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水都異能奇譚  作者: 右川史也
第六章 氷を繰る敵対者
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第44話

 空中で手足をかき、転がり込むように橋の向こうに辿り着いた。

 まもなく、ドボン、と川から聞こえてくる。


 大丈夫……だよな――。


 心配になる。だが、繋いでくれた想いを胸に、目の前の事に集中した。


「ホンっト、しつこいわね」

 辟易としたなかに確かな敵意が混ざる表情を浮かべる怜奈。


「妹を――雪海をかえせッ!」

「この期に及んで言葉が無意味な事くらい知ってるでしょ。〈スカジ〉!」


 怜奈の前に人型の氷が現れる。

 だが、アイスゴーレムとは違う。


 身長は冬鷹と同じくらいだ。長い髪と細い身体の線が、一目で女性だと判る。手にはボウガンを持ち、足にはスキー板を履いていた。


 同時に怜奈を取り囲むように宙に点々と氷の粒が現れる。見る見るうちに成長し氷柱となったそれらは、冬鷹に鋭く尖った先端を向けた。


 言葉無く、氷柱が飛びだす。

 冬鷹は〈ゲイル〉で左へ大きく避ける。

 ――が、そこへ〈スカジ〉がボウガンで氷の矢を複数同時に放つ。


「ぐ――ッ!」

 当たった矢の内一本が〈金剛〉を貫き、冬鷹の左肩に突き刺さった。


「アンタ一人で天才の私に勝てるわけがない」


 再び複数の氷柱が冬鷹を襲う。今度は右に大きく避け、さらにスカジの矢も避けた。

 しかし今度は、突如地面から生えてきた氷柱に道を塞がれ、接近の機会を逸する。


 気が付けば、地面は怜奈を中心に白い薄氷に覆われていた。


「諦めるのね」

「諦めるわけないだろッ!」


 だが下手に踏み込めば、また足を凍らされ、〈ゲイル〉を破壊されかねない。

 氷の世界はじわりじわり、その領域を拡大してゆく。


「仲間はもういない。来たとしてもここまで渡ってこられない。例え渡れたとしても、その頃にはアンタは倒されて、私はこの街とおさらばよ」


 三度(みたび)、氷柱とスカジによる攻撃。

 避けても地面からの氷柱と氷の陣がある。だが、恐れてはいつまでたっても近付けない。


 冬鷹は意を決し、氷の陣内へと踏み込む。

〈ゲイル〉による急接近。怜奈の周りには次弾となる氷柱がまだない。

〈黒川〉をクルっと握り直し、怜奈に向け峰を振り下ろす。


 だが――。


「アンタ、バカね」


 強烈な打撃が冬鷹の胴部を襲った。


「ぐあっ、がはッ――」


 殴り飛ばされながら、冬鷹は失念していた事に気が付いた。


 アイスゴーレム――。


 怜奈の背後で雪海の身体を担ぐそれは、単なる運搬用ではなかった。


「だから言ったでしょ。勝てるわけないって」

「はあ、はあ、」


 全身を巡る痛みに抗い、立ち上がる。言葉を返す余裕などない。ただ目標を捉え、刀を構え直す。


 しかし、怜奈は無慈悲に告げる。


「無駄よ」

「ぐあッ!」


 冬鷹の足に痛みが走る。

 倒れ、起き上がった場所、そこは氷の陣の内側だった。


「これで〈ゲイル〉は無くなった。〈金剛〉も貫ける。〈黒川〉も届かない。〈力天甲〉も〈パラーレ〉も全く脅威にならない。これじゃあ〈アドバンスト流柳〉も宝の持ち腐れね」


 そう言う間にも、スカジの矢が冬鷹の右ももに突き刺さる。

 冬鷹は〈力天甲〉を使い足元の薄氷を叩き割ると、陣の外に下がった。

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