シェル
夕食一緒に取りなさいと母の執事が呼びにきたがお断りした。
その晩は疲れたと言ってさっさと寝たことにした。
「あら、そういえば私の専属の色は・・・それって何色っていうのかしらね。」
「何色でもない、シェルですって。酷いのですよ!お嬢様、聞いてください!」
「アリス、うるさい。」
「だって悔しいじゃないの!あんまりだわ!
あのメイド副長、アイール様のご機嫌を取りたいからって色もない低価なシェルをよこしたのよ!」
アリス達はナターシアがメイド長と話し合っている間に、そっとメイド副長からシェルの色を渡された。
最初から期待はしていなかった。
高価な色が持たされるはずもない。
私たちの主は、この家では忘れられていた、どうでもいい子なのだから。
宝石でもなく金でも銀でもなく、安くどこでも手に入るシェル。
あんまりな仕打ちにメイド長を見ると目が合った。
冷たくどうでもいいというような目だった。
横ではナターシアが静かに首を横に振った。
何も言えなかった。
「アイール様達が高価な真っ白の真珠で、なんでお嬢様はただの貝殻なの!おかしいわ!」
「アリス落ち着いて。怒って体力を使っても何もならないわ。疲れるだけよ。」
ぷんすか怒るアリスをたしなめるメイ。
「海のシェル、か。きっと今頃アイール様達は私を馬鹿にしているんでしょうね。」
「お嬢様、」
「きっとメイド副長はアイール様の手の者なのでしょう?
アイール様に忖度して媚びをうったのね。一緒になって私を嘲笑っているのが目に浮かぶようだわ。
メイド長はお母様側だから面倒ごとを嫌うだけ。私なんか守っても何の得にもならない。
だからただ黙っていただけ。」
「それは、わかりますけど・・・。だけどナターシア様が何か言ってくれたって、」
「ナターシアは全て知っていたからアリスに黙ってて合図したのよ。」
アリスの胸元で光るシェルをゆっくり撫でる。
「だけどねアリス、メイ。私はシェルが結構好きよ。キラキラして何色にもなって綺麗じゃない。
それに海で好きに生きているのよ。狭苦しい貝の中でも岩の中でもなく、自由で広い海で。」
ベッドの傍でメイが髪をとかしアリスがマッサージをしてくれているとドアの向こう側から声が聞こえた。
「カナタ様、お嬢様は疲れてお休みになられたと先程お伝えしたはずです。」
「お姉様、就寝の挨拶に参りました。ドアを開けてください。」
「ですから、」
「お姉様がもう寝たって嘘だろ?ここを開けろ。」
カナタは私に取り次げと声を荒げたらしいがナターシアが拒否をする。
ナターシアからは何があっても寝たふりとしていてほしいと言われている。
ドアを開けたら何があるかわからない。
そんなやりとりを思い出しているとカナタの執事が迎えにきたらしい。
「カナタ様、そろそろお休みなられませんと。
明日は朝早くから奥様とお出かけになられるご予定になっております。」
「あー・・・そういえばそうだっけか。
しょうがないか、それじゃ行くよ。」
足音が少しずつ遠ざかっていく。
「お嬢様、忙しい一日でしたね。」
「お前たちもね。」
三人目は合わせ疲れたように笑いあった。