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01.憎まれて、当然。

 突き刺さる憎しみの瞳。

 そんな目で見られるのも仕方がない。

 俺はそれだけのことをやってしまったのだから。


「殺してやる!!」

「やめて!! やめて、お兄ちゃん!!」


 襲いかかってくる拳を避けはしなかった。それを受けるのは、義務だと思ったから。


「っが!!」


 俺は玄関の扉にドンっとぶち当たり、そのまま家の外へと投げ出される。


「サファーさん!!」


 アニアの声が闇夜に響いた。

 外は暗く人影もないが、近所の人が何事かと窓からこちらを見ているかもしれない。そんなどうでもいいことを考えながら、よろめく足で自重を支えて立ち上がる。

 ふと気づくと、口の中に鉄の味が走った。七年前にも彼の拳を食らったが、幼かった頃と比べるとその強さは桁違いだ。

 まだ拳を震わせているマルクスは、俺を殺しそうな勢いで睨みつけてくる。


「出て行け……出て行け!! 二度とこの家の敷居を跨ぐな!!」

「もうやめて!! 酷過ぎるよ、お兄ちゃん!!」


 俺に駆け寄ろうとしてくれるアニアを、兄のマルクスが腕を掴んで止めた。


「アニア!!」

「離して!!」


 それでもなお、俺に近づこうとするアニアに、マルクスは悲しみとも怒りとも取れる表情で彼女に訴える。


「なんで、アニア……ッ! こいつは俺たちの両親を、殺した奴だぞ!!」

「お兄ちゃん、サファーさんは……っ」


 アニアがなにかを言おうとするのを、俺は首を横に振って制した。

 マルクスの言う通りだ。

 俺は……


 この少年と少女の両親を、殺してしまったのだから。


 だから、幸せになどなってはいけない。

 いけないんだ。


 それを理解していたのに、どうしてこうも罪を重ねてしまったのか。


「サファーさん!!」


 二人に背を向けると、アニアの悲鳴にも似た声が突き刺さる。


「ごめんな、アニア……マルクス」

「サファーさん!! サファーさん!!」


 一歩進むたびにアニアの声が遠くなり、十数歩進むとバタンと無理やり扉の閉められる音がした。

 アニアは今、泣いているのだろう。今すぐに飛んでいって、抱きしめてあげたい。

 だが、それが叶わぬことは、誰よりもよくわかっていた。


 俺はアニアに心を残したまま、下弦の月を見上げる。

 そうだった、あの日もこんな月だったのだ。


 あの子たちの両親を、殺してしまったあの夜は──

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