表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生して、【自然神】(一応人間)になってまったり暮らしてただけなのに‥  作者: 瑞浪弥樹
第一章〜神になって出会う人〜
61/113

ターンチェンジ -キリア目線ー

今回は、フリスア達第三グループの試合途中から始まります!相変わらずの無双っぷりね…


※吸血・流血・喘ぎ声のような描写があります。苦手な方は避けて読んでください

 バチッと魔法がぶつかる音が耳に入ってくる。今は魔法試験である【ミランテッド】の最中だ。簡潔に言うと、現代で言うドッジボール(ただしボールなし&魔法使用可)という訳だ。今は、その中の第三チームの試合をしている。

 出ている人は、貴族役で歌奏(かなで)さんの婚約者であるルイ。まぁ平民チームは省略して次。魔物役で私の義兄であるフリスア、キリル、友達のユキ、義弟であり私に仕えてもいるスキアだ。

 スキアに至っては私の実兄(王太子)であるレオンに言われて、学園に忍び込んできたまだ試験年齢にも満たしていないのだ。何やらせているのだと思ったが、直前で気が付いたので止めることは出来ない。


「っ、火球!」

「だめだめー、そんな弱い炎じゃ水には勝てないよー」


 ルイが炎の塊を線の反対側にいるフリスアに向かって投げつける。勢いよく飛んで行った炎は、フリスアの体に触れることなく霧散してしまった。

 ニコニコと笑みを崩さずに、己に向かってくる魔法の数々を無力化していくフリスア。流石うちのオカンだ。(関係ない)


「ほいっと、ほらほらぁー、さっさと逃げないと当たっちゃうよー?」

「ヒィっ!」


 キリルはと言うと、追尾付きの闇色の魔力球を使って平民役の子を追い回していた。ニィッと趣味の悪い笑顔を浮かべながら、じわじわと獲物を追い詰めるように誰もが気が付かないうちに平民役の子をコートの端の方向に寄せ付けて行っている。

 なるほど、逃げ道塞いでとどめを刺すのか。趣味悪っ。


「わっ!?」

「ユキ様、逃げるならもう少しやり方を考えてください。これでは逃げ場が失われてしまいますよ」

「あ、ごめん!」

「クッソこの二人…ちょこまかと逃げやがって…!」


 躓いてしまった所をスキアに支えられているユキ。二人は、攻撃は全てフリスアとキリルに任せて魔法使い役と騎士役から放たれる魔法を素早い身のこなしで避け続けていた。

 足取りがおぼつかないながらも、器用に逃げ回っているユキと、確実に最小限の動きで避けているスキア。これはもう結果が目に見えている。


「これ……決着つくんですか?」


 私の隣にいたセレスが、試合を見ながらポツリと呟いた。


「大丈夫、フリスアの地雷踏み抜いたら一瞬で決着つきますから」

「へ、地雷…ですか?」


 そう。地雷。まぁ言葉通りの物騒な地雷じゃなくて、悪戯程度の。

 変に応援するわけでもなく、ただ傍観するようにして試合を見ている。セレスの反対側には、あいも変わらず暗い雰囲気を纏っているレイトがいる。ずっと下を向いていて、何を考えているのかが分からない。


 紅莉さんは人見知りなだけだって言ってたけど、これはもう人見知りの域を超えているのでは…


「あ、平民チームの方が動いていなく……」

「引っ掛かったんですね」


 セレスが驚いたように、試合を食い入る。そこでは、平民チームの騎士役が()()()()()()()()()()動けなくなっていた。

 フリスアの地雷だ。


「な、何が起きているんですか!?」

「よーく騎士役の子の足元見てみてください」

「え………あ!」


 私に説明を求めるセレスに、騎士役の子の足元を見るように促す。ジィッとタネを明かさんと見つめていると、何かに気が付いたのか声を上げる。


「糸…ですか?」

「正解です」


 そう、フリスアの地雷とは集中してみなければ分からないほど細い糸だ。相手のコートに嫌と言うほど張り巡らし、その糸が絡まって身動きが取れなくなったと言うわけだ。

 何故それまで絡まらなかったのかは、これが一本だと簡単に切れてしまうからだ。


 フリスアの使っている糸は、お手製のもので切れれば切れた分だけより強固に、より太くなっていくというものだ。最初から張り巡らされていたため、動き回って切れていくうちに段々と足に絡まるようになって遂に動けなくなったのだろう。


「ま、あの地点は特に糸が密集していたので、余計に地雷になりやすい場所だったんですよ」

「あ…だから()()と………」


 何かに納得したように、はっと息を飲むセレス。流石貴族、理解が早くて助かる。


「な、なんだこれ…動けな…」

「しゅーりょー」


 パチンッとフリスアが指を鳴らすと、ブオッと一際強い風が相手側のコートだけに吹き、平民チームは皆総じてコートから出されてしまった。

 ――魔物チームの勝ちだ――


「ほ、ほんとに勝っちゃいました…凄いです」

「やけに時間をかけたかと思えば、すぐに終わらすんだから…」


 セレスが感嘆の声を上げる。ここまで喜んでくれると、当事者じゃなくても嬉しくなってくる。フリスア達にまた今度お菓子作ってあげよう。

 スキアは何事もなかったかのように手袋についた砂埃を払い、スタスタとこちらに歩いてきた。


「お疲れ様。どうだった?」

「どうもこうもありません。ただ、思っていたよりは手応えがなかったので少しばかり残念ではありますが」

「辛口ねぇ、ま、いいけど。そういえば、試験終わった訳だけどスキアはもう帰るの?」

「いえ、キリア様の試合が終わるまでは残らせてもらおうかと」

「そう」


 やった。帰りは天使と一緒に帰れる。

 内心ガッツポーズをしたのを隠すように、座っていたベンチから立ち上がる。そろそろ私たちの番になるから、準備運動をしてこないと。


「あ、あの…どこにいくんですか?」

「ちょっと準備運動に。時間までには戻ってくるから安心してて下さい。あ、セレス様も来ますか?」

「あ、私は…」

「リアクリド嬢、キリア様にはついていかない方がよろしいかと」


 む、セレスも誘おうと思ったらスキアにやんわりと止められた。


「じゃ、行ってくる。スキア、セレス様達をよろしくね」

「かしこまりました」


 そうスキアが返事をしてくれたのを後に、私はその場で転移した。



「よ、っと。」


 ついた先は王城の王族の棟。私はある人を探して辺りをキョロキョロと見回した。

 何故帰ってきてまでかと言うと…


「あ、いたいた」


 視線の先に、目当ての人物を見つける。壁に苦しげにもたれかかりながら、何か唸っている人物。この国の第二王子アレクサンド・アル・エラリアドだ。

 丁度いい。血をあげてついでに相手してもらおう。


「アレク兄さまー!」

「!?」


 手をぶんぶんと振りながら、アレクに近寄る。私の声に気がついたアレクが、ビクッと肩を震わせる。そして、こみ上げてくる衝動を我慢するかのようにガリッと自分の胸元を引っ掻いた。

 あーあー、()()なってる。どれだけ我慢していたんだか。


「な、何で、お前がここに…」

「はーい、御託はいいから取り敢えず飲む!」


 私が王城にいることに目を見開きながら、一歩後ずさるアレク。む、折角優しい優しい妹が血を分けてあげにきたんだぞ。

 見られたら困るから、適当にその辺りの部屋に連れ込みアレクを押し倒してその体の上に馬乗りになり、そのほうけた口に手首を押し付ける。


「むぐ!?」

「さっさと飲んでください、そして私の相手をしろください☆」


 口元に押し付けた手首を魔法で傷つけ、アレクの口の中に血を流し込む。ボトボトと流れ出る赤い血が、アレクの白い肌に飛び散る。後で拭かないとレオンにも怒られるよなぁ…


『ここでおさらい!アレクはエラリアド王国の王家の血を引くとともに、吸血鬼の血も引いているよ!詳しくは三十一話をチェーック!byルアナ』


「んぐっ…っは、んんぅ………」

「ほら、咬みたいなら咬んで。もうすぐ傷が塞がるから」


 例の如くちょっとアレな声を出しながら血を飲むアレクに、声をかける。スゥッと傷が塞がりつつある手首を八重歯に当て付けると、プツリと皮膚を突き刺す感覚がした。自分でつけた傷ではないせいか、噛まれたところからじわっと熱が広がる。


「……っはぁ、はぁ…ん、く…っは、も…っと、」

「はいはい、いくらでも飲んでいいから暴走だけはしないでよ」

「んっ…ふぁ、っんん…」


 じゅるじゅると血を啜る音が、静かな部屋に響く。そんなに血って美味しいのかなぁと思い、自分の血を少しだけ舐めてみる。うん。鉄分しか感じられない。自分の血なんて舐めても不味いだけだな。

 興奮状態になっているアレクの髪を撫でて落ち着かせながら、フリスアに念話を飛ばす。


 〈ねー、まだ前のチームが戦ってる?〉

 〈うん。始まってすぐだし、早々に決着はつきそうにないよ〉

 〈分かった。ありがと〉

 〈…また血あげてるの?〉

 〈そ。相手になってくれる人捜してたらアレク見つけてさ。飢餓状態になってたから今あげてるの。でも、このままだと準備運動できそうにないんだよねぇ〉


 やっぱり何をやっているのか見透かされている。まぁ、神獣だし、私の眷属だから感覚が伝わってもおかしくはないんだけど。


 〈ほどほどにして帰って来てよ?この子たちを怯えさせたら大変だし〉

 〈分かった分かった。それじゃ、またあとで〉

 〈うん〉


 そこで念話が途切れる。ううむ。セレスたちの為にも早めに切り上げて戻った方がいいか…でも、このままアレク放置してたら逆に食欲満たされなくて飢餓状態が続きそうだしなぁ。

 そんなに血をあげる頻度を少なくしてたわけじゃないけど、このままだと血を分けてくれる人の負担が大きくなりそうだし、何より大食いだから血がものすごい勢いで減っていくのが分かる。

 常人はこんなに血が吸われたら血が足りなくなってとっくに死んでいるだろう。


「んぅ…はぁ、はぁ、…、んっ……………ぁぅ…」

「?」

「……んっ、あっつ…い…」


 何といったのか分からなくて頭上に?マークを浮かべていると、突然アレクが咬んでいた手首に舌を這わせる。血で濡れて真っ赤になった舌が、私の手首を赤く染めていく。

 咬まれた場所から滴った血液がアレクに舐めとられ、ペロッと舌なめずりをされる。その顔は真っ赤に火照っていて、呼吸も荒い。トロンと蕩けた目はどこか妖艶ささえ放っていた。……………………これはまさか、まさかの、血で酔ってる?


「えーと、一応聞いておくけど…アレク兄さま、酔った?」

「……ん、なんの…こと…?」


 わぁ。呂律は一応回ってるけどこれは完璧に酔ってるぅ…ガバッとアレクが急に体を起こし、私の首元に抱き着いてきた。…………アレク、酔うと甘えるタイプか。

 すりすりと銀色の髪を首元に擦り付けてくる。くすぐったい。


「アレク兄さま、退いてください。私まだ試験の途中なんですけど」

「…しら、ない…」


 アレクが、私から一向に離れない。あーもう、誰かアレク回収してくれないかなぁ…これだったら飢餓状態はしばらくないと思うし、間違って咬むようなことだってないから持って行ってほしいんだけど…


「おーいアレクー?どこに…」

「…噂をすれば影。レオン兄さま、良く来てくれました」

「あー……取り込み中だったか。すまんな。またあとで出直してくる」


 不意に扉がガチャッと開き、そこから出てきたのはこの国の王太子であるレオンハート・アル・エラリアド。アレクの腹違いの兄だ。私たちの体勢を見て、何かを悪い方向に察したのか頬を掻く仕草をしてそっと扉を閉めようとする。何が取り込み中だ。

 パチンッと指を鳴らし、魔法を使う。すると、私がいた場所がさっきまでレオンのいた廊下に変わっている。扉の隙間からちょこっと中の様子を除くと、レオンがさっきまでの私のようにアレクに抱き着かれている体勢になっていた。

 顔を赤くしてプルプルと震えている。

 アレクはと言うと、私とレオンを勘違いしているのか入れ替わったことに気が付いていないのか、まだレオンの首元に頭を擦り付けていた。


「な、何だこれ…」

「アレク兄さま、血で酔っちゃったらしくて。私これから試験の続きがあるのでこれで失礼します」

「ちょっと、これなんとかしていけ!」


 レオンの悲鳴も虚しく、パタンと扉を閉めて私はその場から転移した。これぞまさに【忍法・身代わりの術】ってね。たまには兄弟間の時間も大切だと思うんだ私は。うん。



 転移をしてスタッと地面に着地すると、後ろから誰かに抱き着かれる感覚がする。


「??」


 誰なのか分からないから後ろに手を伸ばすと、フワッと心地いい髪の毛の感触がした。


「ええと…ユキさーん?」

「助けて」

「え」


 この気持ちいい髪の感触はユキだ。そう思って声をかけたら、予想通りの声と予想外の反応が返ってくる。えっとまさか何か変なこと巻き込まれたとかじゃないよね?助けてって不穏な空気しか感じられないんですがそれは。


「ユキ様!」

「!!」


 何のことかと取り敢えずユキの手から逃れようとした時、後ろの方から黄色い声が飛んでくる。あー、この声は、——ヒロイン——


「もうヤダもうヤダ。何あの子、俺の事すっごい追いかけてくるしどこに隠れても見つけてくるし、挙句の果てには俺の方に飛んできた魔法弾光の魔法ではじき返したんだよ」

「……ワァ、モテモテダネェ」


 怖くて後ろを振り向けない。と言うか、今更だけど私何でこんな人がたくさんいる場所で抱き着かれているんだろ。しかも、見れないけど後ろにヒロインがいることは確実だし。え、何この三角関係のドロドロした展開は。私がいない間に本当に何があった。


「取り敢えず助けて、俺もうあの子苦手通り越して恐怖の対象になりかけてる」


 それはそれでヒロインが可哀想ではないだろうか。攻略対象に恐怖の対象認定されるヒロインホントにザマァ(可哀想)


 〈キリア、本音と建前が逆〉


 あ、いけないいけない。


「取り敢えず退いてくれないかな?ユキ、逃げるならフリスアの所に逃げて」

「あ、ごめん!」


 バッとユキが私から離れる。あぁ、この数分だけで私二回も抱き着かれている気がする。いや、変なオッサンが抱き着いてくるわけじゃないから別にいいんだけどさ。ね。フリスアじゃないけど天使が抱き着いてくれるならいつでもカモン。


「あ、貴女…一体ユキ様の何なの?」

「少なくともグリスウェイト伯爵令嬢様よりは仲がいいですね」

「な、何よその言い方!この伯爵家の私に逆らうつもり!?」


 ビシッと私に向かって指をさしながら、下手な脅しをかけるように大きい声を出す。伯爵家が全力で私の事を潰しに来ようが私には王家って言う絶対的な後ろ盾があるんだけどね。


「いいえ、気分を害してしまったのなら申し訳ありません。が、私の友人と家族に付きまとうのはやめてください。かなり迷惑しているそうなので」

「私から接しに行ってあげているのよ!そんなこと言われる筋合いはないわ!」


 ……………………話の通じない人だ。自分から極度に接しに行って怖がられたら、元も子もないことが分かっていないのだろうか。

 キーッと今すぐにハンカチを噛みそうなほど顔を歪めて、私を睨んでくる。これ以上何か言っても刺激するだけだし、ここは早々に立ち去った方がよさそう。


「第五グループ集合!!」


 立ち去ろうとした時に、丁度良く試験官さんの声が届いてくる。毎度毎度タイミングばっちりだな…


「それでは、私はこの辺りで」

「あ、ちょっと!待ちなさい!」


 くるりとうしろを向いて、セレスたちのいる場所に向かう。後ろの方からヒロインの静止が聞こえてきたが、そのまま無視して私は足を進めた。


「セレス様ー。レイト様ー。お待たせしましたー」


 何事もなかったかのように待ってくれていたセレスとレイトに手を振る。その隣には、無表情のスキア。そしてそのもう一つ隣には、笑っているフリスアとキリル、その後ろに顔を真っ赤にしながらプルプルと震え、青い髪を覗かせているユキ。

 何アレ可愛すぎか。


「あ、あ、その…えと」

「……………………」


 セレスとレイトが揃って顔を赤くし、言葉を詰まらせる。一人通常運転だけど。さっきのユキが突然抱き着いて来ていたのをばっちり見られたらしい。フリスアとキリルが、そろって微笑ましいとでもいうような笑顔を向けてくる。


「何でもないから。大丈夫ですよ。ユキも怖くて抱き着いてきただけですし」

「!!」


 私の言葉に、ユキがビクッと肩を揺らす。あれ、私何かまずい事でも言ったかな。


「取り敢えず、試験の集合かかっているので向かいましょう」

「は、はい!」


 顔を赤くして震えているユキはフリスアとキリルに任せて、私たちは早く集合場所に向かうとしよう。怒られるのは嫌だし。

 いまだに顔の赤みが抜けきっていない二人を連れて、試験官さんの元に行く。そこには、すでに音楽記号’s揃って待ち構えていた。


「よし、全員揃ったな。平民チームの面々にはすでにアイテムを渡してある。そして、魔物チームには一つだけ、これを渡しておこう」


 ガタイのいい試験官さんにそう言って差し出されたのは、小さな魔石。中に何か魔法が組み込まれているようだった。魔物側には原則アイテムは無しなんだけど、この魔石は何なのだろう。


「それは魔力計と思ってくれればいい。今回の魔物側の生徒には全員渡してあるので安心して使うように」

「分かりました」


 渡された魔石を手に取り、ふと平民チームのメンツに視線を向ける。その中で、フォルテがニヤッと悪い笑みを一瞬だけ浮かべたのが分かった。負けろという合図なのだろう。

 じりっと何かが揺らめくような感覚がしたが、それはすぐに消え去っていった。


「あ、あの…」

「?」

「本当に…勝つ気でいるんですか?」

「…はい。やられたままは気に食わないですし、女の子を怖がらせるような男の風上にも置けない野郎の言う事を聞いてやる義理なんてありませんよ」


 キラッと清々しい笑みを浮かべて、気持ちを切り替える。まぁ、何か仕掛けてくるかもしれないが、そのあたりは全てねじ伏せればいいだけの話だ。


「さて、どちらが狩る立場なのか、その身に叩き込んでやろうじゃないか」


 フォルテが前に出てきて、私に向かってそう言う。この甘ったれはどうやら自分が優位に立ち、必ず勝つと確信しているようだった。

 これだから貴族は…慢心が抜けず、家柄を盾にしていつでも優位に立っている気分でいたのだろう。


「あら、弱い人間は狩られるだけの存在だと知らなくて?魔物は平気で人に噛みつくという事を知らない無知に教えて差し上げなくては」


 わざと正した言葉で挑発する。ギラッと自分の瞳が妖しく揺らめいたのがわかった。どうやら私は、コイツに対してかなりの憤りを覚えている様だ。

 フォルテの取り巻きは、食ってかかろうと身を乗り出したが、すぐにフォルテに静止させられる。


「それでは、第五グループ【ミランテッド】開始!」


 試験官さんの声が、試験会場に響く。

 声が発せられた途端、動こうとした私の体が何かに阻まれるようにして動けなくなった。

 無理に動かそうとすると、ビリビリと弱い電流が流れる。


「…これは何の真似ですか?」

「さぁ、試験官が渡す魔石を間違えたんじゃないか?」


 この魔法は、私の持っている()()()()()()()魔石から発動されたものだ。

 ニヤニヤと平民チームのメンツの視線の先にいるのは、あの男。見なくてもわかる。口元を歪んだように高く吊り上げて醜悪な笑みを浮かべているのだろう。


「き、キリアさん!」

「これはいけない、リアクリド嬢。その魔法陣に触っては激痛が流れますよ?」

「!?」


 セレスが私の方に駆け寄ろうとして、立ち止まる。フォルテの言葉に完全に気圧されたのだろう。行き場をなくした手が震えている。


「はー、貴族様も趣味が悪いですね」

「あぁ?」


 一つため息をついて、下を向く。ほんっとーに趣味が悪いったらありゃしない。


「―――こんな柔な魔法ごときで、私を縛り付けられるとでも思って?」


 体に一瞬だけ力を込めた瞬間、パリンと軽い音を立てて私を縛っていた結界が砕け散った。


「なっ!?」

「え!?」


 私も随分と舐められたものだ。これでも女神の端くれ。魔法ごとき素手で割れるに決まっているじゃないか。

 結界も、物理で破られるとは思ってもいなかったのかフォルテが奇想天外な声を上げる。


「さぁ、やられたのなら全員倍返しでお返ししなくては…………覚悟は、できていますよね?」

「!!!!」


 ニイッと口の端を吊り上げる。ここからは、私のターン。お前らのターン、来ないから。

読んでくださりありがとうございます!


レイト(今回もセリフ無し…か)

フェルア(何かと俺の出番って少ねーよなぁ…扱いひどいし)

アレク「え、俺って吸血シーンのためだけに呼ばれたの?」


意外と似ているのかもしれない


次話は、少し変わって違う目線のお話。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ