兄の内情 -フェルア目線-
今回は、フェルア目線でキリアちゃんが眠った後のお話です!久しぶりに神獣トリオ出せて、作者は内心ホクホクしておりまする。意外と三人組が好き。
「フェルア、もう収まった?」
「おう、まーそれなりにな」
壁に背を預けて、しばらくの間静かに眠るキリアを見ていると、フッと淡い水色の光を纏ってフリスアとキリルが転移してきた。この2人も、俺と同じく【流麗の間】に入ることは出来ない。
「それにしても、なんでホントのこと言わなかったのさ」
「そーそ。それが吸収するのは力じゃなくて負のエネルギーだって」
2人が責めるように、俺に嘘をついた理由を問う。
「そりゃ決まってる。あいつの感情を消さないためだ」
「………あぁ、そういうこと」
フリスアは、このこの言葉だけで察したのか、直ぐに勢いを引っ込めた。キリルは未だに訳が分からない様子でずっとイライラした様子だがな。
「どういうことなの?」
「キリルが来た時にはもういつものキリアだったからわかんねーか。いいぜ、話してやる」
いつになく真剣な声色で、俺とフリスアは念の為に防音決壊を施す。キリアにはバレてほしくねーからな。
「感情を消さないためって…どういうこと」
「まぁ、その前に。キリル。この世界の神々の力がそれなりに感情に左右されるのは1番知ってるよね?」
「勿論。魔力だって、魔法だって例外じゃないことくらいは知ってるさ」
「そう。キリアはその影響を一番受けやすい。特に、最近は力の使用も多かったし、……そうだな、合同演習で相当キレてたからだろうな」
怒り、悲しみ、妬み、恨み。そういった負の感情は、膨れ上がれば次第に負のエネルギーへと変化して、力に直接作用する。合同演習の場合は友達を傷つけられた怒りってことだ。
「でも、負のエネルギーだけじゃ力に作用したとしてもこうやって不調をきたすようなことはなかったはずでしょ?」
「それが、普通の場合はね。キリアは、少し特殊なんだ」
「お前も知っている通り、あいつは人間の体に神の魂が入っている。つまるところ、あいつの体の中に2種類の力が存在していることになる」
厳密に言えばもっとだが……まぁ、それはいいとして。
「キリアは、負の感情を生み出した時、無意識に力を求めるんだよ。『また守れなかった』『もっと、もっと力があれば』そんな思いが力に干渉して、その器以上の力を無理に引き出すんだ」
「力を使ったあとは、だいたい倒れたりしてるだろ?あれは反動のせいだ」
ここ最近も、何回か体調を崩していたようだったからな。何度も何度も力を使って器にヒビが入った証拠だろ。
「だから………」
「過ぎた力は身体に気が付かぬ間にヒビが入って、器に支障をきたし、体が無意識に力を抑えようとする。でも、キリアの思いは日に日に力を求めている。この矛盾があいつ後からの暴走の原因だ」
「力を抑えるための精神力と、膨大な量の魔力と神力。どっちが強いかなんて、普通なら一目瞭然。だけど、キリアの精神力はその力を抑えるだけの強さなんだよ」
正直、普通の人間の体に神の魂が入れば、当然のように脆い人間の体はすぐに壊れる。そんな状態で今生きているキリアは、まさに奇跡。今にも暴走せんとする力を己の理性だけで抑えているのだ。並大抵のものでは無い。
「それは分かったけど……それなら、感情を消さないってのとなんの関係があるの?確かに……キリアから感情が消えるのは嫌だけど」
「言っただろ?あの力を抑えているのはキリアの精神力だ。そして、その源は、キリアの感情。あいつがただ正常なレベルの感情を保っていれば、自ずと力を抑えられるだけの精神力は増強し、より力は統制される」
「だけど、感情が荒くなれば荒くなるほど、魔力の抑制は甘くなって力が強くなる。キリアの望みは叶ったとて、力が暴走して器が壊れてしまうようじゃ元も子もない。良くも悪くも、感情が消えたらそれこそ、力の抑止力が消えるってことになる訳」
個人的にも、キリアに感情はなくして欲しくない。あの優しい妹から感情が抜け落ちて、ただの機械のようになるのはここにいる誰もが望まないことだ。それこそ、昔に戻さないためにも。
「……だから、感情のバランスを崩さないためにキリアに真実を教えなかったの?」
「そーゆー事だ。きっとあいつに本当のことを教えたら、自分で自分の感情を抑え込む。怒りや悲しみの抜けた笑うだけの人形のようにな」
「っ……」
「それだけじゃない。怒りや悲しみが押さえつけられれば、いずれは感情全てが消える。そんなことになれば、今度は力の抑止力が完全に消えて、ただただ自分の中に宿る力を生きるために、世界とともに循環させるだけの存在になる」
キリルが辛そうに拳を握りしめてグルルル……と低く唸る。行き場のないやるせなさをどうにかしたいんだよな。
……それを言うなら、俺とフリスアだってどうにかしたいに決まっている。ただ、それを言葉にすることが出来ないのは全員がわかっているようだった。
「……キリルがここに来る前、……そうだな。フリスアが馴染んできた時くらいか。一時期、突然キリアの感情が抜け落ちてな。トラウマが呼び起こされたのか、それとも他の原因か。何かはわからなかったが、あの時は本当に酷かった」
「……いつまで経っても、虚空を見つめるみたいな瞳で、声をかけても反応してくれなくて。ただただこの【流麗の間】に閉じこもって、数ヶ月の間世界の循環だけをしてたんだよ」
フリスアと、あまり思い出したくはない記憶をキリルに語る。これはキリアに仕える神獣として、たとえ血の繋がっていなかったとしても、あいつの大切な【兄】でいるために知っておかなくてはいけないことだからな。
「ま、それも時間が解決してコロッと戻ってきたがな。とにかく、俺らはキリアが荒れてしまった時に対応できる唯一の手段だ。記憶が芽生えてしまうまでのな」
「……そう言う事……なんとなくだけど分かったよ」
キリルは少し悔しそうにしながらも、理解できた様子でうなずいた。
「でもさ、記憶が戻る気配なんて全くないよ?ホントに……戻ったとしたら、どうなるの。今まで、一回も成功したことなかったんでしょ」
「そうだね。ルアナ様が言うには……だけど。でも、記憶は絶対に戻るらしいよ。前も、その前も、必ず逢って、戻って。そして壊れた。今回だって、もうキリアは逢ったから後は記憶が戻るだけ」
「……もう、防げないんだよね」
「俺らにできることは、記憶が戻るのを防ぐことじゃなくて、記憶が戻った時にあいつが壊れないように支えることだけだ。記憶が戻るのは絶対的に決まったことだからな。どうしようも出来ないことを嘆くよりも小さな可能性に賭けるしかねーだろ」
久々に自分でも真面目なことを言っていて背中がむずむずする。でも、本当にこれしかできないのだ。己の主を何としてでも守るために存在する神獣が聞いて厭きれる。小さな命に助けられたにも関わらず、危険に迫った時に自分たちはどうすることも出来ないのだ。ただ、傍にいることしか許されない。
いや、傍にいられるだけでもいいという物なのだろうか。
「ま、一番いいのは、キリアが記憶を取り戻す前に先にアイツらの記憶が戻るくらいだな。なんせ、方法を知ってるのはあのいけ好かないあいつだけだし」
「そうだね……片割れはいいとして…もう片方はそろそろ目覚めてくる頃なんじゃない?」
眠ってしまったキリアをフリスア達に任せて、一足先に王城に転移で戻る。双子の様子でも見に行こうとすると、どっかの部屋から呻き声が聞こえてきた。
「?」
特に急いでいるわけでもないので小さく空いていた扉の隙間から部屋の中をのぞく。すると、そこはあの王太子サマの部屋だったようだ。豪華な寝台の上で、苦しそうに顔を歪めながら何かにもがいている。
「…………」
俺は黙りながら、そいつの顔を憐れむように一瞥する。基本的に、俺は強い人間以外には興味がない。弱肉強食の狼らしいと言われるが、弱いのは嫌いだからだ。
でも、この王太子サマは他の有象無象の人間とは違う。キリアの本当の兄で、キリアの大切な人。キリアが認めた奴は大体が他の人間とは違う。その識別が意識的なのか無意識なのかは知らんがな。
「ッ……ガァッ……っ!グ、ウゥ……」
苦痛に耐えるようなその表情は、悪夢とはまた違った物を見ているようだ。この部屋の中には、こいつ意外にもいくつもの気配がある。きっと、キリアにあの白蛇を差し向けたジジイからの物だろう。
少しの間、苦悶の表情を見て、一つため息をつき王太子サマの額に手をかざす。すると、少しだけ弱まったのか表情こそそのままで嫌な汗をだらだらと流しているが、呻き声は消えた。うるさくされても困るからな。
「……お前も馬鹿だよなぁ」
ポツリと呟いたその声は、きっとこいつには届いていないだろう。
誰かに見つかる前に部屋を抜けて、ようやく双子の元にたどり着く。今は少し遅かったようで、おやつを食べ終えてお昼寝タイムに入っているようだったが。
健やかな寝顔の横には、休みをもらったのか同じく小さな寝息を立てて眠っているスキアがいた。
「あーあ、今日はとことんタイミングわりぃな」
声を押さえながら、そう愚痴を漏らす。キリアと言いこの気持ちよさそうに眠る義弟たちと言い。話し相手がいない。
不貞腐れながらスキアの顔にかかる黒髪を退ける。端正な顔には、深いもう治ることのないであろう傷がいくつもある。普段は化粧か何かで隠しているようだが、今日は休日だから隠していないらしい。
きっと、「男の傷なんて勲章じゃねーか」なーんて言ったらフリスアがすぐに来て「デリカシーなさすぎ!!!!!!!!」って叫ぶだろうな。
双子の顔も、毎日見かけるようなかわいらしい顔とは程遠いいくつもの傷が刻まれている。誰にしろ許せるものじゃねーけど、特にマナハの顔に傷がついているのは許せねーな。なんだっけ、キリルが「女の子の顔に傷がつくとか、傷つけた奴の魂消しても償い切れないよ????」なんて一時期凄んでたからな。
俺からしたら、その辺はあんまよくわかんねーけど。
「失礼します……って、フェルア様。いらしてたんですね」
義弟たちの寝顔をしばらく観察していると、ギィィッと音を立てながら一人のメイドが入ってきた。長い翠の髪に、高い身長。キリアの専属メイドのエルってやつだったか……俺を見ても物怖じしないのはいつもの事だ。
「おう、お前はまだ仕事か」
「ええ。……キリア様を探しているのですが、どこに行かれてしまったか知りませんか?」
「キリアは家に戻ってる。帰ってくる時間帯は分からねーけど、何か伝言でもあるなら聞いとくぜ」
白々しく部屋をキョロキョロする辺り、こいつも大体どんな返答が帰ってくるのか予想はついてんだろうな。仕方がないですね……とでも言いたげに溜息をつくと、エルが手に持っていたものを俺に差し出してくる。
「なんだ?コレ」
「建国祭での社交パーティーの招待状です。一応、神子として招待されるので今日中に渡しておきたかったのですが、私も生憎これから少し用事で王城を空けることになりまして……よろしければ、お渡しいただけると助かります」
「……分かった。………………それにしても、何かお前変わったか?」
睨むまではないが、観察程度にエルの全身を見る。どこが変わったまでは俺自身も分かんねーけど、見ない間に少しやつれた…………?というか、なんというか。
ドライアドの性質上、王城にある本体に異常があればこいつにも異常が出るのは必然だが、特に変化もなかったし。危害を加えてこなければ何も口は出さないが…………こいつが倒れたらきっとキリアが心配する。
「特にこれと言って変えたことはないですが……何かおかしかったですか?」
「……いや、なんでもない。忘れてくれ」
きっと気のせいだろう。というか、俺がこいつの事知らないのに心配しても何もなんねーか。
「かしこまりました。それでは、私はこれで。招待状、届けておいてくださいね」
「分かってるっての」
口酸っぱく言われ、少しムカッとしながらも部屋を出ていくのを見守る。キリルか誰かにでも任せときゃよかったな……。
もう時刻は日が落ちるころ。段々と茜色になってきた部屋の中で俺は暖かさに微睡みながら、昼寝をしていた義弟たちと一緒に眠りに落ちたのだった。
読んでくださり、ありがとうございます!
フェルア「………」
エル「?」
フリスア「フェルア、いくら自分が上手く使われてる自覚があるからってそんなに不貞腐れないの」
フェルア「うっせ」
フェルアはエルさんが苦手だったりする。
次話は、キリアちゃんが目覚めた後、パーティーのパートナーを探しに行きます!まぁ、言わずともわかる、あの男のことですね!




