人生の終わり
目を覚ますと体はとても軽やかだった
眼鏡を付けていないのに視界ははっきりと
40を超えてから寝起きに喉に纏わりついていた胆は感じられなかった
何より空を飛ぶような気持ちよさ
「おはようございます」
そして1人暮らしを始めて聞くこともなくなった朝の挨拶
とても澄み切った女性の声だ
・・・まて
冷静に考えると色々とおかしいだろ
そして起き上がり周りを見渡す
周囲には何もなかった
部屋
壁
天井
床さえ存在しなかった
「そろそろこちらの話聞いてもらえます?」
声の主は目の前に
18から20くらいだろうか
腰まで伸ばした金髪
真っ白なドレス
まさに美しい女性だった
「ごめん、何がどうなってるのか教えてくれ」
「そうですね。昨日のこと覚えてます?」
昨日・・・
仕事が終わって・・・電車で帰ろうとしたら酔っ払い同士が喧嘩してて
そのあとが思い出せない
「う~ん・・・じゃあこちらから説明しますけど。冷静でいてくださいね?」
女性は姿勢を正して説明を始める
「貴方はその酔っ払いの仲裁に入ったんですが。逆上した二人に殴られたんです。その勢いでホームから落ちて、・・・・その・・・・電車で真っ二つに・・・・」
そうだ・・・電車が目の前に
理解したとたん吐き気がする
「落ち着いて!落ち着いてください」
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落ち着くまでに10分くらいかかったのだろうか
「落ち着いたようで何よりです」
「つまり俺は死んで。ここは死後の世界ってことか?」
女性は首を横に振る
「あなた方が考えるあの世、天国や地獄と言うものは存在しません」
「存在しない?」
話は続く
「万物死に至った時、魂は1つの場所に纏められます。これを我々は魂の坩堝と呼んでます。その坩堝で魂は混ぜ合わせられ新たに魂を創造、生命誕生の際に現世に出ていきます。ここまでは理解していただきましたか?」
無言でうなずく
「ただし例外がありまして。いわゆる善人、善行や徳の高い生命はあなたのように選択権が与えられます」
「それはおかしい、俺はそんな善人でもなければ徳の高い人間でもない」
そもそも人間自体そんな高尚な存在ではないというのが俺の考えなんだが
「生前あなたに心を救われた命があります。その子たちが死後あなたに徳を譲渡したんです」
「誰だそれは?」
「それは残念ながら教えられません。人間ではない。とだけ」
話は続く
「で、その選択権なんですが。単刀直入に言うと蘇生です」
「生き返れるのか?その、体が真っ二つでも?」
返答は微妙なものだった
「生き返らせることはできます。でも現代社会で上下に分かれた人間が何も問題なく蘇生するとなれば・・・」
「いろいろと問題になる?」
申し訳なさそうに
「残念ながら・・・ただし代わりの案があります」
「聞かせてくれ」
「異世界転生です」
一気にラノベみたいになってきたぞ
「ちょっと長いけど説明しますね。あなたの住んでいた世界以外にも並行して別の世界が存在するんです。その世界にはそれぞれ管理する神が居まして、それであなたを転生者としてスカウトしに来たんです」
「俺を?」
「はい、実は私は最近その世界の主神になったばかりでして、前任者があまりにも適当だったおかげで下位の神や転生者の子孫のヒトビトによって原生種族が絶滅しそうなんです」
転生者の子孫ね・・・やっぱりロクでもねぇことしかしねぇな人間
「で、俺の役目は原生種族の保護?」
「保護でも支配でもお任せします。彼らを絶滅させないようにしていただければ・・・それで言いにくいことがありまして」
まだなんかあるのか
「普通ならここでチート能力とかすごい武器とか魔法とか神様権限で授けるシーンじゃないですか?」
「そうだね」
「すいません、手作りの鎧くらいしか用意できませんでした」
「選択権があるって言ったよね?放棄で」
女性はしがみついて懇願してくる
「すいません本当にすいませんまだ下っ端なんでいいものは全部先輩たちに持っていかれちゃうんです!この鎧しかないんです!でも一生懸命作ったんです!」
「わかったわかった。とりあえずその鎧で何とかなるんだな?」
「と、とりあえず不壊属性は付与できました。なので防御に関してはなんとか・・・」
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「それでは私が管理する世界に送らせていただきます」
「・・・あぁ」
「あなたの生前の世界とはいろいろルールが異なるため補佐として天使を一名派遣しています。現地で合流して問題の解決をお願いします」
「現地で?何でここでじゃないんだ?」
「ではあなたの人生に幸あらんことを」
「おい、無視か」
「いってらっしゃいませ~」
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周囲の風景が突然変わる
どうやら森の中らしい
「クソ、まだ聞きたいことがあったのに」
文句を言いながら自分の姿に気付く
「これが例の鎧か・・・・」
とりあえず天使とやらに接触しないといけないわけだが
・・・・どこに行けば会えるんだよ
「とにかくこの森を出よう」
森の中には小さな道があった
そこを辿っていけば出られるだろう