神獣達の人の姿 -キリア目線-
今回は、キリアちゃんの家に泊まることになったユキ君のお話です!神獣達の人の姿も……?
「キリアー、お風呂上がったよー」
階段からユキの声が聞こえてくる。あれから家に帰り、ユキの泊まる準備をしながら夕飯を食べた後、順番にお風呂に入っていたところだった。
「はーい!…にしても、フェルア遅いね…」
「ニャアー」〈また森に行ってるんでしょ。最近魔物が増えてきたから丁度いいんじゃない?〉
「んー……でも、帰りが遅いのはやっぱり心配だよ。いくら強いからって言っても、お腹空いたら森の中で倒れていそうだもん」
いくら神獣と言えどもお腹は空くのだ。特にフェルアはよく食べるので、みんなよりお腹が空くのが早い。一日中何か食べていると言ってもいい。
「なぁん」〈あー…ありえそう。まぁ魔物と戦ってるなら倒した魔物の肉でも食べてるでしょ〉
「それならいいんだけどね…出来るだけ早くに帰ってきて欲しいんだよ…ほら、フェルアって外傷には強いけど腹痛とかにはめっぽう弱いでしょ?」
「ニャーァ」〈…そういえば、この前まだ焼けてない肉を食べてお腹壊してたもんね…フリスアの料理は完成するまでつまみ食いしちゃいけないのに…〉
苦笑しながらソファーに寝ているキリルのふわふわの毛に顔を埋めて待っていると、階段からユキが降りてくる。
「あー、まだフェルアとフリスア帰ってきてないの?」
「うん…もうすぐ帰ってきてもいいんだけどね…フリスアはフェルアを探してくれてる」
「そっか」
濡れた髪をタオルで乾かしながらユキが私の隣に座ると優しい手つきで頭を撫でる。???急にどうしたの?
「心配しなくても、フェルアがちゃんと帰ってくるのはキリアが1番分かってるでしょ?」
「…うん!」
確かに、心配はしてるけどちゃんと帰ってくるっていう自信はある…それなら、ユキの言う通り信じて待っていた方がいいのだろう。
「ニャーン」〈そういえばユキ、僕の人の姿が見たいって言ってたよね?〉
「え、見せてくれるの!?」
ユキが急に目を輝かせてキリルの方へ振り向くと、キリルが笑いながら答えてくれる。
「ニャアー」〈こんなに期待されちゃったら見せるしかないでしょ!それに、僕は隠したいってわけじゃないから〉
そう言うと、キリルがソファーを飛び、空中で体から光を放つ。眩しさに目を瞑り、光が収まった時に目を開けると、そこには白いネコ耳と黒い尻尾を生やした金髪紫眼の美青年。もといキリルが立っていた。
「わぁぁぁぁああっ!!え、え、キリルなの!?」
「そーだよ。これが僕の人の姿。どう?カッコいい?」
「うん!めっちゃかっこいい!!」
キリルの人の姿に大興奮しているユキと、褒められて嬉しそうにピースをしているキリル。なんだかカオスな状況…。まぁ、キリルがかっこいいのは分かるけど…
「ねぇ、髪触ってみてもいい!?」
「いーよ。はい、耳は触らないでね?」
「うん!わぁ…ふわふわしてる…」
ユキが触りやすいように、キリルが屈むとその身長差がよくわかる。ユキも普通より大きい方だとは思うけど、キリルと並ぶと小さく見える。もっと小さい私が言えることじゃないけど…
「それにしても、キリル大きいね…身長どれくらいあるの?」
「んーと…確か180くらいはあったかな…ユキと多分50cm差くらいだと思うよ」
「いいなぁ…あれ、俺キリルに身長教えたっけ…?」
「こら、キリル。人のステータスを勝手に覗かないの」
「いたっ…もー、叩かないでよー」
屈んでいたキリルの頭をペシッと叩き、注意をする。キリルは叩かれた頭をさすりながら不服をもらすと、ヘラヘラとしながらユキに謝る。
「ごめんごめん。僕、人のステータスを覗くのが趣味だから」
「え…どんな趣味なんだよ…」
ほら、ユキにも引かれてるじゃん……
「えへへ…結構楽しいよ?その人の黒歴史とかたまに見れるし。でも、流石に本人が隠したいことまでは無理矢理見てないから安心してよ〜」
「怖っ…それって見られたことに気づかないから実質覗き放題ってこと……!?」
「まぁ、そうだね!……あ、フェルア帰ってきたよ」
ほんと怖いキリル…。え、今フェルア帰ってきたって言った?家の周辺に張っている結界に意識を集中させると確かにフェルア達が帰ってきていた。それもフェルアが血塗れでフリスアに担がれている状態で。
「なんで血塗れなの…家汚れるじゃん…」
「え、心配するのそっちなの!?」
「まーまー、ユキ。あれはただの返り血だから心配しなくてもいいよ。それにしても、綺麗好きのフリスアが返り血浴びたフェルアを担いでくるなんて珍し……あぁ、そういうことね」
何かに納得したようにキリルが頷くとバスタオルを《無限収納》から取り出して窓から飛び降りる。一応ここ二階なんだけど…大丈夫か。
「え、え、何があったの…?」
「えっとね、フリスアは綺麗好きで血とか汚れが嫌いなんだけど、珍しく汚れるのも気にせずフェルアを担いでたかと思ったら魔力で箱を作って運んでただけだったっていう」
「ええ…」
「このままじゃフェルアがヤバいからキリルが助けに行ってくれたんだけど…」
「何か…思ってたのと違う……」
これがこの家の日常なのだから仕方がない。フェルアが森に行って、私が心配して、フリスアがフェルアを探して、キリルがフェルアを助ける。この流れは普通ではないが、慣れて仕舞えば違和感なんて感じなくなる。いや、それはそれでいいのかと思ってしまうけど……
「ふー…ただいまキリア。ちょっとフェルアを風呂に放り込んでくるね!」
「あー…おかえり。…程々にね……?」
フリスアがフェルアを担いで帰ってくると、ニコニコしながら風呂場に向かっていく。笑顔が…笑顔が怖いですフリスアさん……
「ちょっと……フェルア大丈夫なの…フリスアがめっちゃ清々しい笑顔で屍みたいなフェルアを担いでたけど……?」
「大丈夫だよ。ご飯食べればすぐに元に戻るから」
「???フェルアの体どうなってるの……?」
回復力が高いというよりも異常と言った方が正しいのがフェルアを筆頭に神獣の常識だからね…あと屍はやめてあげてね…?
「ただいま…ごめんキリア、間に合わなかった…」
「おかえりキリル。今フリスアがフェルアを風呂に放り込んでくるって言ってたけど、キリルは大丈夫だった?」
「僕は何とか…あのフリスアは止められなかったけど…」
「ううん、ありがとう。止めようとしてくれただけでもフェルアは嬉しいと思うから」
何故か少しボロボロになりながら帰ってきたキリルを労いなっていると、もうフリスアが戻ってくる。
「ふぅ…あ、キリルもう来たの?」
「あ、フリスア、お疲れ様。いつもありがとう」
「ううん。キリアにあんな所まで行かせられないよ…あのバカまた山の方まで行ってたから…。ホント、どこまで行けば気が済むんだか….」
溜息を吐きながらソファーにうなだれるようにもたれ掛かり、人の姿から青い鳥の姿にもどる。
「………え?山って…この近くになかったよね…?」
「ここから少し離れた先に、レルドナっていう火山あったでしょ?そこに行ってたんだよ」
「…レルドナ山脈って、魔の森を抜けた先にある死詠の谷と繋がっている山?」
「そうそう。相変わらず馬鹿みたいな体力してるよ」
「嘘だろ…ここから6000kmは離れてるはずなのに…」
それがフェルアならすぐに行けちゃうんだな〜…レルドナ山脈の頂上、誰も登らないような場所にフェルア専用の別荘もどきが作ってあってたまに魔物が侵入していないか確認しに行ってるんだよね…
「ピィッ……」〈フェルアならすぐ行ける距離だよ。というか、あいつまたお腹空いたらしくて魔物の生肉食べてた…はぁ…一応夜食は持たせてたはずなのに…〉
「しょうがないよ。フリスアが1番知ってるでしょ?あいつが馬鹿みたいに食べるってこと」
「ピィ…」〈そうだけどさぁ…〉
さっきから馬鹿馬鹿言ってるけど、そんなに言ってると…
「ワウゥウウッッ!!」〈お前らさっきから馬鹿馬鹿うるせぇよ!!誰が馬鹿だよ!!〉
「ピィッ」〈「え、フェルアの事だけど?」他に誰がいるの?〉
「…綺麗にハモった…」
ほら来た。フェルアは耳がいいから馬鹿って言われると飛び出してくるんだよね…
「お前らいい加減にしろよ!俺は馬鹿じゃねぇって言ってるだろ!?」
「だって、馬鹿は馬鹿としか言いようが…」
あぁ、帰ってきて早々騒がしいなぁもう。
「ほら、喧嘩しないの。フェルアもその姿だと早く乾かないでしょ?拭いてあげるからおいで」
「キュゥン…」〈…分かった〉
大人しくなったフェルアが耳と尻尾を下げてとてとてと歩いてくる。フェルアが目の前にポスンと座り、濡れたままの銀色の毛並みをタオルで優しく拭いていく。
「そういえばフェルアも人の姿になれるんだよね!どんな姿になれるの?」
「ワゥ」〈俺は銀髪で、目が緋色って言えばいいか?まぁ、これが終わったら見せてやるよ〉
「ありがとう!待ってる!」
〈…そんなに楽しいものか?コレ〉
フェルアが私にしか聞こえない念話を使って話しかけてくる。まぁ、ユキが楽しいならいいんじゃない?
「あ、そういえばフリスアの人の姿ゆっくり見れなかったからもう一回見てみたい!」
「ピイッ」〈……別にいいけど…少しだけだよ?〉
「やったぁ!ありがとう!」
ユキがはしゃぎながら喜んでいるのを苦笑しながら、フリスアが人の姿になる。フリスアの人の姿は淡い水色の髪にキリアと同じ色の翠色の瞳をした青年だった。
「ほら、これが僕の人の姿だよ…さっきも見たと思うけど」
「あれ、なんか不機嫌だね…」
あー…多分フリスアはアレのこと気にしてるんだね…
「ワゥン」〈フリスアはな、俺らよりも身長が低いことを気にしてんだよ。ほらキリルよりも低いだろ?〉
「……フェルア…?お前はどうやらまた毒の耐性をつける訓練がしたいみたいじゃないか。どうする?今から始めるかい?」
こめかみに青筋をピキピキと立てながら黒い笑みを浮かべたフリスアが近寄ってくる。怖いです…ユキ怯えちゃってるから…ね?
「フリスア、それなら今じゃなくてもいいでしょ?今は夜なんだから、フェルアの悲鳴が響いたら寝てる魔物達起こしちゃうよ?」
「そっか、それもそうだね。それじゃあまた今度にしようか」
「ええ…やる事は決定なのか…」
フリスアの剣幕に怖がって私の背中に隠れているユキがボソッと呟く。フリスアだけは怒らせちゃダメだからね?
「はい。乾かし終わったからもういいよ」
「ワォン」〈ありがとな。それで、俺の人の姿が見たいんだっけ〉
フェルアが立ち上がり、体をブルブルと震わせると、ユキの方に向き直る。
「あ、うん!」
「ワンッ」〈それじゃあ、ほいっと〉
一瞬、フェルアが目の前から消えたかと思うとそこにいたのは銀髪緋眼のスラッとした高身長で、狼の耳と尻尾をつけた青年、もとい人の姿のフェルアだった。
「〜〜〜っっ!!凄いっ!身長もキリルより大きいし、カッコいい!!」
「そうか?俺は別にそういう事は気にしてないけどな…」
「髪触ってみてもいい!?」
「あ、あぁ。今キリアに乾かしてもらったばっかだからまだ湿ってるけどそれでいいならいいぞ」
ユキが声にならないくらい興奮しながらそーっとフェルアの髪に触れる。さっきキリルが人の姿になった時もそうだったけどフェルア、引かないであげてね?
「わぁ…人になる前はふわふわの毛並みだったのに、髪はめっちゃサラサラしてる…一体あのもふもふがどうやったらこんなにサラサラに…」
「それがな、俺にもわかんねーんだわ。気付いたらこの髪型だったわけだし」
「僕としては羨ましいよ。僕は見ての通りくるくるの天パで猫っ毛だから手入れするのも大変なんだ…」
ユキに頭を撫でられながらむず痒くしているフェルアと、それを羨ましそうにみているキリル。これはまるで…
「「また弟ができたみたい」」
「え?」
ハモった…フリスアと綺麗にハモった…うん。そうだよね。
「あはは…なんだかユキ達のやりとりを見てると懐かしいなーって思って…」
「それもそうだな!いやー、フリスアとキリルが来たときはこんな感じだったもんなー…懐かしい…」
「む。俺は弟っていうより兄って言われた方が嬉しいんだけど…」
ちょっとユキがムスーっとしていると、フリスアがユキの頭をポンポンと叩く。
「僕たちからしたらユキも弟みたいって事だよ。流石にこれは生きてきた年月が違うからね…」
「そーそー。俺からしたらこの家にいる皆弟と妹みたいなもんだからな!」
「いや、フリスアはどっちかっていうとお母さんって言ったほうが……」
「ん?キリル?何か言った?」
キリルの言う事は分からなくもないけど、ここで言う事じゃないよ…フリスアは相変わらず笑顔が怖いんだから……黒い…
「んじゃ、久しぶりに手合わせでもするか?フリスア。最近やってなかったから腕が鈍ってる気がするんだ」
「別にいいけど、今日は流石にやめてよ?もう遅いんだから」
「わーってる。じゃ、そろそろ寝るか」
明日はフェルアとフリスアの手合わせかぁ…地面の補強しないと……
「あれ、そういえば俺ってどこで寝るの…?」
「ん?ユキはキリアの部屋だよ」
「分かった…って、ええ!?」
サラッとフリスアから放たれた爆弾発言にビックリする。え…私の部屋で寝るって事は、ユキと一緒に寝るってこと!?
「ほ、他に部屋はないの!?」
「ない事はないけど、何も置いていない部屋しかないよ?」
「うっ……」
「まー、俺らは神獣の姿に戻っていつもキリアの部屋で寝てるけどな。だから大丈夫だ!」
何が大丈夫かは分からないけど、あるじゃん!こう言う時のための客室が!どうしたのフリスア!
「分かったよ…ちょっと恥ずかしいけど、キリアと一緒に寝るから…」
「え、なにこれ。私が悪いみたいになってない!?」
「まーまー、細かいことは気にせずに、早く一緒に寝ようよ!」
うう…分かったよ…諦めてみんなで5階の自室まで行くと、すぐにフェルア達が神獣の姿に戻ってベッドにダイブする。
「…ここがキリアの部屋かぁ…1人部屋にしては広いね…」
「まぁ、フェルア達がいるから実質1人ではないけどね。さ、早く寝よう?」
「うん」
布団の中に潜ってうとうとしてると、すぐに隣から寝息が聞こえてくる。今日は色々あって疲れちゃったのかな…
「おやすみ、ユキ」
そう言って目を閉じると、私は深い眠りについた。
読んでくださりありがとうございます!
次話は、神獣達が手合わせをするようです…