ご挨拶 3
やっと最後の一人が到着し移動は始まった。
一部屋に私達は集められると、先程私達を集めた男性が大きな紙を広げ
「それでは今から言う順に並んでください。」
と、家の名を呼ばれ
「この順番でご挨拶していただきます。
作法は既にこちらでお伝えしているとおり行ってもらいます。
ランリー家が最後になりますので、ランリー家が終わり次第、最後に皆さまで王家の方々へ一礼。
その後、一旦退場しこちらへお戻りして頂きます。
それでは皆さま、失礼致します。」
大広場に通されセレモニーが始まり、音楽隊のファンファーレが響き渡る。
「あの娘はどこの家かな?」
「はっ。皇太子様、あの者はラーテル家です。」
ああ、また始まった。
女好きの皇太子の青田買い。
隣で皇太子妃は呆れるようにその光景を眺めていた。
ご挨拶なんて建前は王家への忠誠の証とか、成人としての行事とは言うけれど
要するに本当のところは年頃になった王族の相手探しでもある。
または国をあげての大規模な合コン。
転生する前に一度だけ行ったことがある合コンは散々なものだった。
楽しくもないし割り勘だったし。
「どうしたイル、気分でも悪いのかい?」
「いいえ、大丈夫ですわ。皇太子様。」
「そうかい?無理しないでね。」
ニッコリ微笑み皇太子妃の頬を優しくなぞり背中を撫でる。
皆には仲睦まじい様子に見えるように。
ただし、目線は向けず小声で気になる娘を訪ねながら物色中。
いよいよ私の番がきた。
ゆっくりと半歩前へ、そして目線を下げ深く一礼のまま。
「ブリナー家でございます。
この度は王家の方々へご挨拶できる名誉を承ることができ、大変嬉しく思います。
誠にありがとうございます。王家への忠誠を誓います。」
「面を上げよ。ブリナー家の娘と言ったかな?」
「はい、さようでございます。」
「ほうほう、たしか噂では私に名前をつけて欲しかったと聞いたが?」
「大変厚かましく身分不相応なことでありますが、両親の願いなのです。
もし叶えていただけるならば、この身を王家に捧げましょう。」
声が震えてしまい、頭に用意していた台詞が消えてゆく。
私なんかが王家にとって何の得にならないのに、身を捧げましょう?
もう何を言えばいいかわからなくなってゆく。
そんな私を王妃様は可哀相に思ってくれたのだろう。
「国民は全て私達の子ですわ。その子がそこまで言うならば叶えてあげるのが親というもの。
それに社交場に出るのが今回初めてなのでしょう?私たちからのプレゼントにさせてちょうだい。
ねえ、あなたそこまで大事にされた愛娘の名付け親になれるなんて滅多にないことよ。」
「そうだな、王妃がそこまでいうならば。」
「だけど王様が名付けるとなると少し問題があるの。
だから私からでも良いかしら?」
「は、はい。王妃様、ありがとうございます。」
「それじゃ・・ミネラ、なんてどうかしら?私に娘がいたらつけたかった名前なの。」
「王妃よ、本当に女の子が欲しかったのだな。」
「やんちゃな男の子ばかりでしたからね。あんな可愛い娘がいたらと思うこともありましたわ。」
ミネラ、それが私の名前。
頷く私に王妃は微笑む。
「ミネラに多くの加護がありますように。
そうそう、ミネラ、名付け親の私から一つだけ忠告を。
女の子が簡単に身を捧げるなんて言っては駄目よ。」
そうして最後のランリー家が終わり、先程いた部屋に戻る。
緊張が解け、ふわふわとした気分のまま説明が始まる。
「ミネラ、話聞いてた?」
一瞬私に話しかけているか分からずいると、イリアにとんとん、と肩を叩かれた。
「あ、ごめん。聞いてなかった、かも。」
「この後は自由参加の舞踏会ですって。」
「王家の方々も参加するらしいわよう。見初められたらどうするう?」
ウテルがニヤニヤと笑いながらドレスをひらひらさせた。