少年の嘘 -ユキ目線-
少し前に書いて、行き詰まっていたものがようやく書けたので早めに投稿しました!
今回は、ギルドを飛び出したユキ君と、それを追いかけていったフリスアのお話です!
「ピィッ」〈ユキ!待って!〉
ギルドから離れた町の外れを走っていると、まだ後ろからフリスアが俺を追ってくる。俺は、あんな所に戻りたくない。俺の帰る場所はあそこじゃないんだ…!
「………っ」
「ピィ……」〈はぁ、せめて帰りたくない理由くらい伝えてから走ってよね。あの子は何も知らないんだからさ…〉
ヒュッと冷たい風が頬を撫でるとさっきまで飛んでいたフリスアが俺の右肩に止まっていることに気がつく。…いつの間にこんな近くに…気づかなかった…やっぱり神獣様だからか…?
「…っ、ついてこないでよ…」
「ピィッ…」〈僕は別にいいんだけどね…ユキ。今逃げたとして、どこに行くつもりなの?君の帰る場所はここじゃないだろう?〉
フリスアが全てを見透かしたように俺に語りかけてくる。さっきから変な気持ちが胸の中をぐるぐるしている。フリスアに全てが知られているようで怖い。
「っ…そんなのわかってる…俺に帰る場所なんてないことくらい…でも、どうすればいいのかわからないんだっ!」
右肩に止まっていたフリスアを追い払うように薙いだ左手が空を切る。フリスアは一瞬にして肩から離れ、少し高い空中に浮いていた。
「……え…?」
そう、浮いていた。美しい水色の毛を持つ鳥としてではなく、俺よりもずっと大きい淡い水色の髪の青年として。
「…フリ、スア?」
「…これは僕の人間の時の姿。そう驚かないでよ。…で、どうすればいいのか分からないって?」
「…う、うん」
浮いていたフリスアがストンッと地面に降りてこちらに歩み寄ってくる。
「僕は君の事情を知っているだけだから、どうしたいのかはユキが決めることだけど…」
フリスアが俺の目の前まで来ると、少し屈んで頭を撫でてくる。な、なんで急に!?
「まず、困った時は周りに相談しなさい!ここの人たちはユキの周りにいる人たちよりは断然優しい!分からないままじゃ、何もしてあげられないんだからねっ!」
「う…うん……」
さっきまで俺の頭を撫でていた手が、額をピシッと弾く。ヒリヒリと痛む額が、グルグルとしていたものを追い払ってくれる。
「それに、まだ出会って少ししか経ってないけど、僕たちがいる!キリアだって、あのバカたちだって、相談くらいなら乗れるし、ユキが何かしたいなら全力で助けてあげられる力だってあるんだから!分かった?」
「っ!……うぅ…」
自然と視界が揺らぐ。溢れ出た涙が頬を伝い、服を、地面を濡らす。嘘をついて傷んだ心が和らいでいくようで心地よかった。
「ほら、泣かないの。あ、本当に帰る場所がないならうちに来る?うちならユキ一人増えたところで変わらないし、キリアも許してくれるよ?」
フリスアが涙を拭いながら笑ってそう言ってくれる。流石にこれ以上迷惑はかけられない…けど…
「2日だけ…2日だけ、泊まってもいい?」
「……ユキは大丈夫?」
「うん。あと3日は、滞在する予定だったから…それに、出来るだけ、顔を見たくないし……」
少しだけ、この甘い時間に浸っていたくなってしまった…。俺が少し申し訳なさそうに俯いていると、フリスアが俺を引き寄せて強く抱きしめてくる。
「……逃げるのは悪いことじゃない…今、目を向けられなくても、いつか向き合えるから……」
「…ぅっ…うぅ…」
止まろうとしていた涙がまた堰を切ったように溢れ出てくる。止まることを知らない涙は、次々と零れ落ちて服を濡らしていく。
「また泣いちゃったか……早く泣き止んでね?そうしないとキリアに泣いたことバレちゃうから」
フリスアの優しい手が背中を優しくさする。心地よい感覚が溢れていた涙をだんだんと堰き止めていく。
「泣き止んだね。…えらいえらい。さ、キリアを待たせてると思うし、行かなくちゃ」
「うん……ありがとう、フリスア」
フリスアがスッと立ち上がり、俺に手を差し伸べてくる。その手を取り、横に並んで歩くと不思議と心が落ち着く。
「ねぇフリスア、キリアはどうしたら許してくれるかな…」
「…僕には分からないけど、ユキが心からごめんなさいって思えば許してくれるんじゃない?まぁ、怒ってるっていうよりは傷ついていたと思うけど…」
「傷つく?」
……あれだけ強そうだったキリアにも傷つくことがあるのだろうか…
「そう。キリアはね、誰にも負けないくらい、強くて、優しい子。でも、いくら強くても、ただの女の子だから。ユキと同じ、小さな女の子。いくらでも傷つくし、悲しむ」
「……そっかぁ、俺とおんなじ…」
そう思うと、少し心が楽になる。さっきはキリアが怖くて、何も感じていない人形のように思えてしまった。でも、今は出会った時と同じ、普通の女の子に思えた。
「あ、でも。何でフリスアは俺のこと知ってるの?」
ふと、湧き上がってきた疑問。俺とフリスアは今日初めて出会ったはずだ。いくら神獣様とはいえ、俺のような普通の人間に気をかけるはずがない。
「んー…それは秘密かなぁ…僕は全てを知っているとしか言えないし…」
「何それ怪しい…」
「怪しくはないよ…一つ教えてあげるとしたら、僕が司っているのは【水】【風】【氷】【治癒】の4つだよ」
【水】【風】【氷】【治癒】…か。うーん…これがどうやって全てを知ることになるのかは分からない…
「分からなくても大丈夫だよ。いや、10歳の子に分かられても怖いけど…」
「そういうものなの?」
「うん……」
どういう意味なのかと考えながら歩いていると、遠くからキリアの声が聞こえてくる。
「あ!ユキ!フリスア!」
「っ…」
笑顔で手を振ってくれるが、さっきのこともあり少し気まずかった。どうしようか戸惑っていると、フリスアが軽く背中を押してくれる。
「ほら、キリアに謝るんでしょ?早く行かなきゃ」
「う、うん!」
フリスアに勇気を貰い、キリアの元に駆け寄る。
「キ、キリア!その…さっきは何も言わずに離れてごめんなさい…」
キリアの翠色の目をしっかりと見て頭を下げて謝る。すると、キリアは慌てたように視線を泳がせる。
「え、あ、あの、大丈夫だから謝らないで!私も会ったばかりのはずなのにあんなところ見せちゃったから…」
「……いいの?」
「う、うん!それに、ユキだってあんなの見せられて怖かったでしょ?ごめんね…」
頭を上げて確認すると、キリアがグイッと近づいて俺の目を覗き込んでくる。き、急になんなの…!?
「ほら、キリアストップ。ユキがビックリしてるでしょ」
後ろからフリスアがキリアを離してくれる。た、助かった…。
「あ、ご、ごめん…」
「で、ギルマスとの話は終わったの?」
「うん。ちゃーんと報酬は貰っておいたから!あと、今回のお礼もね。ほら、これ見て!ギルマスにもらったの!」
そう言ってキリアが何もない所から二つの袋を取り出す。
「!?」
「あー…ユキは見たことないかな…これは【空間魔法】だよ。キリアはもちろん、僕たちも使える」
く、空間魔法…….確か使える人がほとんどいないっていう…あの!?
「そ、それって魔法袋じゃなくて…?」
「んー、似たようなものだけど、魔法袋が入れるものに制限があったり、付与魔法が必要なのに対して、これはなんでも入れられるし、空間魔法を使えるだけでできることだから、こっちのが使いやすいかな…」
そ、そんなすごいことまでできるのか!?魔法袋は入れ物の口に入る大きさじゃないとダメだし、生き物は入れられないのに…!
「フリスアにはこれ。今回の報酬だって。確か金貨50枚くらい入ってたかな…」
「そう、ありがとう。後で正確な数値にして教えるよ」
「うん、お願い。それと、ユキにはこれ!」
き、金貨50枚……。そこら辺の家なら買えるじゃないか…と動揺していると、キリアがもう一つの袋から取り出した小さな果物をくれる。
「え、俺に?」
「そう!ギルマスが、これで仲直りしなさいって言ったから。後で一緒に食べるようにって渡されたんだけど今食べたいから!」
キリアが小さな口の中に果物を入れると、つい頬が緩む。ニコニコしながら食べているのを見ると、小動物のように見えてきてしまって仕方がない。
「それじゃあ、いただきます」
果物を口の中に入れると、甘い果汁が口の中に広がる。
「ん…おいしい…!」
「でしょー?ギルマスがくれる果物は甘くておいしいんだよ!はい、もう一個あげる!」
「いいの?」
「うん!今日はいっぱい貰ったから!」
幸せそうに喜んでいる姿を見るとこっちも嬉しくなる。元気でいい子だな…さっきまで大人を相手にしてたとは到底思えない…
「あ、そうだ。キリア、ユキがうちに泊まりたいって言ってたんだけど、いいよね?」
「え!?い、いいけど、どうしたの!?何かあった…?…も、もしかしてフリスアに何か吹き込まれた!?」
「え、ちょっとキリア酷いよ…」
あれ……そういえば…
「…キリアってフリスアが人になれる事知ってた?」
「え、うん。知ってるけど?」
……それならそうと言って…!!あんまりビックリはしなかったけど俺1人だけ知らないなんて何か馬鹿みたいじゃないか…
「でも、殆ど人の姿にはならないからね…さっきみたいに、人の姿の方が都合が良い時はなるけど」
「へぇー…ていうことは、フェルアとキリルも人の姿になれるの?」
「うん!そうだよ!」
んー…フェルアとキリルの人の姿かぁ…どんな姿になるんだろう…2人とも毛がフワフワだったし、髪もフワフワしてるのかなぁ…
「ちょっと楽しみだなぁ…」
「じゃあ、見てからのお楽しみだね!…この辺りかな、フリスアお願い」
「うん」
町から少し外れた広場に着くと、フリスアが人の姿から元の青い鳥の姿に戻る。
「さ、帰ろうか!」
「うん。少しの間よろしく」
キリアに差し出された手を取り、フリスアの背に乗ると、すぐに羽ばたき出す。地面がどんどん離れていくのを感じながらこれからの少しの楽しみに胸をワクワクさせていた。
読んでくださりありがとうございます!
次話は、ちょっと場所を変えた話です!謎の少女が思惑することとは一体…?