雪
それは、外から見ればガラスのように綺麗なくせして、中は、ドロ沼のように汚い。
❄︎
「見て見て、あの子‼︎」
「うわー、かわいい。モデルさんかなぁ。」
彼女が指差す方には、白いカーディガンから、淡い水色のシャツをちらつかせている女の子がいた。その肌は雪のように白く、墨のように黒い瞳とよく似合っている。
「あー、ちょっとでいいから顔面のパーツ分けてくれないかなー。」
おふざけ半分で女が言うと、
「誰がテメーなんかにやるかよ。ブース」
「え…。」
と、後ろから来た通りすがりの男にはっきりと言われてしまった。
「ちょ、何よ!あんたに関係ないでしょ!」
女が何を言っても、男は辺りをキョロキョロ見渡すばかりで、女の怒りはたまる事しか出来ない。
「サイテー。」
「でも、なんかかっこ良くなかった?」
「えー?あんまり顔見てな…」
「星華‼︎」
男は、誰か見つけたようで、そのまま走り去っていった。その時の顔は、宝物を見つけた子供のように、あどけなく、愛らしい笑顔だった。
「…かわいい…って感じ。」
「だね。…って、ちょっと見てあれ!」
またもや女が指差す方には、あの女の子…と、さっきの男が仲良さげに話している。それはそれはまさに、「お似合い」という言葉が似合う素敵な光景だった。
「美男美女…って感じ。」
「だね。」
❄︎
「夕、ごめんね。待ち合わせ場所にいなくて。」
「ホントだよ。急に居なくなるから、心配したんだぞ。」
「だって、エリアさんの新作が出てたんだよ!本屋の前通りかかったら…」
興奮しながら話す星華を見て、夕は、自然と笑顔をこぼす。
(エリアさんね。良かった。エリアさんで)
「まあ、それなら良かったよ。」
「なんで?」
「なんでって…お前は…」
「その…か、かわいいから…変な奴に連れて行かれそうで…」
夕は、顔を赤く染めながら、星華の白い頬に手を伸ばした。
「とにかく、色々と心配なんだよ!」
「ふーん」
(夕の手は、熱くて、こっちまで熱くなってくる。ドキドキする。)
「ほら、行くぞ。」
と、照れた夕が手を出してきた。
「え?」
「ん!」
「うわ!」
急に夕の熱い手が、星華の手を掴んで、絡めた。おっきな手で、絡めたと言うよりは、包んだと言った方がいいのだろうか?
「あ、雪」
「ホント」
2人の上には、静かに雪が降っていた。優しく。冷たく。
「そういえばもう、付き合って1年になるな。」
「そうだねー。早いねー。」
「告って良かったねー。」
「告られて良かったねー。」
「ね。」
ぎゅっと握りあった手を、少し揺らしながら歩いて行く。歩いてきた道には、どんどん雪が積もってくる。
「…きだよ。」
「え?」
「好きだよ。」