舞踏会 2
それじゃあ着替えましょう、という二人に私は首を傾げた。
「着替えるって何に?」
「何って舞踏会用のドレスに決まってるじゃない。」
不思議そうに私を見つめ返すイリア。
「あら、イリア、それはちょっと意地悪よう。
ミネラは今日が舞踏会デビューよ、知らないのは当たり前よう。
私達は親の付き合いでちょっとだけ隅のほうに出たことがあるから知っているだけ。」
「あ、ああ、そうだったね。ごめんね。
えっと、今私達が着ているものは結構あっさりしているでしょう?
舞踏会とか夜のパーティではもうちょっと派手なものが常用なんだ。
そうだね、例えば、ほら、あんなの。」
目線の先には確かに派手目なドレスに着替えた少女達がいた。
たしか先程まではクリーム色の優しい色をしたドレスを着ていたはずの子が、薔薇の刺繍が施された深紅のドレスに着替えている。首元にはパールのネックレスが輝いていた。
「私、どうしましょう・・・。
知らなかったから、他のドレスなんて持ってきてないわ。」
「あら、叔父様ったらそこまで気が回らなかったのかしら。」
「男なんてそんなもんだよ。家の兄貴や弟みてると分かる。」
「そうかしらねえ、家は皆細かいわよう?」
「それはウテルの家が特殊なんでしょうが。気配り出来すぎなの。」
爺に相談してこようか。
いや、だめだ。
爺にはさっきお父様に付いていっても大丈夫って言ってしまった。
恐らくもう自分の仕事に戻っているだろう。
「国のほうでも貸衣裳を準備はしているが・・・」
うーん、とイリアが私とウテルを見比べる。
「ウテル、どうせあの大きな荷物の中身はいつものだろう?」
「そうよう。皆が持っていけというんだもの。私も好きだし、ね?」
「あんなに着替える必要があるの?と私は毎回思うけどね。
まぁ、それが今回役になった。憂いあれば備えなし、かな。」
「もう、イリアだって女の子なんだからもうちょっと気にしてもいいと思うわあ。」
「私はどうもそっち方面は得意じゃない。あんなにいっぱいのフリルやレースなんて邪魔じゃない?」
「まぁたそんなこと言っちゃって。お母様が泣くわよう。」
「・・・とりあえず今はその話はおいといて。
いけるんじゃないかな?大体同じくらいだ。ちょっと丈を直せばいけるね。」
「そうねえ、そうしましょう。」
二人の会話についていけず黙り込んでしまった私が不安そうにみえたのだろう。
安心させるかのようにウテルが微笑む。
「ミネラ、大丈夫よう。私のを貸すわ。」
「え、でも、なんだか悪いわ。国で貸衣装もしているのでしょう?
私、借りてくるわよ。」
「だぁめ。」
「国で貸しているものは表向きは皆に貸し出してはいるが、暗黙の了解で庶民用のものなんだ。
舞踏会用のドレスはそんなに安いものじゃないからね。庶民に負担をかけるのはあまり芳しくない。」
「ほとんどの方にとっては一夜で終わるかもしれない夢ですもの。
そんな一夜の夢に散財するのはいけないわぁ。まぁ上手くパトロンを見つければ違うでしょうけど。」
「それを君のような家柄の者が着るのはちょっと、ね?」
「貸衣装を着ているなんて噂が流れたらお笑いものよ。馬鹿にされちゃうわあ。」
「どこで誰が見ているか分からないからね。」
煌めく宝石、細かく細工されたレース、大胆なフリル。
クリームで磨かれた素肌にパールの粉が輝き、靴には華奢なガラスのヒール。
「そうよう。私達にとっては初陣のようなもの。
頭から爪の先まで、どれだけ豪華で流行の最先端を着飾れるかが勝負。
目指すは社交界の華よ。」
「ウテルは大袈裟だね、まぁ多少頑張らないと侮られるってことさ。」
ふんっと気合いをいれるウテルをイリアは呆れたように見る。
「本当の意味での社交界デビューは私達も同じよう。