その後もたまに嘔吐した。