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転生して、【自然神】(一応人間)になってまったり暮らしてただけなのに‥  作者: 瑞浪弥樹
第二章〜乙女ゲームの世界?〜
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だから物理は余計だわ -キリア目線-

今回は、何がどうしてそうなったリーグ対戦表。どうやったら50対私になるんですかねぇ???いや、負ける気はないんですけどさ……。

 リーグ開催の幕が上がる。私は石造りの通路のベンチで一人で鼻歌を歌っていた。まだ時間はある。私の対戦は最後のブロックらしいから。

 近くにあるモニターらしきものに映った画面を見ながら、対戦の中継を見る。今はクロード先輩と三年生の先輩が戦っている。若干、クロード先輩が押されている状況だ。


「今戦ってるのって現聖樹の管理者だろ?」

「流石に引退も近いかもな」


 近くにいた生徒の声を聴き、少しだけむっとする。クロード先輩はただでさえハンデを負った状態で戦っている。聖樹(精霊樹)にかかる魔法陣を維持するには継続的に魔力を使わなくてはいけない上に、対戦中にも魔法をバンバン使っている。普通にすごい事だ。


「……確か」


 クロード先輩と戦っている人は、確かいつぞやの発狂☆深夜徘徊先輩だ。今は普通の表情をしている……と思う。

 クロード先輩は、身のこなしも魔法の腕も十分だけど、相手との相性でも悪いのか劣勢気味。

 個人的にはクロード先輩に勝ってほしいんだけどね。

 ただ、リーグは魔法と武器の使用がアリになっている。相手の先輩が武器の扱いに慣れている分、クロード先輩は不利な面もあるのだろう。そして、逆もまた然り。クロード先輩の方が魔法は上手だ。

 外から熱気を帯びた歓声が聞こえてきた。勝者は発狂☆深夜徘徊先輩。クロード先輩があと一歩のところで負けてしまったらしい。中々の接戦だったためか、最初の時よりも歓声の声が大きい。

 先輩が戻ってくると、通路内にいた人もねぎらいの言葉をかける。


「クロード先輩、お疲れ様です」

「あぁ。ちょっと悔しいかな……あと少しで攻撃が叩き込めそうだったんだけど、先にやられちゃった」


 汗を含んだ髪を乱雑にタオルで拭きながら先輩がドカッとベンチに座り込んだ。制限時間がない中で、中々の接戦を繰り広げ続けていたのだから集中力も確かなもの。改めてすごいと思う。


「お前は次か?」

「あ、そうみたいですねぇ。リンチにされないといいんですけど」


 対戦表では、次に私が出る番となっている。対戦者は、驚愕の希望者50名。おかしいよね。私もそう思う。


「逆だろ逆。『リンチにしないか心配です』、だろ?」

「そうかもしれませんねぇ。さ、私は先輩の仇討ちにでも行ってきますよ。今のうちに休んでおいてくださいね」

「あぁ、勝って来いよ」


 疲れ果てた先輩にそう声をかけて、ベンチから立ち会場への入り口の通路を歩く。暗い通路のため、奥から差す光が少し眩しい。


「さぁ、続いては期待のルーキー!新入生ながらも学園内でのトップクラスの実力を持つ【月麗の魔導士(物理)】、キリア・アルフレア!」


 司会さん……物理は言わなくてもいいんですよ?

 地面の広がる闘技場に出ると、大きな歓声が広がる。その中に少しブーイングも入って来ているようだが気にしない気にしない。


「対するは、ルーキーに打ち勝とうと参加者を募った結果、総勢50名にまで集まりました!これは恨みなのか純粋に戦いたいだけなのか!?【打倒!新入生!】の方々です!」


 オイこら司会コラ。恨みじゃない……と思うから言わなくていい!

 かなり雑な紹介をされて反対側の通路から現れたのは、性別学年すべてがバラバラの総勢50名の人たち。ですよねー知ってた。私この軍団相手にするの?ちょっと無理がありませんかね。


「ここで特別ルールのご紹介です!普通なら、相手が負けと宣言するか戦闘不能と判断されるまで闘いは続きますが、今回に限り長期戦が予想されるとのことでこちらを用意しました!」


 司会さんの言葉に合わせて出てきた人たちが持つのは、5つの宝石。


「キリアさんにつけられるそれがすべて割れてしまったら、問答無用でキリアさんの敗退とします!」


 スタッフさんに渡されたそれを一瞥して身に着けながら思った。

 ————え、これって私にハンデ課されるの?相手じゃなくて?理不尽すぎない???

 何か言おうにも面倒臭いので渋々5つの宝石を身に着ける。


「準備は出来ましたね?それでは、第7ブロック、キリア・アルフレア対総勢50名の対決、いざ、開始!!」


 司会さんの言葉で、一斉に相手さんが突っ込んできたり攻撃の為に魔法の詠唱をしだす。どうしますかね。数が多いうちは壁に追い詰められたら逃げられるものも逃げられないし。


「ほいっと」


 ストレッチをしてから、闘技場全体に耐衝撃結界を張る。もしかしたら、壊れちゃうかもしれないしー。

 最初に突っ込んできた人の剣が狙う先は、やはり私の宝石。敵わないとあきらめてからの行動だろうか。

 ただ、一直線に突っ込んでくる動きはやはり読みやすい。少し右にずれて体側を軽く押してあげれば、すぐに重心を崩し壁に突っ込んでいった。


「んー、やっぱり数が多いと休めないよなぁ」


 飛んでくる矢を掴んでへし折り、裏から振り下ろされた剣を叩き割る。私に遠距離攻撃はあんまり意味ないから、魔力の無駄だと思うよ?


「それに、集まっただけだから数の利も活かせてないし。これで本当に勝とうと思うなら一対一の方がいいと思うよ?」


 浴びせ続けられる魔法や攻撃を、舞を舞うようにしていなし続ける。こちらからしたら、人数が増えようが的が大きくなっただけ。適当に跳ね返せば当たる。


「ほらほらー!私に勝ちたいならさぁ、こんな真似せずに全員でかかってきなさいよ!」


 気が高ぶるせいか、自然と口元が吊り上がってくる。もしかして、【麗笑】の語源これ?


「ガハッ!?」

「ってぇ……」


 地面にひれ伏した人たちが起き上がってくる。魔法をちまちま打たれるのもめんどくさいし、やっぱり先に遠距離隊から崩すのが定石だよねぇ。

 近接、中距離の人混みを抜けて後ろに待機していた魔法組の中に飛び込む。


「ハロー!魔法が好きそうなみんなにプレゼントあげるよ!」


 私は闘技場の地面に勢いよくかかと落としをして衝撃波を発生させた。空気が揺れるほどの大きさになったから、衝撃用の結界張っといて正解かも。


「さらにさらにー、今なら特別!魔法陣にチョチョイと細工をしてあげましょう!」


 スイッと指を動かして、周囲に蔓延る魔力を操作する。

 空気中の魔力を、相手さんの魔法陣に組み込ませてみればあら不思議。空気中の魔力は魔法陣にとって異物のようなものなので、流し込んだ魔力を押しとどめてしまうのです。

 近接系の魔法を打とうとした人が、魔法を暴走させる。これで魔法組はあらかた大丈夫かな。


「確かこれって、戦闘不能、だったよね」


 勝利条件を思い出しながら、闘技場の真ん中に飛ぶ。1番目を引くところだから、1番敵を集めやすい。


「ほらほらー、目の前に獲物があるんだからちゃんと攻撃しなきゃ」


 怯んだ人を挑発しながら、切りかかってくる人の剣を握りつぶす。(物理)というなかれ。


「脆いねぇ。実に脆い。こんな子供の握力だけで壊れる剣なんて、私に傷一つつけられやしないよ?」


 剣の持ち主にバラバラになった鉄塊を勢いよく投げつければ、それだけで痛みに悶える。ちょっと強くしすぎたかも。


「ぶ、武器も魔法も使わずにこの実力……まさしくこの学園トップと言っても過言ではないのでしょうか!?」

「あーあー、私は何もきーこーえーなーいー」


 司会さんの言葉に耳を押さえる。私の武器は敵を殲滅するためにあるんじゃないんだから。

 それに、魔力だって午後の出し物のために温存しとかないとさぁ?


「剣でもなんでもいい、対等に戦う立場なら武器を出せ!それが闘う相手への敬意というものだろう!」

「はぇ?いや面倒………はぁ、いいですよ」


 よくわからない先輩らしき人が叫ぶので、仕方なく後ろから襲ってきた人の剣を拝借する。武器を出せって言ったってさ、普通の剣だと振ったら壊れちゃうんだもん。


「うーん、軽い。振った時に飛んでったらごめんなさいねぇ」


 笑顔で男の人の前まで一気に踏み込み、剣の腹でその頭を勢いよくシバく。今度はいい感じの力具合。後頭部じゃないから安心してね。


「あ、やっぱりヒビが」


 さっき叩いた衝撃からか、剣にヒビが入った。これじゃあもう使えない。カシャンと音を立てて剣が落ちる音と共に、再び私は相手の固まっているところに突っ込んだ。

 これまでの戦いで大分士気は削いだから、後は残った人を片付けるだけかな。


「はい、34〜、35〜、36と、37!」


 戦闘不能の証にどんどん気絶した人を山にしていく。あ、戦う気がある人は首だけ出して地面に埋めました。


「ふぃー、あとちょっとだがんばれ私」


 自身を鼓舞しながら、震えた手で武器を持つ人の顔面スレスレまで回し蹴りの脚を持っていけば、泡を吹いて倒れる。そこまでのことかなぁ。気絶するくらいなら挑んでくるなっての。


「48ー、49ー。さて、あとはあなただけですけどどうします?」


 最後の1人に残った人は、3年生の先輩のよう。リィナさんよりも少し小さめの大剣を構えているが、さっきの人たち同様震えている。

 ……ねぇ、私ってそんなに怖い?


「降参するならそれでもいいですし、最後の1人なんでちゃんと相手してあげますけど」

「お、俺は負けねぇ!」


 震え切った声で、それでも突っ込んでくる先輩。さっきの人が言う通り、ちゃんと敬意を示してやらないとね。

 手中に【衰退ノ風】を顕現させる。相手の重心が震えているからか、些か不安定だね。


「うぉおおおぉおおお!!」

「いいこと教えてあげます先輩」


【衰退ノ風】を構え、真っ直ぐに見つめる。


「私の本当の武器は、剣でも魔法でもないんですよ?」


 斜めに振り下ろした扇から、ふわり。他とは違う異質な風がよぎる。すると、そこに飛び込んだ先輩が、小さな呻き声をあげてバタリと倒れた。


「……しょ、勝者!50名もの生徒を破った、キリア・アルフレアさんです!!!」

「わーい」


 司会さんの勝利宣言に、私は棒読みで喜ぶ。観客席からは、さっきより大きくなったブーイングと拍手の嵐。何が気に入らないんだろうか。


「なんと、宝石を全て残し、魔法を使わずに無傷での勝利です!予想を遥かに上回る実力!これは優勝への期待が持てます!!」


 さいですかさいですか。私にだけハンデ負わせやがったくせに畜生。勝ったからいいけどさ。


「キリアさん、ありがとうございました!続いて……」


 もう私は用済みなようなので、通路に戻ってから近くにいたスタッフさんにつけていた宝石を渡す。

 さっきまで座っていたベンチに座ると、周りの人が遠巻きに私を見てきた。

 視線が痛いです。


「そうだ、次の対戦相手聞きに行こ」


 ベンチにはいなかったクロード先輩を探して、控え室の通路を歩いていると、外に行ってきた帰りなのか、クロード先輩と出くわした。


「あ、クロード先輩」

「お疲れ、上から見てたけど予想通りの圧勝だったな」


 褒めてくれているのか、クローで先輩の手が私の頭をわしゃわしゃと撫でる。少しくすぐったい。


「ハンデとかもはや意味なかっただろ」

「まずハンデつける相手が間違ってますよ。なんで私なんですか」

「50人でも勝てないって判断したからだろ。それでもやってのけたけどな。次は100か?」


 そんな不吉なフラグ立てないでくださいお願いしますホントにメンタルがやられてしまいます。


「ま、さっき対戦表見てきたけど、次からはちゃんと1人だから安心しろ。………どうせ勝てないと踏んでの事だろうがな」

「もうこうなったら優勝でもなんでもとってやりますよ。でもって先輩の汚名を返上してやります」

「ははっ、頼もしい後輩だ」


 そう笑いながらクロード先輩が頭を撫でてくれる。お兄ちゃん感半端ないわこれ。私の周りは一体何人の兄がいるのでしょうか。


「ま、決勝戦までは余裕に勝てるな」

「まで?」


 先輩の発言に少し引っかかる。その言い方だと、決勝戦は一筋縄行かないみたいな言い方に聞こえる。


「決勝にはどうせアイツも上がってくるからな……とにかく、楽しみにしてるさ」




 不穏な物言いに困惑を残しながらも、その後の決勝までは先輩の言う通り楽に進んだ。突然来なくなって不戦勝になったり、普通に勝ったり。で、今はその大事な決勝なんだけど。


「さぁ、最後の決勝戦までに勝ち進んだ二人を紹介します!まずはルーキーから!初戦で50名を打破した後も勢いを衰えさせずに勝ち進み、ここまで生き残ったもはや無敵の少女、キリア・アルフレア!」


 無敵やないわ。相変わらずちょっと失礼な司会さんだ。で、肝心の私の相手なんだけどね?


「そんなルーキーに立ち向かうは、2年生!去年、準優勝まで上り詰めた実力者が帰ってきた!今年こそはその手に優勝を収められるか!?ルイ・エル・レイアートだ!!!」


 会場が私がきた時とは比べ物にならないほどに大きな歓声に包まれる。聞こえてくる声がきゃーっ!!と言う女子の声が多い。

 そう、決勝戦の私の相手はルイだ。いや、確かに管理者の座を賭けてだなんだとは言っていたし、次の管理者になる予定だったのだから強いとは思っていた。でも、いつもの態度のせいかな。実感が湧かない。


「3年生を差し置いてのルーキー同士の二人組、果たしてどちらが勝つのか!?」


 司会さんにはもうツッコまないぞ。

 対峙するルイが前に進み出てくる。


「おい、お前」

「はいはいなんでしょうか」

「……俺は、本気で管理者になりたい。だから、この戦いには本気でやる。だからお前も本気を出せ。もうあんな屈辱を受けるのは懲り懲りだ」


 ビシッと私にそう宣言&命令するルイに、女子からの高い声が上がる。こんなツンデレがモテるのかぁ。と思いながら、私はちゃんと答えた。


「まぁ、最後ですしいいですよ。そんなに本気がいいなら見せてあげます」


 私はそう言いながら、ブレスレットと、色の変わる髪を束ねていた髪飾りを外す。すると、私を中心に辺り一体に魔力の衝撃波が放たれた。それを全て相殺しても、私の周りには濃度の濃い魔力が浮かんでいる。


「っ、普段から力をセーブしてたってことか?」

「そういえばそうですけど、違うといえば違いますね」


 ブレスレットと髪飾りは、私の力を制御する役割だ。だから、外せば体の外に力が漏れてしまう。制御の代償として、満足に力は使いきれないけどね。

 本気で、私と戦いたいらしいから、サービス。これで諦めてくれると助かるんだけどね。


「いいじゃないか。戦い甲斐がある……!」

「長く続けばいいんですけどね」


 そう笑いながら、両手に二本の扇を顕現させる。いつもの姿とは違い、繁栄が白、衰退が黒となった扇。第二形態ってやつです。


「とりあえずこの辺かな?いやぁ、私ってば優しいね」

「はっ、何がだ」

「えー?だって、本当なら素手でやるのに、ちゃんと先輩の言うこと聞いて武器用意してるんだからさ、優しくない?」


 分かりやすくルイが怒気を放つ。その金色の髪から覗く額には、青筋が立っていた。相変わらず怒りっぽい性格だね。


「そっ、それでは、今年の最強を決める最終決戦!いざ、開始!!」


 司会さんの声に合わせて、ゴングが鳴り響いた。ルイは自分から仕掛けに来ようとはせず、受け身の姿勢のようだ。それなら、ご要望に沿おうではないか。

 こちらとしても出方が分からないので、取り敢えず魔法を手当たり次第にぶっ放してみる。


「うーん、やっぱ出力がまだ調整しきれてないかも」


 いくつかの魔法が外れて、壁を抉り砂煙を立たせる。久しぶりに解放したからかもしれないや。


「っ!」


 呑気なことを考えていたら、急にルイが砂煙の中から飛び出てきた。その手には、巨大な火焔玉。


「ざぁんねん」


 至近距離で放たれた火焔玉に、【衰退ノ風】を打ち付けると途端に鎮火する。ルイはそのことに驚いた表情をしながらも、そのまま反対の手で構えていた剣を振りかざしてくる。

 魔力を纏った剣。危ないなぁ。


「っと」

「逃がすかっ!」


 すんでのところで横によけると、すぐさま追尾のように地面が隆起し、足場を奪ってくる。


「こんな魔法、最初から打っていいの?魔力切れちゃうよ?」

「はっ、今はそんなこと気にしなくてもいいからなぁっ!」


 筋のいい太刀が、何度も私を狙ってくる。倒す、じゃなくて、殺す目。そうそう、こんな感じのを待ってたんだよ……!


「あはははっ!面白いねぇ!その殺気を纏った目!!それがなきゃ!」


 今度は私から。

 扇を開いてその剣を弾くように振りかざすと、受け止められるようにしてガキィンッ!!と金属が擦り合う音が耳に飛び込んでくる。チリッと舞った火花がすぐに空気に溶けた。


「ほら、まだまだ行くよ!」

「っ、一撃一撃が、重いんだよ……っ!」


 容赦なく浴びせる二本の扇を、ルイは一つの剣でなんとか躱している、と言うようだった。最高速度を出していないからとはいえ、ここまで攻撃を防がれると思っていなかった。

 ………っぁあ面白い!


「ねぇ、まだまだいけるでしょ、もっともっと!」

「クッソ……」


 小さく吐いた言葉も、すぐに剣と扇ががぶつかり合う音にかき消される。いいねぇ、久しぶりの高揚感!フェルア達とはまた違ったこの意志の強さ!

 叩き込んだ扇が剣に大きく弾かれ、二人で距離を取る。


「ねぇねぇ、その顔、まだ何かあるんでしょう?早く見たいな!」

「チッ……そんなのもお見通しなのかよ」

「早く早く!」


 せがむようにそういうと、ルイが急に魔法を撃ってくる。目眩し用?


「こんな小細工してないでさぁ!」


【衰退ノ風】で薙ぎ払えば、風に触れた魔法が一気に魔力として昇華する。

 全てを無に帰す、衰退の力。それがこの扇、私の愛用武器の特性だ。直接触れるか、風を介して元の物質、もしくは無に分解することができる。


「ほぉ、ならこれは?」

「!??」


 気配がしなかった。急に後ろから現れたルイが、私の頸動脈を締め上げる。その時に、異変を感じた。


「ぁぅ、っ魔力……っ!?」

「気が付いたか。俺のスキルだよ。【吸収】ってやつ」


 ルイに向けて試しに魔法をぶつけてみたら、トプンッと水に入るように魔法が消えていった。いや、吸収された。

 厄介な相手だわ……これは!


「っぐ……」


 意識が薄れてきながらも、地魔法で私の周りの地面を隆起させてなんとか逃れた。それでも、すぐに魔法で突破される。


「お前は最初、俺にそんなに魔法を使ってもいいのかって言ったよな?あぁ、いいさ。無くなったなら奪えばいい。幸い、供給源はすぐ近くにいいのがいるからなぁ!」


 ルイが空気中から魔力を吸収する速度を早めた。ずっと魔力を供給し続ければ半永久的に魔法が使える。ルイが強い理由はこれか。


「つくづく厄介な相手だったわ!見直した!」

「そりゃどーも」


 軽口を叩きながら、ルイがさっきよりも強大な火魔法を使ってきた。紅蓮の炎。私から魔力を奪ったおかげか、さらに力が増している。

【衰退ノ風】で打ち消しながらも、すぐに生成されるのではキリがない。


「何かしらの弱点……攻略法があるはず」


 小さくそう呟きながら、雨のように降り注ぐ瓦礫を避ける。

 相手は、魔力の供給がある限り魔法が使える。私の今の状態だと、魔力を常に空気中に発してるから、抑えることはできない。魔力を抑えたところで、どちらにしろ魔法が吸収されるのでは意味がないだろう。


「ほら、さっきの威勢はどうした?」

「……」


 今度はルイが優勢になった。

 追い詰められつつあった私は、走り回りながらある一つのことに気がついた。


(………さっきから、デカイ魔法しか使ってこない……まさかとは思うけど、供給量が多すぎるから?常に吸収し続けるスキルだとしたら、その分消費して限度に達しないようにするため?)


 ルイはずっと魔法を使い続けている。それこそ、私の魔力を吸収しているとはいえ、普通の人間が出せる出力ではないほどに。

 過度の回復魔法が逆に毒になってしまうように、自分の限度を超えた魔力は時として弊害を起こす。だから、それを防ぐために魔法を使い続けているのか?と考えた。なら……。


「ぷはっ……」

「?」


【衰退ノ風】の中に入っていた、比較的軽めの嶺毒を飲み込む。即効性のものなので、すぐに効果が効いてきた。

 全身の血の巡りが早くなり、心臓が早鐘を鳴らす。一瞬倒れ込みそうになるも、なんとか体を支えて早く解毒するために魔力と共に外に押し流した。


「!?……ガッ、ゴホッゴボッ……っお、ま……何を」

「あ!効いてくれた。よかったよかった」


 急に、ルイが喉を押さえながら膝をつく。さっきの私が、なるはずだった効力。


「毒ですよ、毒。私の兄特製の【嶺毒】と言うものです」


 既に解毒し切った私は、汗を流しながらもルイに近づき、その手に握られていた剣を蹴飛ばした。


「効果は………そうですね、簡単に言えば頭痛、呼吸器系に少しの障害、末端の筋肉を硬直させることですかね……大丈夫です。少し苦しいかもしれませんが、死にはしませんから」

「……っあガ」


 苦しそうに喉を押さえるルイ。でも、思ったよりは効いてないから元々毒に慣らされていたのかもしれないや。


「最後の最後まで足掻きますか?私はいいですよ。いくらでも相手して差し上げます。あぁ勿論、命を惜しまずに攻撃してくるなら遠慮なく沈めますが」

「っ……!」


 少しだけルイが取り込んだ魔力を操作して毒素を放出させる。これでだいぶ苦しさは解消されたはずだ。でも、まだ空気中には魔力と結合した毒素があるから、もうスキルを使っての魔力吸収はできないだろうけどね。


「………俺の、ま――」

「諦めないで!」


 降参しようとしたその時、突然観客席から声が飛んできた。声の主を見れば、それはヒロイン。一体何をするつもりなのだ。


「まだ諦めちゃダメ!今ここで諦めたら、絶対に後悔する!」


 闘技場全体がシン…‥と静まり返る中で、ヒロインの声だけが響いた。

 ルイも目を丸くしている。ねぇ、ちゃんと状況見ていってる?これ以上無理をしたら、ルイが苦しむだけだってのに。

 ヒロインに呆れながらルイを見たその時。ルイの背後にチリッと。一瞬だけ黒いオーラが見えた。


「!!!」


 一瞬の隙。直ぐに魔法で跳ね返そうとしたけど、それは一歩遅かった。


「………ぁ、あ」


 そのオーラはすぐにルイの中に取り込まれて、ルイの瞳から光が消えた。まるで奴隷紋をつけられた時のように。

 会場は、ヒロインに触発されてから少しずつ女子生徒を中心にルイを応援する声が上がっていく。


「ルイ様、そのようなものに負けないでくださいませ!」

「絶対に負けるな!」


 側から見れば、負けそうな人を鼓舞する感動のシーン。でも、私にはそれがとても気持ちが悪いものに見えた。

 ルイが力なくふらりと立ち上がる。そして、焦点の合っていない瞳で私を見た途端、前触れもなく魔法を放ってきた。

 明らかに正気ではない。魔法にも容赦がなさすぎる。完璧に私を殺そうとする、殺意を持った攻撃。


「頑張ってくださいませ!」


 観客達からのルイへの応援に苛立ちが増す。雑踏のように聞こえるものが、鮮明に耳に入ってくることが。

 必死に魔法を打ち消しながらも、ルイに呼びかける。


「ルイ!それ以上魔法を使ったら死ぬよ!?」

「………」


 ルイは何も答えない。明らかにさっき以上に頻発に魔法を撃っているから、絶対に魔力は底を尽きているはず。空気中の毒素は全て魔法で焼き切ったけれど、このままだと、私の魔力も底を尽きてルイが死んでしまう。その前に止めないと!


「目を覚ませ!死んでもいいのか!?」


 治癒魔法をかけた魔法弾が当たっても、ルイは止まらない。ただでさえ魔力が少なかった状態でこれだけ吸収され続けてはたまらない。


「クッソ……」


 舌打ちをしながら、誰がこんなことをしたんだと観客席をチラッと見て、背筋が凍った。


 ―――私の視界の先には、クスッと冷徹な笑みを浮かべたヒロインがいて、その背後にはドス黒いオーラが立ち昇っていたから。

読んでくださりありがとうございます!


ユキ「キリアってさ、戦うといつも人格変わるよね。あれってそういうハイ?」

ロイナス「そーなんじゃねーの?普通に恐怖だし」

レイト「……怖い」

ユキ「笑うところが尚更な……」


ちなみに、戦う時に笑うのはアルフレア兄妹全員。誰から派生したのやら。


次話は、急に暴走しだすルイ……主犯格がだんだんと見えてきた中、キリアちゃんはどう切り抜ける?

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