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揺らいだ湖面
屋敷のギャラリーにある窓から、藤は妹の様子をしげしげとご機嫌な笑みを浮かべて観察していた。
ここから彼女を軟禁したガレージまでは、よく見通せるになっている。
桐子は秋に救われて、無事に脱出したようだ。
もとより本気で軟禁しようとは思っていない。ただ『黒澤秋』を誘き出すための餌になってくれれば、それで満足だ。
計画は上々、なにも不満はないはずだ。なのに。
「どうしてだろう……?僕は————」
気持ちが揺らぐ。
静かな湖面を撫ぜる風が吹いたみたいに。
ひとつだったはずのものが、少しずつ、少しずつ、分裂しようとしている。
「どうして、涙なんて流すのかな?ねぇ……」
もうひとりの自分が流す涙の意味を、『彼』は知らない。