異世界召喚?
これは入社三年目の八月末である。
「この商品、なんと服を自動で折り畳んでくれるんですよ!」
「そんなもん要らないよ。帰ってくれ。」
「あのー、こちら●●という会社のものでして…」
「うちは、セールスお断りだよ!」
俺の名前は石川壮真だ。
年齢はこの前誕生日がきたから25歳になったはずだ。
そんな俺は今日も自社の製品を売りに出回っている。
それにしてもこの頃売れないんだよな。
そんなに俺売るの下手かな。
それともなんか他に原因あるのか?
まあ確かに普段からヤル気ない顔はしてるかもしれないけど…
この仕事が良いかって?
いや別に良いということはないな。
そんな仕事に就いているのは元々は大学受験に失敗したとこからなんだよな。
俺の家庭はまあ普通の家族構成で両親と兄と俺の兄弟四人だったわけだ。
兄は勤勉で一流の国立へと進学していくなか、特に不自由のなかった俺は何も考えちゃいなかった。
高校はそこそこの所へ進学していたが特に勉強するわけでもなくなんとなくで過ごしていた。
すると案の定俺は志望していた私立大学には落ちた。
俺は一浪なんかする気もなく受かっていた二流大学へと進学していった。
俺は大学でも特に目的や趣味もなかった。
まあしいて言うならライトノベルやマンガを読んだり、ゲームをするぐらいの普通の学生だったな。
そんなこんなで特に目的もなく過ごしてきた俺はいつの間にか大学生活も終わり就職していたのである。
俺は何とか月の売り込みのノルマを達成し会社へと戻る。
「売り込みおえてきましたー。」
「おう、今日も仕事お疲れさん。」
そう声をかけるのは木村さんである。
俺が新人のときから指導をしてくれた人だ。
「じゃあ帰りまでにこの資料片付けといてくれ。」
「了解です。」
そう言い俺はいつもの仕事へと入るためデスクへと向かう。
と、ちょうど同僚も帰ってきたみたいだ。
「なあ、今日飲みにでもいかないか?」
「そうだな、今月のノルマも終わったし行くか!」
そんな会話をしながら無事定時までに仕事を終わらせ同僚と共に居酒屋へと向かう。
《ザワザワガヤガヤ》
「それにしても高校生?か大学生がわらわらいんな」
「まあ夏も終わるし最後に遊んでんだろ」
この周辺にはゲーセンやらボウリングやらモールのような若者のたまり場がたくさんあるのだ。
そんな中俺は俺は異音に気付いた。
それは自分達の上からだった。
《ガランガランッ》
「うわっ!」「きゃぁっ!」
工事現場の鉄骨が落ちてくるなかその下にいたのは高校生らしき五人である。
俺はギリギリ当たらない位置にいたようだった。
目の前の高校生たちが鉄骨に潰される…と思ったところでそれは起きた。
「えっ?」
俺がそんな声をあげると同時に白くまぶしい光につつまれ、俺は目を瞑った。
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しばらくして俺は目を開けてみた。
するとそこはヨーロッパ風の城の一室のような場所であった。
ん?どこなんだここ。さっきまで外にいたのに。
それもだかあの玉座に座ってるのはどっかの王様か?
「ようこそ異界の者達よ。」
え?ということはまさか異世界だってのか!?
と、そう思っていたのは俺だけはなかったようで
「いきなりなんだいこれは?」
「おいどこだよここはぶざけんな。」
「「「‥‥‥」」」
高校生らしきみんなもどうやらいたようだ。
ちなみに男三人に女二人である。
そのなかで声をあげたのは、茶髪の長身イケメン君と金髪のちょい悪顔だ。
「本当にあの者たちは勇者なんだろうな?あれほどのことをしたのだ、これで使えな…ごほんごほん。もし駄目だったら、わが王国は…」
「ええ、間違いありません。皆さんがた、まあ一度落ち着いてください。」
そう言うのは王の横にいた眼鏡の男である。
そこで王が口を開く、
「まず我の名は、アレク・ルナトリア。このルナトリア王国の王である。」
《王(様)!!》
まあ風格あるもんね。
「ではそちらも自己紹介とでもいこうか」
そこで高校生たちは自分たちの名前を言っていく。
「僕は佐藤剣です。」「俺は荒井拳史郎だ。」
「あたしは橘京花。」「渡瀬大護…」「わ、私は東雲雫です。」
皆が自己紹介するなか俺はスルーされる。
あれ?ひどいくない?平然と気付かないのか。
「では本題に入ろう。まずそなた達は我々が召喚した五人の勇者である。この召喚によってそなた達には特別な力が宿っているはずであろう。」
《勇者??》
勇者というワードも気になるがそれよりも、
「あのー、もう一人いるんですけど…」
(おいっ!何でもう一人おるのだ。)
(わ、わかりませぬ、召喚に問題はなかったはずなのですが。)
王様と側近はこそこそと話している。
「ゴホン、そしてそなたたちを喚んだ目的だが、戦力補充のためである。隣国エスポワール帝国と魔族との戦争があるのでな。」
俺のことはずっと放置ですか、そういうプレイですか?
というか戦争だと?
こちとら生まれてから一度もしたことないぞ?
「戦争だと!そんなもんいくわけないだろ!」
「なぜ我々がそのようなことをするのです?」
「まあまて、こちらとてただで行けと申すのではない。もちろん上手くいけばそちらの要求を何でも飲もう。」
「何でもだと?言ったな?」
「‥‥‥」
なんか話勝手に進んじゃってるし。てか何で戦争してんだろ。
「すいません。どうして戦争してるんですか?」
「それは隣国とは宗派が違い仲が悪いからである。そして魔族は昔から悪と捉えられ、魔王は世界の脅威とされておるのだよ。」
「はぁ…」
なにこの世界魔王までいんの?
「まあ今日はいきなりだったのでな、今日は休んでもらい明日にでも返事を聞かせてもらおうか。」
王はそう言い城の奥へと消えていった。
高校生たちは皆文句でも言いたげな顔をしながらも口にはださなかった。
そして残った側近の人は待機していたメイドたちへ目配せをしてから言う。
「各々方に部屋を用意させていただきました。では案内しなさい。」
よかった、俺の部屋も用意されているみたいだ。
それから王城内を歩き部屋へと案内される。
皆が別々のメイドと部屋へ入るなか、俺も自分の部屋へ入る。
流石はお城の一室だな、めっちゃ広いぞ。
そこで俺の担当らしきメイドさんが訊ねてくる。
「失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
恐らく10代後半くらいの金髪を肩ほどまで伸ばしたおっとりした美人さんだ。
そういえばさっき俺だけ名乗ってないじゃん!
「俺は石川です。」
「私はイースと申します。ではイシカワ様、用事がありましたらお呼びください。」
そういって部屋の外へ出ようとするところを呼び戻し、俺はこの世界について聞きたかったので少しお話をすることにした。
この世界はアザレストといい、暦など世界観は日本と変わらないようだ。
いくつかの大陸があるなかでこの国がある最も大きい大陸には他にも国がある。
西から港国であるポートピア王国、アートリス王国、ルナトリア王国、エスポワール帝国の順番に領域があり、そして南側全域には魔族領があるとされているらしい。
ちなみに通貨も教えてもらった。
銅貨100枚が銀貨1枚、銀貨100枚が金貨1枚だそうで、それよりも上の硬貨もあるらしい。日本円でいう銅貨は1円ほどだろう。
そしてなんといってもこの世界には魔法があるのだ。
基本的に無属性は皆が持っているので、所持属性にはカウントされないらしい。
火、水、土、風、雷、光、闇が主な属性として存在する。人によっては氷属性のように1つの属性から分岐することもあるそうだ。
そんな話を聞いた後、俺も地球のことなんかを少し教えてあげから話を終えた。
「お話とても楽しかったです。ではまた明日も。」
そう言いメイドさんは自分の事務へと戻っていく。
窓から外を見る。
なんだもうこんな時間だったんだ。
もうすでに遅い時間であったこともあり部屋の風呂に入った後用意された服に着替えすぐに寝てしまった。
それにしてもあいつらの言葉、気になるな…zzz