買い出しの途中で -キリル目線-
今回は、キリル目線で書きました!買い出しを頼まれたキリルとユキが出会う人達とは……
ざわざわと沢山の人が行き交う露店が立ち並ぶ大通り。噴水広場の近くにあった青果の店の中では沢山の瑞々しい果物達が並んでいる。
ウルファを住処に帰した後、キリアに頼まれた買い出しを終わらせる為に僕とユキは町にある大通りに来ていた。隣にいるユキは、珍しい物が沢山あるのが気になるのか、辺りをキョロキョロと見回していた。
「メルアさーん!いますかぁ?」
青果店の女将さんの名前を呼ぶと、店の奥から柔らかな表情をしたおばさんがやってくる。
「はいはい、いますよー。って、キリル君じゃないかい!」
「おはよーございますメルアさん!」
女将さんに元気よく挨拶をすると、驚いたように目を開きながらこちらに寄ってくる。
「久しぶりだねぇ、今までどこに行ってたんだい?」
「どこにも行ってませんよー!ただ、僕が来てない間はキリアがお世話になりました」
「いいのよー!あら、隣の子はどうしたの?」
笑いながら話していると、女将さんが隣にいたユキのことに気付く。ユキは急に話しかけられたことにビックリしたのか、少し肩を震わせながらも自己紹介する。
「お、俺はユキです」
「ちょっと訳あってうちで引き取ってまして」
「まぁ、そうだったの!可愛い坊やだねぇ」
女将さんがユキを見てニコニコしながら店に置いてある赤く熟れた果物を1つ渡す。
「サービスだよ!持っておいき」
「あ、ありがとうございますメルアさん」
「可愛いわねぇ…あ、今日は何を買っていくのかしら」
サッと気の良いおばさんから、商売魂逞しい女将さんの顔に変わると目をキラッと光らせる。…これは値引きできるかなぁ……
「んー…じゃあ、イチカルの実を10個と、アリコの実を6個ください」
「はいよ。全部で小銀貨と銀貨が一枚ずつだよ。ついでに一個ずつおまけしておくから遠慮なく持っておいき」
「わぁ!ありがとうございます!じゃあユキ、帰る途中でちょっとおやつにしようか」
ユキにそう話しかけると、少しだけユキの表情がパァァッと晴れる。甘いの好きなのかな?
「確かにちょうど貰ったよ。はい、これが品物だから、落とさないようにね」
「ありがとうございます。それじゃ、ちょっと噴水のところで休憩しようか」
「またいつでもいらっしゃい!サービスしてあげるからねー」
女将さんにしっかりと頭を下げながら、紙袋を受け取り、近くの噴水のベンチに2人で腰掛ける。
「それにしても、物凄い猫被りっぷりだったね」
「あはは…そんなこと言わないの。あの方が皆いっぱいおまけしてくれるんだ」
この顔も、こう言うときには使えるものだ。ま、キリアが一緒にいる時は猫の姿だけどね。
「……何か、キリル達ってこの街のアイドルみたいになってない?さっきから知らない人の視線が物凄い刺さってくるんだけど」
「こんな身長の人はここらじゃ珍しいからね。目立つのもしょうがないよ」
「いや、身長だけじゃない気がするのは俺だけ…?」
ユキがさっき女将さんから貰った赤い果実をシャクッと良い音を立てて齧る。独特の甘い香りがフワッと風に乗り、鼻をくすぐる。
「わ、これ甘いね……!」
「そうでしょ?メルアさんの青果店はこの街じゃ結構有名でね。これもキリアが関わってるんだけど…」
「結構目立ってるんだね……」
あはは…と苦笑しながら、紙袋の中から少し大きめのアリコの実を取り出す。綺麗な淡い黄緑色の実は、キリアがリンゴだっ!!って、騒いでいたのを覚えている。リンゴって何のことかは分からないけど、この果物にとてもよく似たものらしい。
「ほいっ」
アリコの実を空中に投げ、人差し指を振り下ろすとアリコの実がバラッと一口サイズに切れて落ちてくる。
「《結界》」
落ちてきたアリコの実を無駄にしないように結界で受け止めて一つ食べる。ん〜っ!口の中に甘い果汁が溢れるっ!サッパリとした味は口の中で広がり、次のかけらを食べたくさせる。
「?ユキどうしたの?」
「どうしたの……って。いや今何が起きたのかサッパリなんだけど…?」
「え、ただアリコの実を切って食べただけなんだけど…僕何か変なことした?」
顔面蒼白になりながらこちらを見上げてくるユキ。ホントに何か変なことした?
「何で何もないところで果物が切れるんだよ……」
「あぁ、そんなことか。これは僕の魔力の糸で切っただけだよ?」
「魔力の糸?」
「あ、見えないのか。ちょっと待っててね……《スキル付与・魔眼》」
そっとユキの目を手で覆い隠し、魔力を流し込む。魔眼は、手合わせの時にユキに貸してあげたあの金色の瞳と同じやつだね。確か、魔力が可視化できるんだっけ…
「はい、もう目開けて良いよ」
「ん…!?何これ……」
ゆっくりと目蓋を開いたユキの左目は翡翠色から僕の目と同じ紫色に変化している。金もよかったけど、紫も似合うね〜。
いま、ユキの見えている景色はこうだろう。僕の周りに無数の細い糸が現れているのと、町を歩いている人の体が淡く光っている。そんな景色な筈だ。
「…もしかして、これが魔力の糸?それに魔力が見えるようになって……!」
「凄いでしょー?これが僕の使ってる魔力の糸だよ。全部で……20本くらいかな?まだ少ない方だけどね」
翡翠と紫の左右で違う瞳が必死に魔力を追っていく。……なんだか猫みたい…僕が言うことじゃないけどさ。
「なんで急に…?」
「それは僕がユキに祝福を贈ったからだよ。僕達神獣ってスキルを自在に与えることができるんだよね〜」
「……凄いな…」
でも……このままじゃユキがちょっと変な目で見られちゃうから、色は元に戻しておこうか。何かあったら僕がフリスアにお仕置きされかねない…
「そういえば、キリル達って神獣って括られているけど、種族とか違うの?フリスアは鳥だし、フェルアは狼だし」
「んー、あるにはあるけど、殆ど意識した事はないよ。姿が違うとか、司っているものが違うとか、それくらいしか違わないし、何よりキリアを守るって言う根本は皆一緒だからね」
いくら姿が違おうとも、守る者がいるだけで同じになれるのだ。僕らは皆キリアに感謝している。
「そっか。……キリアってすごいんだね」
「そうでしょ?僕らのご主人様は誰よりも凄いんだから!」
自慢話をする様に、キリアの話をしては、ユキは笑って返してくれる。良い友達を持ったね……お兄ちゃん嬉しいよ…
「さ、そろそろ買い出しの続き行こうか。あとは…教会に寄って、その後ギルドかな…」
「教会と…ギルド?」
「そう。教会で預かっている子供達が取ってきた薬草とかの買取と、それをギルドに卸すんだ。僕らはまだギルドに品物を売れない子供達の仲介者って事」
ギルドに品物を卸すには、10歳以上じゃないとできないので、5〜7歳が多い教会の子供達の仲介者になっているのだ。
勿論、大人もいるけど、赤子の世話や家事などもあるので忙しい神官さんの代わりに僕たちが請け負っている。
「へぇ〜。それもキリアが始めた事?」
「そう。本当は誰でもできるようになれば良いんだけどねって。ギルドは気が荒い人達も沢山来るし、もし喧嘩とかに巻き込まれたら太刀打ちできないから、小さい子は保護者とかがついていない限り入っちゃダメなんだよ」
果物を食べ切り、ベンチから立って伸びをする。ユキもちょうど食べ終わったみたいだから、そろそろ行こっか。紙袋をそっと《無限収納》の中に入れて、歩き出す。
「教会は森の近くにあるからちょっと遠いけど大丈夫?」
「うん。…それにしても、この領地って結構広いんだね……いくら辺境だって言っても人は結構いたし、ここから離れたところには畑だってあるんでしょ?」
「そうだね〜、この町はキリアの恩恵を1番に受けてるからだと思うよ?森のすぐ近くに町があっても、僕らがいる限りはそうそう魔物の襲撃を受ける事はないし、キリアがいるだけでも作物がよく取れるようになるから」
自然神であるキリアの周りが沢山の植物で囲まれているのはそのせいだ。力の中心であるキリアの近くにいればいる程農作物はよく取れ、毎年安定した税収が入る。領地が栄えない訳がない。
もっとも、領主がマシと言う条件は付くが。
「何か、豊穣の女神様って感じだね…実際はもっと凄いけど」
「それでこそキリアだよ。周りを助けることだけに全力を尽くすような子だから。
昔からユキみたいに、森の中に迷ってきた人がいたらすぐに助けるし、町で困っている人がいたら、その力を使って絶対に助ける。なんというか……お人好し?」
女神様にしてはちっちゃいし、まだまだ足りないところはあるけど、沢山の人を救っているのだ。我が主ながら、人間らしい。
「キリアらしいや。王様にあったら、国がピンチな時にも助けそうだね」
「あー、ありそう……できれば、会わずに暮らして欲しいんだけどな……」
「?何か言った?」
最後にボソッと呟いた事はどうやらユキには聞こえなかったらしい。聞こえてなくても良い事だけどね…
「んーん。キリアなら道端の老人を助ける感覚で国を救いそうだなーって」
「……キリアなら実現しそう…」
なさそうでありそうな例え話に笑いながら歩いていると教会の屋根が見えてくる。白い屋根に白い壁。この国の宗教の習わしだそうだ。教会の隣の庭では、小さい子供達がキャッキャと走って遊んでいる。
「おーおー、今日も元気だなぁ」
「いつもあんな感じなの?」
「そ。あ、アルスナさんおはようございます!!」
元気に遊ぶ子供達の近くで掃き掃除をしている神官の服を着た女性に声をかける。綺麗な栗色の後ろ髪を三つ編みで束ね、左に下ろした神官様がこちらに気付くと駆け寄ってくる。
「キリル様じゃないですか!今日はどうなされましたか?」
「フリスアの代わりに薬草の買い取りに来ました。ありますか?」
「はい勿論!あれ、その隣にいる子は…?」
神官にしては珍しく元気なタイプの人だが、これはこれで子供達も甘えやすいんだろうなー、と思いながらユキのことを紹介する。
「この子はユキです。訳あって今は家で預かっているんです」
「!そうだったのですね!…ユキ君、私は、アルスナ・ティーセレンと言います。気軽にアルスナさんって呼んでね!」
神官様がユキの目線に合わせてしゃがみながら挨拶をする。何故かユキは固まってるけど、どうしたのかな……もしかして、神官様に見惚れてるとか?
「あ、俺はユキです。よろしくお願いします」
「ん!よろしくね!」
「じゃあ、アルスナさん。僕たちはこの辺で待ってるので」
「あ、わかりました!すぐにお持ちいたします!」
神官様が慌てて教会の隣にある生活棟の中に駆け込んでいくのを見た後、近くにあるベンチに座って神官様を待つ。
「ユキ、もしかしてアルスナさんみたいな人がタイプだった?」
「え!?いや、違うけど……どうして?」
「あれ?違ったかぁ。ユキがアルスナさんを見て固まってたからてっきり見惚れてたのかと思った」
「あのね……そんな事で固まらないよ…ただ、一回だけあの人に会った事があるから」
?ユキはここに初めてきたと思うけど……ユキの住んでいる王都にアルスナさんが行ったことあるのかな…
あ、そういえば神官になる為には王都の本部に行かなきゃいけないんだっけ。それなら可能性としてはなくはないと思うけど……
「アルスナさんっていう人、王都じゃ有名な神官だよ。若くして神官のトップ2に上り詰めた天才だってね」
「へぇ〜、あの人がねぇ…」
「魔法の腕は歴代聖女に匹敵するっていうらしいし、何より、光属性が使えるから、神官じゃなくて聖女扱いされてたよ」
んー…全然そんな雰囲気には見えなかったし、第一光属性なら……
「光属性ならユキも使えるだろうし、何より【光】を司る僕からしたら珍しくはないと思うんだけどなぁ……」
「………え?」
「ん?」
庭で遊んでいる子供達を見ながらそう言うと、驚いたような声をユキが出す。……?また僕変な事言ったのかな…
「い…今俺が光属性を……使えるって……?」
「うん。知らなかったの?ユキの使える属性は、【水】【風】【氷】【光】だよ?」
さらに追い討ちをかけるようにユキの顔が愕然としていく。何ら不思議な事は起きてないけど……?
「キリル様!薬草をお持ちいたしました!って、ユキ君どうしたんですかー?鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔してますよ?」
「あ、アルスナさん、これ報酬分の大銀貨です」
「いつもありがとうございます!それで…何があったんですか?」
薬草と大銀貨を交換しながら、アルスナさんがユキの顔を覗き込む。
「あー…何か光属性使えるよって言ったらこうなっちゃいまして…」
「……え、ユキ君光属性使えるんですか!?」
「……あ、はい、使えるらしいです」
『光属性』と言う言葉が出た瞬間、アルスナさんの目が光り輝く。
「やったぁぁあっっ!!これで魔法の後継者ができるわっ!!」
「え、え?」
まだ事態が飲み込めず、動揺しているユキの手を神官様がガシッと掴んで期待の眼差しを向ける。
「アルスナさん、ユキは明日にはもう王都に帰っちゃうんですよ?」
「それならご自宅の住所を教えてくれないかしら!!これから王都に行く予定があるのですけどその時に伺います!!」
あ、…危ない人だ…会って早々に住所を普通聞く……?
「ユキ…?」
「えっと……メモ用紙ありますか?」
「!?ちょ、ちょっとユキ!僕が言うのも何だけど大丈夫なの!?」
「うん…アルスナさんは、有名だから何かしたら確実に世間の元にバレるから。それに、魔法について勉強したいんだ……!」
……これは、フリスアに似てるかも。あ…そういえば、転移魔法を見た時にも興奮してたらしいね…魔法馬鹿なの?
「はい、これが俺の家です」
「…ここは…!…わかったわ。また今度、正式に家の方に話を通しておくわね!」
「お願いします。…?キリル、どうしたの?」
「んー、なんでもないよー。さ、キリアも待ってるだろうし、早くギルドによって帰ろっか。そろそろお昼になるからユキもお腹空いたでしょ?」
やばいな……と思いながらも誤魔化して話を逸らす。できれば昼までに帰ってきてほしいって言ってたから、ちゃんと帰らないとフリスアにご飯抜きにされかねないからなぁ…
「ん。分かった。じゃあそう言うことで、ここで失礼します」
「ええ、また今度会いましょうね!!」
「アルスナさん、あんまりユキに迷惑かけないようにしてくださいね?」
それだけ言い残して教会を立ち去りギルドに向かう。もと来たを歩きながら、さっきの話の続きをする。
「ユキ、教えちゃって良かったの?」
「うん。どうせキリルも知ってるんでしょ?俺のウソ」
「……まーね。でも、僕には関係のないことだし、その嘘がキリアを傷つけないのなら、僕からは話したりはしないから、安心してよ」
どうやらユキは僕も知っていることを前提に話していたらしい。その方が話が早くて済むけど、まさか知られていたなんてなぁ。
「キリルは一体どうやって知ったの?」
「んー?秘密かな。当てたら教えてあげる」
「………司っているものは、【光】【闇】【結界】【付与】の4つ?」
おお。光と闇は当てられるとは思ってたけど、【結界】まで当てるなんて…結構見られてたんだね……
「半分正解で、半分不正解。僕が司っているものはそれだけじゃないよ」
「え…これ以外に何隠してるの?」
「分かるまで教えてあげなーい」
「む…キリルのけち」
能ある鷹は爪を隠す、というものだよ。まぁ、そんなに僕は賢いわけでも強いわけでもないんだけどね…
ギルドに向かう道を歩く途中、そんなやり取りをしながらふと青い空を見上げると、白い雲と共に二羽の純白の鳥が寄り添うようにして飛んでいた。
読んでくださりありがとうございます!
次話は、家でまったりしているキリアちゃんのお話です!