はじまりのはじまり
「これからが本当のはじまりだよ。」
アオイはそういうと、足早にその場を去って行った。
「めんどくさいな・・・。」
俺はそういって下を向きながらも、足は確実に前に向かっていた。
シュンとアオイ、二人のおつかいが今始まろうとしている。
さかのぼること数日前。
「よーしお前ら、冒険に出てもらうから準備しとけよー」
とリュウはいった。
「いや、まてまてまて!意味わかんないし、話し唐突だし、冒険とか抽象的すぎるし、まずお前誰だよ。」
「お前俺を知らないのか・・・。神風のリュウとはまさに俺のことだよ。」
「知らないし。しかも神風って・・・。ちょっとダサい・・・。」
俺は呆れた顔でボソッと言った。
「あ?なんかいったか?」
「いや別になにもー。」
なんだよこいつ地獄耳かよ。恐ろしいやつだな…
「ところで。冒険って一体どこに向かうんですか?」
アオイが聞き返すと、リュウは待っていましたと言わんばかりにくいついた。
「よく聞いてくれた!お前たちには今から西の国“ローグ”に向かってもらう。そこでこの書類を届けてほしいんだ。」
「つまりそれは・・・。」
「ただのパシリじゃねえかよ!!!」
ただのパシリだった。名前は知らんが見るからにレベルが高そうなこいつから頼まれるからどんな任務かと思いきや、本当につくづく呆れさせやがる。
しかし俺の心を読みとったのか、リュウが目を光らせて言ってきた。
「いや、よく聞けシュン。この書類は我が国の最重要書類だ。この任務は極秘にやらなくてはならない。それに俺はあいにく別の任務と重なっちまって、どうしてもできないんだ。頼む引き受けてくれないか?」
「よくそんな重要な任務を新米の俺らなんかに託せるな… しかも初対面だしよ。」
「いや、初対面なんかじゃないんだけどな…」
リュウの顔が下を向く。俺は気づかなかったが、アオイはその一瞬の表情を見逃さなかった。
「初対面じゃない・・・?」
「ん?アオイなんかいったか??」
「いや、大丈夫。それよりこの任務受けましょうよ!私たちのステップアップに絶対つながるわ!」
「んー・・・まあそうだな。パシリってのが気にくわないがな。」
「まあそう言うな。西の国なんてここから5日もあれば着くし、そこまで強大な敵がいるわけでもない。今のお前らでも十分達成できるはずだ。」
確かに、ここからローグまでは5日程度で着いてしまうし、なによりこの前の任務で訪れている。アオイの言うとおり、俺たちのステップアップにもつながりそうだ。
「じゃ、よろしくなー。」
リュウはそう言い残すとどこかへ去ってしまった。しかしながら、もっと言うことがあるだろうよ。頑張れとか、頼んだとか、ありがとうとか・・・。ほんとに何者なんだ。
浮かない顔をしていると、アオイが話しかけてきた。
「どうしたの?まさかシュン、不安なの?」
いたずらな微笑みを浮かべながら聞いてくる。
「まさか。ただのお使い任務だろ。こんなのに不安がってたら、この先やってけないだろ!そういうアオイはどうなんだよ?」
「ん?私?私は不安じゃないよ。ただ、国の最重要書類っていうのがちょっと心配かな。」
それだ。我が国の最重要書類と言われると、確かに不安になってしまうのもわからなくもない。だが、ここで不安がってしまったら元も子もない。
「大丈夫だって。極秘任務だから誰も知らないわけだろ。命狙われるわけでもあるまいし、気楽に行こうぜ。」
そういって自分にも言い聞かせるように言った。するとアオイが
「そうだよね。よーし、やる気出てきたぞー!早速準備しちゃおーう!!」
いつにもましてやる気いっぱいのアオイ。自然に俺の気合いも入ってしまう。
「じゃあ出発は3日後、西の国“ローグ”に向かうぞ。」
「はーい。」
元気のいい返事が返ってくるとともに、アオイは踵を返した。
「・・・」
アオイの浮かない表情をこのときの俺は知るよしもなかった。