第2話「ヒロとコックリさん」
僕の少年時代にもコックリさんが流行った。
ジッとしているだけで額に汗が流れ出る季節の学校帰り、僕とシンジはコックリさんを呼び出す約束したヒロの家に寄り道していた。
僕たちはコックリさんを呼び出す儀式のために新聞広告の裏に錬金術よろしく模様と文字の書かかれた紙と10円玉を準備し、部屋を締め切り、唯一南側にあるサッシ窓を空け、いよいよコックリさんを招き入れる準備が整った。3人が10円玉に指を乗せ、儀式が始まった。
「コックリさん、コックリさん、南側の窓が開いでますので、そごからお入り下さい」
とか何とか口上を述べた。
「お入りなったら”はい”にお進み下さい。」
すっーと10円玉が動き出し、広告の裏面に汚い字で書かれた”はい”に向かった。
「おぉっ!」
僕たちは感嘆のうめき声を漏らした。
「おめだぢ(お前ら)ゆび動がしてねーべな?」
僕は動くはずがないと思っていたので、すぐに二人を疑った。
「動がしてねーよ!」
ヒロとシンジは即答した。
額の汗もどこへやら、僕らはすっかりコックリさんに心奪われ将来のお嫁さんの名前やら、将来の職業やらを聞きまくった。
お嫁さんの名前が同級生の名前しか出てこなかったり、職業が少年時代の憧れだったプロ野球選手や大工だったのはナゼだろうか?
今なら時代を反映し、国家公務員やソーシャルワーカーなんて答えもあったかもしれない。
色々と3人しか知らない情報を得た僕たちは満足して、その日はコックリさんにお帰り頂き無事儀式は終了した。
…かに思われたが翌日ヒロが大変なことになってしまった。朝から深刻な顔のヒロに密かに打ち明けられた。
「ちくしょーやらっちゃ!呪わっちゃ!(くそーやられた!呪われた!)」
どうやら僕とシンジが帰った後、コックリさんが再度ヒロ宅を訪れ、彼の右手人差し指に取り憑いてしまった!と言うのだ。
コックリさんは授業中だろうが何だろうがヒロの意思とは関係なく現れては勝手にノートに落書きをしてしまう。
文字を書いたりもするが酷く下手くそな字だ。昨日までは10円玉で文字を指すのが精一杯だった事を考えればそれも納得である。
だが先生に気付かれ、祓われるのを恐れてか先生が近くに来るとおとなしくなるのであった。その日一番大暴れしたのは、僕とヒロが放送委員会(ご存知でしょうか?お昼や掃除の時間に放送室からレコードをかけたりする係。)
で、お昼の放送で放送室にこもったときだ。
二人きりなのを知ってかコックリさんはヒロの右手の指揮権を奪い、ヒロがレコードをかけようとすると、レコードを最初から再生するのを拒み、スタート位置に針を乗せさせてくれない。途中で針を放してしまうものだからレコードは何度も途中から再生されてしまった。
その日の給食はカレーであったがヒロの食事を邪魔をしなかったのはコックリさんもカレーが好きだからなのかも知れない。
給食が終わる頃には、いよいよコックリさんはヒロの右腕まで支配下にしてしまった。
右腕に引っ張られて右往左往する姿は、コックリさんに支配されているというより、
単に楽しく踊るヒロ
で、しかなかった。
掃除の時間の放送ではついにヒロの口を支配するまでに力をつけてしまった。
「これで掃除の時間を終了します。」と言う筈が
「これで、ふぉーじの時間うぉ...ふぉーじの時間うぉ...」になってしまうのだ。
仕方なく僕が掃除の終了を告げた。放送の全日程も終わり、僕はヒロの今後を気の毒に思いながら下校した。
次の日、コックリさんはお帰りになったとヒロに告げられ、
ちょっとミステリーな2日間が幕を閉じた。