第14話
隠岐が上官へ配置換えの旨を伝えるべくその場から離れると、冬鷹は口を開いた。
「えっと、あ、あの、根本先輩」
「驚いたぁ?」
言葉を攫うように根本が唐突に尋ねてきたので、冬鷹は言葉を失ってしまった。
普段、縁側を好む猫のような性格の根本が自ら、しかも後輩のために仕事をかって出るとは『意外』以外の何物でもない。
「冬鷹君って出世意欲強そうだからねぇ。色々と貸し作っておくのはアリかなぁって思ったんだぁ。もし冬鷹君が出世したらぁ、この貸しを利子付きで返してくれる事を期待してるよぉ」
眠たげな声のせいか、冗談なのか本気なのか判らなかった。
「まあ、僕は基本手伝えないと思うからぁ。がんばってねぇ」
「あ、えっと、はいっ。あ、あの、ありがとうございます!」
と、冬鷹は言いそびれていた言葉を急いで口にした。
「いいよいいよぉ。あー、あとさぁ、隠岐君は厳しいけど、嫌な奴じゃないからぁ。普段は、纏まりがない僕ら同期組をなんとか纏めようとしてくれる良いリーダーなんだぁ」
「い、いえ! 嫌な人だなんて思ってないですよ! 叱られた理由も全部納得できましたし」
「そぉ? なら良かった。隠岐君も人外と闘って気が立ってたんだろうねぇ。〈借能力者〉ので一応見た事はあったけどぉ、たぶん僕ら全員、野良のは初めてだったからぁ」
第一異能分類〈借能力〉――とは、獣や鳥、蟲、精霊、悪魔など、他の存在の力を借りる異能だ。力の借り方によっては、〈使役者〉〈庇護者〉〈契約者〉などと別ける事もある。
〈借能力〉は第一異能分類内で最も使用者が少ないのだが、〈人外〉から力を借りるともなれば、希少性は飛躍的に上昇する。
「もしかしたら、『誰かの』が逃げたのかもしれないけどぉ……あんな珍しくて大きくてパワフルだったら有名になってそうだから、やっぱり無いかなぁ」
根本の言葉をきっかけに、四人は氷の人外の正体や、それが街に現れた理由をあれやこれやと予想し始めた。しかし四人とも人外に詳しいわけではなく、早々に『イエティが突然変異したのだったりして』とトンデモ話に行きついてしまう。
最終的には、自分の剣技を自慢する去川と、眠た気にツッコミを入れる根本、二人のやり取りにそれとなく付き合う後輩二人――という構図に舞い戻ってしまった。