家族になりたいんだよ
細く燻る煙草の煙。
窓を閉めきった室内なので風はなく、ただ真っ直ぐに上へ上へと延びる。
ニコチンとメントールがきつい、お気に入りの銘柄。いつもだったら美味しい、なんて感じるのに。
いまはただただ不味い。
クソ不味い最悪だ。秋が初めて作ってくれた手料理よりも、ずっと不味い。
まだ半分くらいは残っているのに、灰皿の中でぐしゃぐしゃに潰して鎮火させる。
テーブルの上にきちんと並べられた、秋が作って置いていった朝食に目を向けた。
橙色の黄身がとろりとした、ふたりが好む半熟の目玉焼き。噛んだらパリッといい音がしそうなウィンナーに、カリッと焼いたベーコン。
相変わらず野菜のない、焼けば食える加工肉ばかりで、栄養素もクソもない朝食だ。
包丁で切る、刻む、煮るなどの手間はほとんど排除されている。できないからだ。
————焼くのだけは、上手くなったなぁ。
不器用で、馬鹿で、ひとつのことしか考えられないできないロクデナシ。
いったい、誰に似たことやら。なんて、苦い笑い。
どうしてもっと上手に言えないんだろう。
危ないことはやめなさい、お前が心配なんだ。
普通の親だったら、きっとうまく諭せたはずだ。あんなに怒鳴るなんてしなくても、言い方ひとつで理解できる年齢になったんだ。
「そこまでわかってんのに、なぁ」
くしゃりと、白毛の増えたぼさくさの髪を手のひらで梳く。
自分のせいで亡くした父親の代わりなんて、大それたことを宣言するつもりはない。
彼の父親は、過去にも現在にもたったひとり。
それでもルカは、たったひとつの希望みたいに、彼が憧れている自分に追いつきたくて必死だった。
『「ルカみたいな、誰かを救えるカッコいいヒーローになりたかった」』
秋のその言葉がなによりこころに深く突き刺さり、ものすごく痛い。
俺はそんな、立派な人間じゃない。
人がひとり死んだってふたり死んだって、本当はなんとも思わない人でなしだ。これまで助けられなかったその命、みんな覚えているわけじゃあない。
でも。
お前が憧れてくれるなら、命を捧げてでもなりたいんだ。
小さかったお前が憧れている、『絶対無敵の神父さま』に。