第12話「最新型チャリンコ」
その日僕とヒデとシンジとヒロの4人はチャリンコを
「押しながら」急なつづら折りの山道を登っていた。
理由は簡単だ。
山道をチャリンコで下るため。
この山道をチャリンコで疾走したら気持ち良いに違いない!!
ただそれだけのために僕ら4人のチャレンジャーは滝のような汗をかきながら山道を登っているのだ。
ただ足下は舗装されていない砂利道と雨水の流れによる道の浸食で想像以上に歩きづらい。
僕のチャリンコは方向指示機付きで、5段変速!しかも、カゴは折り畳み式自転車後部設置タイプ!
かっこいい!自慢の最新型チャリンコである。
今では
「変速機付き」と、わざわざ言わないし、ウィンカー付きのチャリンコなんて全く見かけない。
当時僕らは変速機付きを
「段付き」と呼び、切り替える
「段」が多いほど強いとされ憧れだった。
低速時と高速時に最適なギアに換えられるなんて、画期的で近未来のシステムに感じられた。
ウィンカーだって、ただチカチカと光るだけではない。デコトラの様に横一線に並んだオレンジの電球がウェーブ状に光り、その辺のバイクより派手に目立った。
カゴは折り畳み式になっていて、普段使わない時は薄く折り畳むことができ、空気抵抗軽減に一役買っていた。
そんな最新型チャリンコはとにかくかっこよかった。
「くったびっちゃー!(くたびれたー!)」
4人のチャレンジャーは登り始めて2時間ほどで頂上に着いた。
登った距離は2kmくらいだろうか。道の悪さと勾配がキツく、時間がかかってしまった。
僕らはこれから始まるエクストリームにドキドキしたが、登った2時間の疲労感と下るのがもったいなくてなかなかスタート出来なかった。
15分くらいの休憩の後、ようやく僕らは相棒のマシーンに跨がった。
下り坂はスピードに注意しないとコースアウトしそうな感じだ。
スタート!!
「うわ゛ーっ!!おっかねーっ!!(怖いー!!)」
スタート直後から、僕は猛烈に後悔していた。爽快感のカケラも感じない。そこにあったのは恐怖感だけだった!
未舗装の山道にチャリンコは際限なくガタガタと激しく揺れ、サドルに腰を下ろすことも出来ない。
カーブするたびに後輪は横滑りし、気を抜けば、浸食跡にはまり転倒しそうだ!
転んだら…メージするのは、全身包帯で松葉づえの自分。
誰だ!こんなことを思い付いたのは!
風を斬って疾走る?
無理だ!!骨折全治三ヶ月が関の山だろう!
暴れるチャリンコを押さえつけ、最新型の性能の片鱗を垣間見せることもなくゴールした。
結局思っていた爽快感はまったく得られず、残ったものは恐怖感と悲壮感と・・・ウィンカーの壊れた最新型チャリンコだった。
その後、数ヶ月のうちに何度もチャリンコを転倒させ、カゴは折り畳めなくなるほど変形し、ウィンカーは割れ、
「段」だけが最新型の証しとなった。




