我が主であり、娘でもある -エル目線-
今回は、部屋を出た後のエルさんのお話です!エルさんの正体とは!?
キリア様のお部屋を出て、扉をパタンと閉める。
キリア様は…私が神獣様が見えることに気付いていらっしゃった……まさか、私の正体まで?
急いで中庭の方へ向かいながら、どこまで感づかれていらっしゃったのかを考える。
「…とにかく、中庭まで行かなくては…」
道中、誰にも見つからないように中庭まで入り込み、中央に生えている大きな樹に触れる。
目を閉じ、意識を集中させてみても誰もいない。どこかに出かけているのだろうか。
「やっぱりここだったか…なぁ、ドライアルの娘」
「!?貴方は…」
後ろから急に声がして振り返ると、そこにいたのはキリア様のお兄様であり神獣の一人であるフェルア様だった。……どうしてこんな所に…?
まさか、後をつけられていたの?
「安心しろ。俺らはお前の事をキリアにバラすつもりはない。どうせ俺らの事も分かってるんだろ?」
「……っ、ええ。最初にキリア様にお会いした時、あのお方と同じ目をしていましたから」
最初にキリア様にお会いした時。あの時の私は興奮と動揺を隠し通すことで精一杯だったが、その時に一つだけ頭の中で理解していた事がある。
キリア様は我らの主であり、敬愛すべきお方だと。
「分かってんなら話は早い。…キリアは、存在こそお前らの望む物だが、同時に1人の人間だ。その事を忘れるんじゃねぇぞ」
「…っ……」
フェルア様の目が妖しく光り、私を捕らえる。私はその場から足がすくみ動かなくなってしまう。獰猛な、捕食者の目。
昔聞いた事があります…絶対的な王として君臨する狼は、目を合わせるだけで生命を奪ってしまう。これが…その目…
「俺らの結論はこうだ。お前がキリアに手を出さない限りは、俺らも動かない。キリアの意思を尊重して動き、出来る限り普通の生活を送らせてやる」
「……分かりました。…私としても、キリア様には普通の人間として幸せに暮らしてほしいのです」
いくら私たちの一族が、キリア様のことを求めようが、彼女は主である前に1人の女の子。自由に生きて自身で行動を選択する権利がある。
私も、一族の娘である前に1人の女です。一族の手が伸びる前にキリア様を守らなくてはいけない。
「…ならいいが。お前はどうするんだ?」
フッと妖しげに光っていたフェルア様の目から光が収まり、体に自由が戻る。
「私…ですか?」
「あぁ、俺らからしたらどうでもいいが、うちのご主人様は心配性なもんでな。気に入ったお前が厄介なことに巻き込まれてると知れば、1人でも一族んとこ乗り込ん仕舞いそうな勢いなんだわ」
……キリア様が…私を…
それならば、私はキリア様を必ず守らなくてはいけない。たとえそれが一族の命に背くことだとしても。
「…一族の名を捨ててでも、私はキリア様をお守りします。……家族は、守らなくてはいけませんから」
「…………ふっ、上出来だ。…あいつの身の回りの事は任せた」
そう言い残し、フェルア様の姿が消える。緊張が解け、へたっと樹に寄りかかりながら地面に座と、ポゥッと蒼く淡い光が私の体に寄り添うようにして側にくる。
「ええ、分かっていますわ……私も、ドライアドとしてではなく、1人の人間としてキリア様に仕えたかったですよ…」
言葉は話せなくても、なんとなく伝わってくる心配してくれる気持ち。分かっていますわ…人間ではない私が、この国でドライアドとして仕えるのは無理だと分かっている。
「我らが主…【自然神】キリア・アルフレア様…この、エルティナ・アイナ・ドライアルの名にかけて、我が一族から必ずやお守りいたします…!」
そう、空に向かい宣言すると、呼応するように中庭の中央にいる私の体が淡く光った。
読んでくださりありがとうございます!
〈一応補足として〉
ドライアドとは…植物の精霊であり、自らの宿る木が枯れてしまうとともに命を閉じてしまう精霊。
次話は、キリアちゃんの別荘下見午後編です!キリアちゃんの元を訪ねてくる者たちとは…?