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家での居場所

この本宅へ来てどのくらいたっただろうか。

ご挨拶の練習、私を飾り付ける為の衣装選び、カナタのセクハラ、

アイール達の嫌がらせ、使用人達の陰口、そして夜がきて、また朝がくる。

この繰り返しの日々。


相変わらずこの家での私の立場は一部を除いて無に等しい。


今だってお母様の目を盗んでカナタが私を抱きしめている。


「お姉様、お父様はお姉様を嫁がせる算段を色々しているようだけど、僕がそうはさせないよ。

お姉様は僕とずっと一緒にいればいいよ。」


「そんなこと幼いカナタに出来るわけないでしょう?」


「幼い?悪いけど僕より幼く見える姉様には言われたくないなぁ。

背だって僕のほうが高いし、力だって僕のほうがあるよ。

それに僕はもう9歳だ。あと何年かすれば代替わりさ。

お父様には女でも与えて隠居でもしてもらえばいい。」


「・・・そうね、その通りだわ。」


「大丈夫、僕に任せて。お姉様は何も心配せず、ただ僕を愛してくれれば良いよ。」


ほら、と言わんばかりにぎゅっと抱きしめられる。

ちょっと苦しかったけど、ここで突き放せば後々面倒になる。


以前、つい突き放してしまったことがある。

イライラしている時に、あまりにもベタベタしてきてつい

「もうやめてよ!私に構わないで!放っておいてよ!」

と部屋から無理矢理追い出してしまった。

セクハラまがいの行動に慣れもあった。

驕りもあった。

少しくらい冷たくしたって大丈夫だろう、と。



翌日の朝食に少量の毒を盛られたスープが出た。

命に関わることではなかったけれど、軽い吐き気と頭痛が半日続いた。


庭に咲いていた私の好きな小さな花が無残に枯れていた。

そこだけ除草剤をまかれたのだろう、他の花は綺麗に咲いていた。


爺とナターシアが急にお使いに出さて、今日一日は本宅に居ない。

別に爺とナターシアじゃなくてもいい雑用なのに、外に出された。


アリスとメイの頬が腫れていた。

メイド達に粗相をしたと咎められ打たれたのだと泣くのを我慢しながら言う。

その粗相だっていつもなら口頭で注意されて終わるようなことなのに、今日に限っては違うようだった。

「こんなの全然痛くないです!すぐ治りますから気にしないでください。」

「気にしないでください、機嫌が悪かっただけでしょう。」

二人の痛々しい笑顔が私の胸を苦しくした。



アイール様達が私のことをこんなにも憎んでいると笑いながら使用人達が噂しているのを聞いた。

そして、まるで自慢するかのように我先にと話し始める。


「アイール様に頼まれた今朝の毒盛りは上手くいった。暫く具合悪そうにしていたよ。」

「あの子の好きな花を私は枯らしてやった。落ち込んでいたよ。」

「あの邪魔で生意気な子達を虐めてやった。あー、スッキリした。」

「そういえば昨日カナタ様が言ったんだって?放っておいてやれって。好きにしていいってさ。」

「ああ、そうらしいよ。なんでもお嬢様に放っておいてと、部屋から追い出されたんだとさ。」


「今まではカナタ様が味方だったから何も出来なかったけれど、それももう終わりみたいだね。

だってこんなにしても何も言われない。咎められない。」


「お嬢様も馬鹿なことをしたもんだよ。

今まで無事だったのはカナタ様が守って下さっていたからなのにね。」



その夜のこと。

私はカナタの部屋の前に立っていた。

「カナタ、話があるの。」

「僕にはないよ。」

「謝りたいのよ、私が悪かったわ。」

ドアが開く。

「ふーん、それで?何が悪いってわかってんの?」

「もう追い出したりなんかしないわ。」

「それだけじゃないだろ?僕はお姉様が大好きだから言っているのに、あの言葉はないよねぇ?」

「・・・ごめんなさい、カナタは私のために言ってくれていたのに。」

「分かってくれたなら良いよ、許してあげる。

だけど、それだけじゃちょっと足りないかな。」

「足りない?」

「お姉様。僕はいつもお姉様のこと大好きだって言ってるのに、お姉様は僕に何も言ってくれないね。

お姉様は僕のことどう思っているの?」

ん?と無邪気な笑顔が私に問いかける。

弟がこんなにも怖いと感じる私はおかしいのだろうか。

まるで捕食される側の気分。

ゴクリと息を飲む。

「好き?・・・まさか嫌いなんてことないよねぇ?」

正解は分かっている。

彼が望む言葉も行為も全て。

「・・・もちろん大好きよ、カナタ。」

「そうだよね、僕も大好きだよ。今まで言ってくれなかったのは恥ずかしかっただけでしょ?」

「そうなの、私、こういうの免疫が全然無いから。」

「ふふふ、大丈夫。僕は全部わかっているから。僕が全部お姉様に教えてあげる。

だけど、それは僕が当主になってお姉様を本当の意味で僕だけのものにしてからかな。

それまでは残念だけどキスまでにするよ。

恥ずかしがりやのお姉様、さぁ僕にキスしてくれる?」


少しだけ背伸びをして、キスをした。


これがこの世に生まれて初めてのファーストキス。


皆を守れるなら何でもするわ。

たったこれだけのことで誰も傷つかないのなら良いじゃない。

弟の思うがままになったって。

未来のことなんて今は何もわからないけど、今が守れるなら良いじゃない。



笑って誤魔化せばいい。

自分自身ごと騙してしまえばいい。


だけど、心のどこかで叫んでいる。

早く誰かきて、お願いだから。

助けて、お願いだから。



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