舞踏会 3
「お嬢さん、僕と一曲踊って頂けますか?」
「ええ、よろこんで。」
女性の美しい手が男性の手を取り、ニッコリと微笑んだ。
「ほら、あちらにいるのが皇太子様よう。」
「そして隣にいるのは・・・あら、怖いこと。」
皇太子と談笑していた女性達が逃げるように散ってゆく。
そして綺麗だがちょっとキツめの女性が皇太子の腕に纏わりついた。
「ミルラ妃様のお出ましお出ましよう。」
「ミルラ妃って?」
「後宮の裏主みたいなもんだよ、家が権力者だから威張り散らしてる。」
「結構えげつないこともしているって噂よう。」
コソコソと話をしながら皇太子とミルラ妃を見ていると、皇太子と目が一瞬合った。
ハッとした驚いたような顔で私を見て、すぐに逸らされた。
なんだろう。
気のせいかしら。
「ミルラ妃ってそんなに偉いの?」
「家柄がねぇちょっと厄介なのよう。前国王様の寵妃の生家で、現国家権守隊の隊長の親戚なの。」
「前国王様の寵妃だった頃に今の隊長の座を頂いたらしい。だから大抵の悪事は露見される前に隊長が握りつぶしているという噂もある。」
「随分なやり手だったのね。」
「そうよう、持ちつ持たれつな関係みたいよう。」
随分と厄介な人物もいるもんだ。
出来れば一生関わりたくない相手。
ぼんやりとそう考えていると、後ろからトントンと肩を叩かれた。
「申し訳ございません。少し来ていただけますか?」
真面目そうな男性が後ろに立っていた。
「あれ?兄貴?」
「あらイリアのお兄様じゃありませんの。」
「なんだ、一緒にいたのはお前達だったか。後姿だったから分からなかったよ。随分上手く化けるもんだな。」
「うっさいな、そんで兄貴は何でここにいんの。」
「・・・おい、イリア、ここは家じゃないぞ。その言葉遣いはまずいだろう。」
「そうですわね、お・に・い・さ・ま!」
イーっと子供のようにむきになってイリアが言うのが可笑しくてちょっとだけ笑ってしまった。
「用があるのはお前達じゃない。君なんだ。」
「え、と、何でしょうか?」
「兄貴ナンパ?」
「馬鹿、ちげーよ。皇太子様がお呼びなの。」
「「皇太子様が?!」
鼻息を荒くしてウテルが興奮気味に言う。
せっかくの可愛い顔が・・・まぁ、興奮していても可愛いか。
「私何かしてしまったでしょうか。先程実は目が合ったような気がしたのですが・・見ていたのが不快だったのでしょうか。」
もしやご機嫌を損ねてしまったのでは。
イリアとウテルは可愛く綺麗だが私はそこまででない。
二人に比べれば私はきっとブスだ。
見てんじゃねーよ、ブス!と思われたのでは。
どうしよう、行きたくない。
だって罵られるために会うのでしょう?
私マゾじゃないから嫌です。
「いえいえ、勘違いなさらぬように。恐らくその逆でしょう。
とりあえずご一緒に来てください。
もし何かありましたら必ず私がお助けしますので。」
渋っているとイリアとウテルが私の背中を押した。
「大丈夫ようミネラ。イリアのお兄様って意外に頼りになるわよう。安心して行ってきなさいよう。」
「何かあったら兄貴を盾にして逃げてこい。」
そこまで言われてしまえばついて行くしかない。
「ううう、それじゃあ、すぐに帰ってくるから。待っててね。」
「それではこちらへ、どうぞ。」