第13話「殺人つらら」
「わぁ〜雪だ!綺麗だねぇ♪」
そんな甘っちょろいセリフは雪国に住んでいれば出てこない。
雪がロマンチックなんて雪国に住んだことのない人の幻想だ。
本当の雪は、厄介で怖い。
音も無く降り続き、一晩で30cm40cmと積もり、道路も田んぼも家も木々も全てを真っ白に埋め尽くし、時には車をスリップさせ田んぼへと引きずり込んだ。
同時に僕らの行動範囲を劇的に狭めた。
しかし僕らはそんな状況にも素早く順応し、キラリと透き通り、伝説の剣のように軒先にぶら下がる
「つららブレード」
の収集に夢中になった。
あの頃は平屋建ての住宅が多く、しかも雪崩が軒下に積もるので、雪崩に登り小学生でも容易に屋根まで届いた。
つららは屋根に積もった雪が太陽の日差しで融かされ、軒先から滴り落ちた水が夜の気温低下で凍ったものだ。
30cm以上のつららになると、屋根から取った振動で折れてしまい長いままで入手するのは困難であった。
ようやく手に入れても、その状態を保持するのは難しく、名案とばかりに雪の中に入れて保存などしようものなら、雪がつららにくっついてしまい、二度と取り出せない。
僕らは
「伝説の剣士」として、とにかく長い
「伝説のブレード(つらら)」が欲しかった。
快晴の翌日は狙い目だ。
大きめつららが比較的簡単に手に入ったからだ。
そんなある日、僕らは反則的に巨大なつららを発見した!
冬期間はいつもの田んぼ道を通る登校ルートが雪で閉鎖されてしまうので、遠回りだが広い国道を迂回した。
当時、国道とはいえ歩道が除雪されることはなく、歩道に片付けられた車道の雪の山の頂上を歩いた、多少危険であったが他に通る道がないため仕方なかった。
そのルートでまさかの巨大つららを発見したのだ。それはすでにブレード(剣)のレベルではなく、ビームサーベルかドラゴンでも相手にしそうな大剣である。
それはガソリンスタンドの屋根から延びて地面まで届いていた。
「何だあのつらら!!」
「すげー!!なげーっ!!(長い!!)」
ガソリンスタンドの屋根から地面まで10mはあるだろうか?
そのままの形で入手するのは絶対に不可能だったが、せっかく見つけたビームサーベルだ!何とかしたい!
雪玉を数発ぶつけてみたもののびくともしない。仕方なく 殴ることにした。この時点で
「ビームサーベルを入手する」
という目的から、
「巨大つららの一部を入手する」
に目的が変わり、僕らは勇敢な
「伝説の剣士」から
「格闘家」に転職した。
スキー用の厚手の手袋もしてるし、思い切り殴った!
「おらーっ!!」
ガンッ!!
「痛でー!(痛い!)」
硬い!!つららとは思えない。つららはすぐに折れるものだ。手を焼いた僕らは、もう最終手段として蹴った。
次の瞬間
「バキンッ!」
とつららは折れ、上から分割され降ってきた!
30cm四方はあろうかという氷の塊である。
「あぶねぇ!!」
僕らは慌てて避難した。
「ガゴッ!!バーーンッ!!」
氷の塊は目の前でコンクリートの地面に当たり粉々に砕け散った。
あんな氷の塊が直撃したら怪我ではすまないだろう。いつも簡単に折れてしまう貧弱なつららと同じ物質とは思えなかった。幸い怪我はなかったが、まさに殺人つららであった。
数日でつららは成長していたが、僕らは二度とガソリンスタンドのつららに手を出すことはなかった。




