国を出る準備
まあ早速城から出てしまったわけで、この王国にいるのは少し気まずいからなるべく早く国を出ようと思う。
が、少しこの町をみて回りたいと思う。
それにしてもここはルナトリアの王都なのだろう、すごい人の数である。
すれ違う人は皆様々な格好だ。
たくさんの冒険者らしき人たちや商人なんかが目につく。
だが、そいつらがつれている人、恐らく奴隷だ。
王国なんかでは当たり前の光景なのだろう。
あまりそういう環境には慣れたくないな。
たまにある裏道なんかではスラムになっている地域もみられた。まるで身分差社会をものがたっているかのようだ。
まあ散策もぼちぼちにして、荷造りでも始めよう。
国の外に出るに当たって武器が必要だな。
外には魔獣とか魔物が多くいるのだろうからな。
そう思いまず目指したのは武器屋だ。
俺は店内を見渡す。
様々な武器があるが、すべて高い。
「なんか高いな。」
つい口に出てしまった。
すると奥から樽のような体型の男が出てくる。
ドワーフだろうか、この辺では他の種族は初めて見た気がするな。
「なんだぁ?新人か?」
「まあ、そんなところだよ」
「最近物価が上がってるんだ。戦争とかでな。」
「なるほどそうか、それじゃあ仕方ないね。」
「だが、俺は物の価値そのままの値段で売りたいんだが流石に経営に支障がでちまうからな。」
「そうだなあ、その気持ちはよく分かるよ…、ところで金貨1枚で買える剣とかある?」
「金貨1枚か……いやそういえばあれがあったな。」
そう言って奥から持ってきたのは、片手剣であった。
それも錆び付いた。
「それは?ずいぶんと錆びてるみたいだけど。」
「これは俺が初心者の冒険者のころ値引きしてもらった剣だ。」
「へぇ、冒険してた頃があったのか」
「まあなでも足を怪我しちまってからは鍛冶屋に転向さ。」
「そうか…悪いこと聞いたみたいだね。」
「いや、いいんだ。新人の頃は注意しろっちゅうことだ。サービスで銀貨50枚までまけてやるよ。それから昼前までに研いでやるからまあ他の店でもまわってきな。」
「それは助かるよ。ありがとう。」
一旦鍛冶屋を後にした俺は、次にアイテム屋に入る。
予算は銀貨150枚と銅貨100枚か。
半分以下の予算で買える分だけ買おう。
普通のポーションは銀貨5枚か、少し高いが…よし10本は買おう。
その他に毒消し数本、鍋や包丁などの調理器具に、塩や胡椒、ハーブなどの調味料も買っておく。
料理できんのかって?独り暮らししてた頃はわりと自分で作ったもんだよ。
他にも水筒や細かい物を買い、残金は銀貨70枚と銅貨50枚ほどだ。
その後防具なんかも見てみたが、高くて変えたもんじゃない。
防具なしの軽装は少し怖いが仕方ないか。
そして俺は約束通り鍛冶屋に戻る。
「刃こぼれなんかもきれいにしておいたぞ。」
「仕事が早いな、ありがたく使わせてもらうよ。」
「じゃあな、ホントに新人の頃は気を付けろよ?」
そんな忠告に俺は手を挙げ答えながら店をでる。
…もう昼か。なんか軽食でもとろう。
そう思い通りを歩いてみる。
すると1つの焼き肉の屋台が目に入った。
「ちょっと聞くけど、この肉ってなんの肉を使ってるの?」
「これは兎の肉さ」
「それは野生の?」
「?ああ野生の魔獣の肉だよ。」
そうかこの世界の動物は魔獣なんだな。
「ひとつもらうよ。」
「まいど!1本銅貨20枚だよ」
その場で肉に噛みついてみた。
うん、おいしい。まあ少し固いけど鶏肉みたいだな。
肉をひとかじりした後、俺はこれからの本題について聞いてみた。
「実は西のアートリス王国に行きたいんだけど、どうすればいいか知ってる?」
そう俺は戦争中だと言う帝国より安全な西を選んだのだ。
「なんだ旅人さんだったのかい。羨ましいもんだね。」
「なんの話です?」
すると店主は小声で、
「実はここ王都ノクトに住民権を持つものは他の国へなかなか行かせてもらえないんだ。まあ冒険者なんかは別だけどよ。」
なるほど、いよいよこの国はきな臭いぞ。
「ちなみに西門に行けばそっち行きの馬車がいると思うよ。」
「わかったよ、ありがとう。」
俺はすぐに西門へと向かう。
門の周りには検問に並ぶ多くの商人や運びや、そしてその馬車が並ぶ。
俺は後ろの方に並んでいた、商品と人を乗せるスペースを持つ馬車の男性に声を掛ける。
「この馬車アートリスに向かいます?」
「ええいきますよ。最近王都の景気が悪いのでかなり遠いですがちょうど商売場所を変えようかと思っていたのですよ。」
「乗せてもらいたいんだけど大丈夫?」
「ええ、まだ空きはありますよ。アートリスまでなら銀貨50枚ほどですよ。」
「うっ、結構するんだな。」
「ここから遠いのもありますが、やはり不景気が影響でして、餌代や水なんかも随分とこちらでは高いですからね。」
「わかった、それで乗せてもらうよ。」
「私は商人のトムと申します。」
「俺は石川壮真です。」
そうして俺は中の荷台に乗り込む。
どうやら他に乗っているのは男女二人組の冒険者らしき人たちと一人の男性らしいな。
「皆さんはどこまで行かれるんで?」
「俺たちは護衛なんだ。ここからアートリスに行くまでを任されてるんだ。」
「ええ、もとはアートリスの冒険者なんだけど依頼でこっちに来ててね。帰りに乗せてもらうのと交換で護衛をするのよ。」
「そう言うことか。」
「おいおい、これから3日間過ごすんだからもう少し気楽に行こうぜ?」
「そうよ、見たところ年齢も変わらなそうだしね」
「ん?そうだなよろしく頼むよ。」
「ちなみに俺の名前はダン・トルンって言うんだ。19歳だ。」
「私はエリー・セキュアよ。私も19歳よ。」
そうか、ここではファーストネームが先なんだな。
「俺はソーマ・イシカワだ。歳は25歳ね」
「ふーん意外と年上だったんだ。髪色にしてもそうだが珍しい名前だな。呼び捨てになるけどソーマって呼べば言いか?」
「ああ、それでいいよ。俺も呼び捨てにさせてもらうよ。これからよろしく。」
ダンは茶髪の短髪で結構な筋肉の持ち主だ。イケメンである。
エリーは腰元までのびた水色の髪の毛で顔つきも綺麗だ。
全くもって美男美女だなこの二人は…
そしてもう一人の男性は
「実は私は次に通る町の村長をしていましてね。私は名前をマークと申します。」
「へ?村長のマークさんがなぜここに?」
「最近村の近くで魔獣が増えておりまして、王都のギルドに直接助力を申し出に行ったのですよ。まあ追い払われましたがね。」
「それは大変で…、して、なぜこの馬車に?」
「経費節約ですね、直接冒険者を雇っていますとまあお金がかかってしまいますのでな。こうして乗せてもらった方が楽なのですよ。」
そんな話をしていると検問所の順番が回ってくる。
そういや俺検査とか大丈夫なのか?
すると、検問官が近づいてきて中を覗く。
他の人の身分証を確認するなか、
「…ああお前が報告にあったやつだな。」
いきなり目をつけられたか…
「他の国へ行くんだろ?達者でな。」
なんだいい人かよ。
「問題なし、通っていいぞ。」
「何?ソーマさ、前になんかあったの?」
「いやまあ、いろいろとね…」
「そう…まあいいけど」
門を出ると、外はある程度舗装された道と平原がとにかく続いていた。
《ヒヒーン!》
「では皆さん、出発しますね。」
こうして俺はルナトリア王国を後にアートリス王国を目指すことになった。