早くも追い出される
次の日、俺はメイドのイースさんの声で起きる。
「イシカワ様ー、起床の時間です」
「はーい」
ふわぁ、よく眠れたな。この高級ベッドのお陰か?
ははっ、いや仕事にいかないからかもな。
俺は顔を洗い、口をゆすいでからドアを開ける。
「おはよう」
「おはようございます、イシカワ様。こちら本日の着替えになっています。」
渡されたのは綿性の普通の上下である。
城の中なので俺らとの身分の差は出すということだろうか?
まあ着替えが用意されていること自体は嬉しいことだ。
スーツとワイシャツに下着も洗いたいしね。
着替えた俺はドアの外に出る。
すると他の面々も同じ時間に起こされたのか出てきた。
「これからどこにいくの?」
「まずは食堂で食事ですよ。」
そう言いつれてこられたのは横に人が何人座れるであろうか。
巨大なテーブルがある部屋だった。
用意された料理は高級感漂わせる食材を使い込んでいそうだ。
『いただきます』「ふん」「‥‥」
まずはスープを一口飲む。
口のなかに広がるコーンの旨味。調味料もいれてないみたいだし、このコーンの出来を見るからに農作資源が豊かなのだろう。料理人も素晴らしい腕なのだろうが。
そして正方形のパン。なかはフワフワ外はパリッの完璧な温度加減である。これがバターをつけるとまた格別にうまい。
残りのおかずやサラダと共に完食する。
朝食だけなのに高級レストランに行ったみたいな気分だ。
と、ここで俺は周りの高校生たちに聞きたいことがあったのを思い出す。
「突然なんだか、みんなはここで勇者になるつもりなのか?」
実は昨日のことから考えていたことがある。
まず召喚に生け贄のようなものでも使ったのではないかということ。
そして俺は向こうの話ぶりから実は召喚に関係ないのでは?ということだ。
急に喋りだした俺に周りの高校生たちは目を合わせる。
そして長身イケメンの佐藤君が口を開く。
「僕たちは皆と話し合ったのですが、やはりすぐには決まらず…」
「てゆーかあんた誰なんだよ。」
そう荒井君に言われはっとする。
そうだった名前を教えたのイースさんだけだった。
まあどうせだしみんなに名前を教えとくか。
「俺は石川壮真って言うんだ、25歳だ。」
「結構年上じゃねーか。」
「意外ー」
まあ俺はいつも若くみられてるしな、事実そんな歳でもない。
「で、その事なんだけどこの召喚とやらにもしかしたら生け贄なんかを使ってるんじゃないかと思ってね。あの態度から見るに何らかの儀式でも行ったように見えるしな。だから断った時に不味いんじゃないかと警告しとこうかなと。」
『生け贄!?』
「もしそうだとしたらどうなるんですか?」
「召喚した皆を強制的に従わせるなんかでもあるんだろう。そうじゃないとそんな犠牲を出してまで召喚した俺たちをこんなに自由にさせてるはずがないと思うんだよね。」
『?』
「だって生け贄を使うくらいだぜ?なんか隠してるに決まってるさ。」
『!!』
「確かに…そういわれると怖いですね。」
「でだ、まだ話の続きはあるんだが、実はこの召喚に俺は関係ないと思っているんだ。あの人たちの俺に対する態度から見るに俺の年齢もそうだけど明らかに俺だけ違うんだよな。何て言うか?ただの社会人だろ?そこで【その続きは私が話しましょう】ん?」
そう話を遮って出てきたのは側近の人だった。
「あなたはなかなかに鋭いようですね。その人が言うとおりあなたたちには拒否権などなかったのですよ。まあ拒否したときはこの首輪でもつけてもらいますけど。」
そういって見せるのはなんとも禍々しいオーラを放つ物体。
「これには人に催眠をかける効果がありましてね。一生勇者として働け、とでも言えばまあずっと従うでしょう。」
「はぁ?ざけんなよ」
そう言い飛び出しそうになる荒井くんを他の男二人が押さえる。
そして側近の男は俺に向かって言う。
「そしてそこのあなたの言うとおり、皆さんが何者なのかどうか確かめるためにこれから試してもらいます。」
(まあみる限り別物なのはあの人でしょうが…)
男は朝食を食べ終わった俺たちを外の広間に集める。
「では、あなたたちが思う自分を想像してください。」
そういわれみんなは考えているようだ。
俺も一応考えてみる。なんだろう、男と言えば剣か?いや銃も捨てがたい…とか考えていると。
周りの高校生たちは輝きだす。
見ると自分の武器を顕現しているようだった。
「佐藤剣:剣の勇者、荒井拳史郎:拳の勇者、橘京花:魔法の勇者、渡瀬大護:守りの勇者、東雲雫:癒しの勇者だな…フム、今回はバランスも良いし上出来だな…」
案の定俺は何もでなかった。
「そしてお前はやはり何も出ないか。チッ」
急に冷たい口調になった男は続けて言う。
「これでお前が用なしだとわかったな。では、今すぐにこの城から出ていってもらおうか。お前のようなものを養う意味はないのでな。」
…それに鋭いやつがいるのは面倒だ。
やはりそうか。
こいつらは能力だけで決めるやつらみたいだな。
まだ俺自身何か考えがあるわけではないが、
「わかった」
『!!』
「お、おいっ!いいのかよあんた」
「そうですよ、なんとか働かせてもらったほうが…」
「まあなんとかなるだろ」
そう言って俺は荷物を整理するため一度部屋に戻った。
戻るまでの道のりは驚くものだった。
すれ違う人皆から冷たい目を向けられてしまうからだ。
しかし、驚くのはそれだけではなかった。
部屋にはイースさんがいたからだ。
「イシカワ様、このような仕打ちを受けさせてしまい申し訳ありません。」
「いやいや、雰囲気からなんとなく覚悟してたよ。」
「ですが何も持たずにいくと言うのは流石に大変ですのでこれをお受け取りください。それと服は洗わせていただきました。」
そう言って金貨1枚、銀貨と銅貨を100枚ずつを袋にいれたもの、そして俺のスーツを渡してくれた。
「スーツいつ洗ったの?」
「ちょっと魔法で…」
とても気配りもできる良い人だ。
俺についたのがこの人だったのが不幸中の幸いだな。
「ホントにありがとう!」
「いえ、お客様をもてなすのもメイドの仕事ですから。」
そして俺はいつも使っている黒の肩掛けバッグに荷物をまとめて部屋を出る。
「ではこれで」
「あなたの人生に良い旅を」
こうして俺は城を出ていった。