第11話「カズロウと血ぃ吸い虫」
僕には同じ集落にカズロウという同級生がもう一人いる。
カズロウはチョッと変わっていて、悪い意味で頑固なのだ。
僕とカズロウとマサが一緒に下校している途中、杉の造林畑の細いあぜ道を歩いているとそれは飛んできた。1cmくらいで頭が黒くはねが緑色の虫だった。
その虫は何匹か飛んでいて、その内の1匹がマサの服にとまった。するとカズロウが慌てた様子でこう言った
「危ねよ!それ血ぃ吸い虫だよ!(ちいすいむし)」
「はぁ?」
僕とマサはキョトンとした。
今までに
「血ぃ吸い虫」
などというそんな危険極まりない昆虫の名前は聞いたことも無いし、夏に血を吸う虫は、蚊かプールにいるアブと相場が決まっていた。
「嘘こいでんなよ!そった虫聞いだごとねー!!(うそつくな!そんな虫聞いた事ない!)」
「嘘じゃねー!俺こないだ吸わっちゃも!
(この前吸われたもん!)」
僕とマサの反論に対しカズロウは
頑として吸血系の虫だと譲らないばかりか吸血されたと言い出した!
「ばーが!ばーが!嘘こぎ野郎!(嘘つき野郎!)」
僕とカズロウは喧嘩にまで発展した。
「ばーが!」
僕が拾って投げた石はカズロウのランドセルに直撃した。これがカズロウの逆鱗だったらしく、この後僕はカズロウのしつこさに舌を巻くことになるのだが、この時点ではエキサイトして、もう一緒に帰るどころではなかった。カズロウが500mくらい離れるのを待って僕とマサはカズロウの悪口を言いながら歩き出した。
「血ぃ吸い虫とがいる訳なーべな!ばがだあれ!!」
道々怒りも収まり家につく頃にはすっかり違う話題になっておりカズロウのこともすっかり忘れていた。
僕が家に入ろうとした時だった。突然カズロウが隣の家の庭木の中から姿を現し石を投げつけた。石は僕の頭部に命中し、カズロウは帰っていった。
僕は石をぶつけられたことより、僕が戻って来るまで隣の家で潜んでいたことと、わざわざ石をぶつけ返すという執念深さに寒気がした。
それ以来カズロウとは仲が良くない。
後日知ったのだが、あの緑色の小さな虫は
「オオヨコバイ」
という虫で吸血などしないことが判ったので、皆さまは見かけても安心して欲しい。




