接触
転生して早速やったことは人殺しだった
楽しそうに子供を殺そうとする男に思わず殴り掛かった
吹き飛んだ男に我を忘れて顔を殴った
それだけで男の顔は無くなってしまった
「なんてこった・・・・」
完全に殺人犯じゃないか俺
「3、3uqf0qdqa6qr:wh;qkt?」
言葉も通じない
「慌てなくていいよ。彼女たちは君に感謝してるだけさ」
森の奥から声が聞こえる
「遅くなってごめん。僕が君の補佐天使のクインリイだよ」
「あんたが?」
「w、wyd!7fl3uqt@9:@yk!」
女剣士がなにか驚いている
「あれ?もしかしてこの世界の言葉わからない?」
「全っ然わかんない」
「え~・・・そんなミスまでするの?そんなんだからいつまでたっても23位なんだよ・・・」
天使は美しい容姿をしていた
セミロングの黒髪に中学生くらいの体つき
性別は判断できない
純白の翼に
金色の瞳
頭には輪っかが付いていた
「じゃあとりあえずこの世界の言語を君の頭にインストールするよ」
「助かるよ、どれくらいかかる?」
「40歳の脳みそは凝り固まってるからねぇ・・・一か月はかかるんじゃないかな?」
一か月もこの世界で言葉が通じないのか
逆か
一か月程度でこの世界の言葉がわかるようになる、が正しいのだろう
「とりあえず今は僕の核と君の脳を同期させるよ」
「するとどうなる?」
「僕が聞こえる範囲ならお互いの言葉がわかるよ」
便利だな
「えっと・・・これで会話できるようになったか?」
「あ、はい、わかります。あの・・・助けていただいてありがとうございます」
実際は助けたわけではない
あの男に腹立てて殴っただけで女のことなんて考えていなかったんだ
まぁ黙ってた方がいいだろう
「とりあえず事情を説明したいのですが。今はここを離れたほうがいいと思います。ついて来て貰ってよろしいですか?」
「それがいいだろうな」
「彼がそれでいいなら僕もそうするよ」
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この鎧のおかげなのだろうか
自慢にならないが生前の俺は運動音痴だった
あと中年だからとか関係なくスタミナもなかった
それが森を抜け、王国国境?を出るまで何の疲れも感じなかった
天使のクインリイは飛んでついてきた
腕には幼いエルフを抱きかかえて
テウルネスという名前だけ教えてくれた女は息を切らしながらもこちらと変わらぬ速度で走り続けた
そうして国境を越えた先にある林で休息をとることになった
「ゲホッゲホッ・・・ウェ・・・」
「お、おい、大丈夫か?」
テウルネスは足を止めると蹲り咳き込む
「ゲフッ・・・すいません魔法が切れたようで、一気に疲れが」
-彼女は魔法で一時的に身体能力を強化して疲労や痛覚を無くしてたんだ-
なるほど、脳内麻薬みたいなものか
あとどうやって喋ってるんだお前は
-君の脳と僕の核を同期させたって言っただろ?意識に直接語りかけてるんだよ。この方がいろいろと都合がいいことも多いんだ-
確かにそういう状況もこれから起きるのかもしれないな
とにかく説明を受けたほうがいいんだろうが
-僕が説明したほうが早いんだろうけどあまり最初から知りすぎてると要らぬ誤解を受けかねないね。基本補足説明だけにしとくよ-
それで頼む
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10分くらいだろうか、テウルネスは落ち着いたようだ
「申し訳ない。お待たせしました」
「構わないさ。」
テウルネスは姿勢を整える
「天使を仕え、神威の力宿す鎧を纏う。あなたが予言に言われた黄金の瞳で間違いはありませんか?」
黄金の瞳?
-君の兜を解除させてもらうよ?-
え?
「使命を果たす騎士テウルネス。その目に彼の戦士の瞳を焼き付けるがいい」
クインリイの言葉と同時に俺の兜が消失した
その瞬間テウルネスは頬を赤らめジッとこちらを見てくる
エルフの少女も同じ反応である
-君は生前と違う容姿になってるんだよ。この世界を救う英雄に見合う容姿にね-
どうせ生前の俺は不細工だよ
-拗ねない拗ねない。見た目なんて第一印象のための者さ。最後は中身だよ-
「あっ!・・・失礼しました。その黄金の瞳、間違いなく予言の戦士」
「理解したかい?では神に誓って嘘偽りなく君の役目を話すがいい」
勝手に会話が進んでいく。置いてけぼりである
「私は南西帝国皇帝陛下直々に使命を託され貴方を迎えに来た者。テウルネス・フェム・エスタリウス。皇帝陛下直属の暗部でございます」
「使命・・・」
「はい、皇帝陛下と僅かながらも複数の貴族は現在の世界情勢を憂いております。そして予言は貴方がその解決をしてくれると」
憂いの内容にもよるが
-そのエルフだよ、この世界は今ニンゲン至上主義で他種族を道具として支配してるんだ-
奴隷か
-奴隷のほうがまだましさ、扱いは完全に家畜だよ-
「ヒトの大多数はもはや外道に堕ちています。そしてそれを悪とは思いません」
「俺にエルフ達を解放してほしいと?」
「はい、帝国の共生主義も頑張ってはいるのですが、やはり他種族はヒトに不信感を抱いておりまして。上手く行っておりません」
「憂いはそれだけじゃないだろう?」
「・・・・」
クインリイが指摘するとテウルネスは完全に黙ってしまった
一呼吸すると
「・・・予言では、貴方は亜人に希望を与えヒトに絶望を与えると。外道に堕ちたヒトは仕方ないにしても亜人との共生を夢見る人々には手を下してほしくないのです」
要するにニンゲン全てを悪人とせず、悪い人間だけ罰してほしいと
-大体それであってるね。まぁ君の基準で考えるとニンゲンの七割が罰すべき対象なんだけど-
ひっでぇ話だな
「とりあえず共生派と会わなきゃどうにもならんな。行動はそのあとだ」
「承知した。私が責任を持って帝国に案内する」
-そこのエルフはどうする?-
連れて行くしかないだろう
-ここから帝国までは結構遠いし街をいくつも通ることになるよ?トラブルになるかも、エルフは目立つから-
とりあえず変装でもさせるしかないな
「まずその子に服を買ってあげたほうがいいだろう」
「あ、ああ。そうだな」
-あと君の武器も用意しなきゃ、いつまでも殴ってるわけにもいかないよ-
そこで問題が出るわけだが
「俺お金ないんだけど君たちいくら持ってる?」
「僕は持ってないよ」
エルフの少女も持ってるはずがないし
「申し訳ありません。実は・・・森から逃げるとき財布を落としてしまったみたいで」
え・・・全員無一文?
-僕と君は大丈夫だよ空気中の魔力を吸えば常に健常でいられる-
こっちの二人は
-餓死かな?-
「帝国に戻る前に金銭を稼がなきゃならんか」
「では冒険者ギルドに匿名で依頼をこなすのがいいかと」
RPGかな?
-殆ど君が思ってる通りで間違いないよ。冒険者登録はしないほうがいいね。身元がばれたりすると困る-
こんな剣と魔法の世界で違法就労か・・・・
「ん~・・・とりあえず俺とクインリイで金を稼ぐか」
「貴方がたにばかり負担させるわけには・・・」
「彼は強いから大丈夫だよ。もちろん僕だって魔法は多数使える」
「しかし・・・」
「何よりこれは適材適所だよ」
-君、エルフの少女の世話できる?-
無理だな
-それに君と僕が離れたら他の人との会話もできなくなる、そう考えると君と僕は常に一緒に行動しなくちゃならない-
そうなるとギルドの依頼はテウルネス1人でこなさなきゃならないか
-3人で行けば楽だけどエルフのお守りがいなくなるし、攫われるかもしれない-
「わかった。せめてあなたにはこの剣を渡しておこう」
「大丈夫なのか?」
「短剣も持ってる。余程のことが無ければ自衛もできるさ」
「・・・・わかった。できるだけ早く戻ろう」