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移ろう夏空

作者: John

雲一つ無い青空。飛行機が飛んでいった。棚引く飛行機雲。太陽神アポローンは容赦なくその灼熱の光線を照射し、大地を焦土させ人間は憂き目を見る。これは、父である全知全能の神ゼウスからの勅命であろう。「アポローンよ、人間はオゾン層を破壊し、破壊力が弱いとは言っておるが尚も代替フロン(HCFC)をばら撒いておる。2020年に全廃すると言っておるが果たして真であろうか?ちょっと現実というものを直視させてやるのじゃ」「はっ、父上。御意に」アポローンはジリジリとその光線を照射し続ける。主婦は言う。「洗濯物が早く乾くから助かるわ。敷き布団もダニが死んでくれて助かるわ」テレビショッピングの大袈裟な司会者が言う。「現在、テレビをご覧の奥様。掃除機掛けのようにするだけで紫外線を照射してダニを殺して吸い取ります。布団を干す手間が省けます。今なら300ドルのレイコップを225ドルというサービス価格でご提供させていただきます奥様、今がお買い得のチャンスです」アポローンは怒った。「私が創った紫外線を人間の分際で人工的に作り出すとは。けしからん」アポローンの怒りで地球の半分は熱波に襲われた。ひび割れる大地。地獄と化すコンクリートジャングル。けたたましい蝉時雨。まとわりつく汗。体臭の饐えた臭い。大地は干上がり人間は雨を待ち焦がれた。ゼウスは言う。「アポローンよ、ちょっとやり過ぎではなかろうか?」「はっ、父上。そうでございましょうか?」「アポローンよ、ちょっと下がって見ておれ。人間には飴と鞭じゃ。わしがやるのは雨と雷じゃがな」ゼウスがそう言うとインドの蛇使いよろしく「レッドスネーク、カモ~ン」と言ったような案配で灰色の積乱雲がもくもくと立ち込めてきた。まさしく暗雲立ち込めるといったような今にも泣き出しそうな空模様になってきた。雷鳴がドーンと轟く。大地を貫かんとするような稲妻がゼウスの怒号のように響き渡る。ゼウスがアポローンを見遣り言う。「まずは鞭じゃ」雷鳴が数発轟き雨がポツリポツリと落ち出した。その雨脚は徐々に強まり豪雨へと変わっていく。灼けた大地に染み込んでいく雨。雨が熱を放射していき人間、植物、動物に鋭気が漲ってくる。ピョンピョンと飛び跳ねる蛙。水面をスイスイ泳ぐ魚。生気を取り戻す植物。涼を楽しむ人間。その雨は息子の行き過ぎた行為を窘めるような雨だった。夕刻。先程までの豪雨が嘘のように晴れ間が広がる。風に流されていく夕焼け雲。ゼウスがアポローンに言う。「人間とは過ちから答えを導き出す生き物じゃ。今後とも自然の恵みを与えつつ、時には自然の驚異を持ってして戒め答えに導いてやらねばなるまい。解ったか、アポローン」「はい、父上。そのお言葉を胸に私も精進してまいりたいと思います」「うむ。夜は人間にとっての安息の時間じゃ。後はお前の双子の妹アルテミスに任せるとしようかの」夜空。雲の隙間から月光のやさしい光が大地とこの地球上で生を営んでいるものの半分を照らし出す。それは、母親が赤子を愛おしく抱きかかえる両手のように包み込んでくれている。そのやさしい光は夜道を帰る足下を照らすように人間を正しい軌道に乗せてくれる導になっているのかもしれない。人間の実態とは闇と光のコントラストで形成されているようなものだ。それは、まるでこの夜空のように…アルテミスは言う。「ゆっくりおやすみ」雲の隙間から煌めく夏の星座。静寂な帳に覆われて眠りにつく人々。やがて闇は白み始める。全ての者に平等にまた東の地平線から日は昇ってくる。

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